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木梨はそんな母に、何も言うことができなかった。
彼女とは学校で会うが、木梨を見るとおびえたような顔で露骨に避けるようになった。
まわりの同級生も気がつき、「おまえ、あいつになにをしたんだ」と言われる始末だ。
彼女は気が優しいと同時に、ひどく気が弱くて人一倍怖がりなのだ。
木梨は何もしていないが、木梨の母が酷いことをした。
それで木梨のことまで怖くなってしまったのだろう。
もう修復は不可能かと思われる。
彼女の顔と態度を見れば。
本気で好きだったのにと思ったが、もう遅い。
木梨は傷心の日々を過ごす羽目になった。
それと同時に、こんなことになった呪いとかいうやつに、怒りを覚えるようになった。
こんなことになったのは、木梨のことを本気で心配する母ではなく、呪いのせいなのだと。
木梨は調べた。
ネットでだ。
父も祖父も曾祖父も普通ではない死に方をしたためか、ネットの片隅に載っていた。
まず父。
このことは木梨も知っていた。
トラックに轢かれ、体中を骨折しているのにトラックの運転手に山の中に捨てられ、数日後に亡くなっている。
これは当時、結構騒がれた事件で、日本犯罪史に残るような事件であるため、比較的すぐに見つかった。
そして祖父。
祖父は子供が生まれてから十日後くらいに何故か山の中に入り、崖から落ちてけがをして動けなくなり、死後数日たってから見つかった。
決死の結果は、落ちてから何日かは生きていたようだとのことだ。
これまた山岳死亡事件に詳しい人の間ではけっこう有名な事件で、それゆえネットにも残っていた。
父も祖父もともに大けがをして動けない状態で放置された形になり、その数日後に死んでいるのだ。
そして曾祖父はというとこれもあった。
六十を過ぎて初めて子供ができたが、その半月後に原因不明の病気で死亡している。
身体のいたるところから傷一つないのに出血し、治療を受けたり輸血をされたりしたが、五日後に亡くなっている。
あまりにも異様な症状で死んだので、医に携わる者の間ではちょっとは知られており、これまたネットにあった。
共通しているのは三人とも子供が生まれてから半月後に、それも五日ほど苦しんでから死んでいるのだ。
偶然の一言ではとても片付けられない。
曾祖父の父も探してみたが、何一つ見つけることができなかった。
そうすると、曾祖父のときに何かがあったのか。
木梨は思い出した。
祖父の妻、つまり祖母はまだ生きているのだ。
休みの日、木梨は隣町に一人で住んでいる祖母の家に向かった。
祖母に会うのは久しぶりだった。
「ようきたの」
祖母は満面の笑みで迎えてくれた。
少し世間話をした後で、木梨は単刀直入に切り出した。
「僕のお父さんも、お爺さんも、ひい爺さんも、子供が生まれてから半月後にひどい死に方をした。ばあちゃん、このことは知っているでしょ」
祖母は困惑しながらも言った。
「知っているけど、それがどうかしたの」
木梨は少し語気を強くしていった。
「大げさじゃなくてこっちは命がけだから遠慮なく言うけど、これって原因はひい爺さんじゃないの?」
祖母は迷ったように見えたが、やがて言った。
「それはメッキ工場の人の呪いなんじゃないかとは思ってるんだけど」
「メッキ工場?」
「おまえのひい爺さん、私の義父にあたる人は、親の財産を使って二十代でメッキ工場を作ったんだ。社長、創設者としてね。大戦後すぐのことだったんだが。そしてそのメッキ工場は、安全管理とか作業環境とかがすごくずさんで、何人もの工員が死んだり寝たきりになったと聞いていたよ。行員がそれを訴えても、ひい爺さんはお金の無駄だと言って聞かなかったそうだ。戦後すぐのことだから、詳しくはわからないんだけど。日本中にそんな工場がたくさんあって、その一つに過ぎないくらいにひい爺さんは考えていたみたいだね。それで工員やその家族から、ずいぶんと恨みを買っていたようだね。もちろん死んだ人からも、恨みは買っていただろうし」
「そんなことがあったんだ」
「ひい爺さんが死んだときも、あまりに異様な死に方だったんで、死んだ工員の呪いだと言われていたみたいだから。お医者さんが何人も診たのに、みんな何が何だかわからないまま死んだからね」
「そうだったんだ」