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その声の大きさも、これまたわずかではあるがこれまでよりは大きくなっていた。
しかしいまだに何を言っているのかはわからない。
木梨は影がより自分に近づいていると感じた。
――いよいよやばいのかも。
そう考えたが、思っていたほどは怖くはなかった。
それはこの影に対してだ。
木梨はこの影に対して今はそれほど恐怖心を抱いていない自分に気がついた。
なぜなのかは木梨本人にもわからなかったが。
木梨はついに結婚することを母に告げた。
母は長く黙っていたが、やがて一言「死なないで」とだけ言った。
母に告げてから半年後に結婚式を挙げ、そしてその数か月後に妻が妊娠していることがわかった。
自分の子供ができたことは嬉しい。
それは本当だ。
しかし木梨は当然ながら全力でその喜びを表現できなかった。
子供ができたと知った日に、木梨は金縛りにあい、いつもの通り影が二つ出てきた。
影が言った。
「誠一」
「誠一」
木梨は驚いた。
影の声を初めてはっきりと聞いたのだ。
しかもそれは自分の名前を呼んでいる。
「誰だ」
影が答えた。
「おっ、ようやく返事をしてくれたぞ」
「初めてだ。よかったな」
「だから誰なんだ?」
影が言った。
「俺はおまえのお父さんだ」
「俺はおじいちゃんだぞ」
二人とも木梨の聞いたことがない声だったが、そもそも父も祖父もその声は知らない。
わかったことは、それが若い男性の声だということだ。
父も祖父も二十二歳で亡くなっているから、若いと言えば若いのだが。
「お父さんなの、じいさんなの」
「ああ、そうだ」
「やっと話ができる」
「話って?」
「おまえも気づいているだろうが、俺たちの家系は呪われているんだ」
「ひい爺さんのせいで死んだ人たちによってな」
――やっぱり。
木梨は思った。
父と祖父が言った。
「それを知った俺は息子、おまえのお父さんを助けようとしたんだが、あいつらに追い返されてしまったんだ」
「俺もそれには気づかずに、何もしないままだったんだ。じいちゃん一人で戦わせてしまった。でもおまえは気づいてくれた。よかった、何とか間に合った。おまえもいっしょに戦おう」
「いっしょに戦う?」
「息子の時は、じいちゃん一人で戦った。相手は二人だった。この三人の力は、一人一人はほぼ同じくらいだったが、二対一だったので負けてしまった。だから今度は俺と息子とおまえの三人で戦うんだ。
木梨は聞いた。
「俺も。どうやって?」
「霊魂とは魂が肉体から抜けたもの。その点ではあいつらも俺たちも同じだ。そして生きている人間は、肉体と魂が重なっているんだ。それを一時的にお前の魂を肉体から抜け出させて、あいつらとか俺たちと同じになるんだ」
「どうやって?」
「それは俺たちがやる」
「二人でやればできるんだ」
「あいつらに勝ったら、また肉体に戻してやるから何も心配するな」
「あの二人をやっつければ、この忌まわしい呪いはなくなるだろう」
木梨はまた聞いた。
「いつやるの?」