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「ひい爺さんが死んだときに私はまだ生まれていなかったし、メッキ工場はそれよりも前の話だから詳しくはわからないんだけど。そういう話は、うちの人がまだ生きている時に聞いたことがある」
「そうすると、ひい爺さんや爺さんや父さんが死んだのは、みんなその呪いのせいだってわけなの?」
「それは私にもわからない。そうかもしれないし、そうでないかもしれない」
「……」
そこからは特に進展もなく、いつの間にか当たり障りのない話題に移っていた。
木梨は適当なところで切り上げて、家に帰った。
木梨はまたネットで調べてみた。
メッキ工場のことだ。
しかし曾祖父のやっていたメッキ工場と思われる話は、いくら探しても出てこなかった。
祖母の言う通り戦後の混乱期は、作業環境の劣悪な工場など珍しくもなかったのだろう。
時代も古く、工場も大企業にはほど遠い。
ネットでは出てこなかったが、木梨はメッキ工場で死んだ人が木梨家を呪っているのではないかと思い始めていた。
――これは何とかしないと。
木梨はそう思った。
木梨はほどなくして高校を卒業した。
しかし母一人子一人の家庭。
木梨を大学に行かせる余裕などない。
木梨は地元の工場に就職した。
そして同期入社で同い年の女子社員とすぐに仲良くなり、お付き合いを始めた。
もちろん母には内緒だ。
その間も時折金縛りにあい、二つの影を見た。
その陰の正体が、木梨には何だかわかったような気がして。
――あれはやっぱり、ひい爺さんの工場で死んだ工員なのではないのか。
絶対的な確証はないが、なんとなくそんな気がするし、考えてみればそれ以外にはまるで思いつかない。
工場で何人か死んだと聞いたが、あれは二人だったのだろうか。
いつも何か言っているのは、木梨に恨み言でも言っているのだろうか。
木梨と彼女の中はだんだんと深まっていった。
成人式も一緒に出た。
木梨はこの頃から彼女との結婚を本気で考えるようになっていた。
まだ母親には言っていないが。
そんな中、ある日金縛りにあった。
そして影を見た木梨は気づいた。
影が前よりもはっきりしているのだ。
特にぼやけていた輪郭が、より鮮明なものになっている。
――こいつら、前よりもその存在が明確になっているのではないのか。
木梨はそう感じた。
彼女との結婚を考えているこの時期に、なんとも悩ましいものだ。
木梨は呪いを払ってくれるところを探した。
実力が確かと評判の霊能者も立て続けに二人呼んだ。
しかし二人とも「これはだめ」「私には無理」と逃げるように帰ってしまった。
前金は返してくれたが。
そしてお坊さんにも神主にも頼んだ。
お坊さんも神主も、お祓いのようなことはやってはくれたが、果たして効果があったのかはさっぱりわからない。
それでも木梨は頃合いを見て彼女にプロポーズをした。
彼女は泣きながら「はい」と言った。
プロポーズの翌日、また金縛りにあって二人の影を見た。
――お坊さんも神主も、あてにはならないなあ。
そんなことを考えながらいつものように無視をしているときに、気がついた。
これまでこもっていた声がわずかながらクリアになっている。