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「子供はいつ生まれる」
「だいたい半年後」
「半年後か。子供が生まれてから十日ぐらいであいつらがやって来るだろう」
「その時は俺たちが教えるから。いっしょに戦おう」
「親子三世代でな」
「わかった」
「やっとお前と話すことができた。十年近く頑張ったからな。その甲斐があったと言うものだ」
「とにかく俺たちはもう帰る。なぜだかわからんが、長い間この世にとどまることができないんだ」
「この世界にもいろいろとあるみたいでな」
「それじゃあ」
「また会おう、誠一」
影は消えた。
木梨が何かを言う前に。
――それにしても。
少し前まで呪っている側ばかりと思っていた影が、父と祖父だったなんて。
どうりでこのところ本気で怖いと思わなかったわけだ。
――そうなると。
かなり希望が見えてきたようだ。
子供が生まれたら自分は死ぬのではないかとずっと思っていたのに。
木梨は隣で寝ている妻を見た。
夫が死んだ父と祖父と三人で話をしていたなんてことには気づかず、安らかな寝顔だ。
この寝顔をなんとしても生きて守らなければ。
木梨は強く心に誓った。
子供は順調に育ち、ついに出産のときが来た。
木梨は仕事をやめて職場から病院に駆け付けた。
母も来た。
そして産まれた。
男の子だ。
喜ぶ木梨と妻をしり目に、母は怖い顔で何も言わなかった。
看護婦が怪訝がるほどだったが、事情を知っている妻は、母には触れなかった。
木梨は父と祖父の亡霊のことを、母にはあえて言わなかった。
信じてもらえるかどうかも怪しいし、なにより子供が産まれても木梨が生き続ければ、母も安心するだろうと思ったからだ。
子供が産まれた次の日、木梨は仕事に出た。
妻は子供とともにまだ病院だ。
――あと十日後くらいか。
不安がないと言えばうそになる。
落ち着かない気持ちでいっぱいだ。
木梨は仕事で普段はしないようなミスをした。
上司も少し不思議がっていた。
二日が過ぎ、三日が過ぎ、そしてとうとう十日目になった。
その日のことだ。
昼休みに木梨はふと席を立ち、工場の外に出た。
なぜ外に出たのかは、自分でもわからなかった。
――もしや……。
そう思い、工場に帰ろうとした。
しかし身体が言うことを聞かない。
勝手に違う方向に歩いてゆく。