表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/82

海外旅行

 さて。島国であるユースリアまで、どうやって行くか、という話だが。


「別に、海の上、走ればいいじゃん」

「馬鹿なんですか?」

「なんでよ。ナーアだって、そのくらいできるでしょ? 足速いんだから」

「そんなこと、馬鹿以外思いつきません」

「アイネ、馬鹿じゃないもん!」

「……とりあえず、走っていくのは、やめましょうか」


 ノートからルクスに視線を移すと、いつもの笑顔であり、内心を隠しているのだと、一目で分かった。


「――帰ってきたら、色々聞かせてもらうから」

「ええ、もちろん。そのつもりです」


 ユースリア海を渡る手段、となると、船、飛行機、転移魔法陣、鳥渡しあたりがメジャーだ。一応、海底トンネルもあり、電車で行くことも可能だが、海が危険だと分かった以上、海底を通るのは避けたい。なんなら、電車を止めてしまってもいいくらいだが、残念ながら、今の私にその権限はない。


 ――ちなみに、ギルデ宛の、置き手紙は用意してきた。脱走したことのお()びやら、行き先やら、目的やらを書き(つづ)ったものだ。しかし、そのときの私は、ユースリアにエリザクラがいることは知らなかったため、そのあたりの話は記せていない。


 スマホはあるので、連絡はとれるが、電源は切ってある。連絡したところで、位置情報を特定されて、安静にしていろ、と怒られるに違いない。そんなの嫌だ。


「安全なのは、転移魔法陣ですが――魔法効かない方が二人もいらっしゃいますからね」

「じゃあ、ルクスだけ先に行きなよ。私とナーアは走っていくから」

「は? なんであたしも走ることになってんのよ。絶対に、嫌」

「だから――。海上を走るのは、やめましょう」


 普段、温和なルクスが、少し、怒りをあらわにした。声などなくとも分かるほどに、表情が歪んだのだ。


 昔から、ルクスは感情を隠すのが上手かった。それが、こうして感情をあらわにするということは、よっぽど嫌だということだ。


「じゃあ――鳥に乗っていく?」

「鳥はもっとやめましょうか」

「なんでよ。空ならいいんでしょ?」

「……まあ、ちょっと、思うところがありまして」


 思うところとは。気になるが、一旦、置いておくとして。


「んー、それなら、船?」

「船もちょっと」

「もう、何ならいいのよ」

「鳥よりも安全に、空を飛んでいきましょう」


 ――ということで。私たちは、ヘリコプターでユースリアに向かうことになった。ヘリコプターといえば、以前、石蛇から私を守ってくれた眩しい光。あれは、革命教のヘリコプターから発されたものだったそうだ。


「でも、なんでジェット機とかプロペラ機じゃなくて、ヘリコプターなの?」


 と、ヘリコプター内で前の座席に座っているルクスに話しかける。音がうるさすぎて、正直、声が届いているのかどうか、微妙なところだが、そこはルクス。きっと大丈夫だ。


「さあ、なぜでしょうか。ナーアと一緒に考えてみてください」


 唐突に、クイズが始まった。残念ながら、こちらは紙に書かれているので、聞こえなかったフリはできない。


 とはいえ、こういう問題を考えるのは、わりと好きだ。暇つぶしにもなるし。


「維持費とか制作費の問題、ってわけじゃないだろうし。技術もありそうだし、騒音被害、って点なら、どれでも同じだし。うーん。ナーアはどう思う?」

「単にめんどくさいからでは? ヘリコプターなら、ルスファ王国の時代からあったものを再利用できますし。いくら、経済力があるとはいえ、無駄遣いする必要もないでしょうから」

「確かに、それはあるかも。でも、なーんか違う気がするんだよね……」


 ルクスは悩む私たちの顔を、満足そうに眺めている。悔しい。絶対に、答えてやる。


「ヒントは、アイネ様が昔、住んでいた頃と、町並みはほとんど変わっていない、という点ですね」


 ルクスがヒントを出している気がしたので、私はノートから視線を外す。意地でも見るもんか。


「町並み……ふむ」


 ナーアはヒントを受けて、何やら考え込んでいた。私は見てないけど。


 こういうときは、基本から考えよう。飛行機が飛ぶのに必要なものは何か。教国に足りていないものは何か。


「飛行機が飛ぶのに必要なのは、翼と動力でしょ? それから――」

「ああ! 分かったわ、飛行機が飛ぶのに必要なもの」


 最後の一つは、耳が聞こえない私と、興奮しているナーアとで、図らずもハモったらしい。


「離着陸のスペース!」

「正解です」


 そう、セトラヒドナは、かつて、城郭(じょうかく)都市であった。真っ直ぐな滑走路などどこにも存在しないし、意外と、土地面積も狭い。今さら建設することもできなかったのだろう。


「その上、セトラヒドナは、高い壁に全方位を囲まれていますから。飛ぶとすれば、ヘリコプターが一番、使いやすいんです。魔法がよしとされるなら、話は別ですが」

「なるほどねえ。でも、他の場所からじゃだめだったの?」


 別に、セトラヒドナから飛んでいかなくても、どこか、海沿いの空港から出ればいいだけの話な気もするのだが。それか、外に広がる平地に滑走路だけ敷くとか。まあでも、外はモンスターが多くて危険かも。


「水には記憶がある、と言うじゃないですか」

「そうだね。今まで通ってきた土地の成分を含んでたりするもんね」

「え? 水に目がついているわけではないんですか?」


 ――おっと、急にナーアが、メルヘンチックなことを言い出したぞ。これは、夢を壊してもいいものか否か。


「あはは。水に目がついているわけがないでしょう」

「めちゃくちゃストレートに言ったね!?」

「まあ、確かに、そうですけど……」


 世間知らずにもほどがある。がっかりした顔もかわいい。やっぱりちょっと、クレイアに似ている。


「つまり、普段、ふよふよと(ただよ)っているだけのクラゲベスやエリザクラたちにも、記憶があるんですよ」

「へー」

「それから、目もあります」


 いまいち、ピンとこない。結局、何が言いたいのだろうか。


「――つまりですね。彼らは、水があるところなら、どこからでも僕たちを監視できるんです」

「はえ?」

「うわ変態気持ち悪」


 え、そういうこと? 確かに、空気中には水蒸気があるわけで、着替えとか見られてるかもしれないけど――いや、ちゃんと変態だった。


「とはいえ、水が海に帰らない限りは、彼らも記憶を取り込むことができません」

「でも、記憶があるからって、なんでダメなの?」

「アイネ様が、皇帝陛下の娘だからですよ。昔、皇帝陛下がクラゲベスを掃討(そうとう)したというのはご存知ですか?」

「そういえば、ギルデがなんか言ってた」

「クラゲベスたちは、執念深いですから。たとえ、アイネ様が何もしていなかったとしても、容赦はしないと思いますよ。彼らは、水の一滴分でも記憶が残っていれば、時空を超えることだってできますから」


 つまり、海沿いだと、私がいることがバレてしまい、ジェット機ごと落とされてしまうのだ。


 ちょっと、ママぁ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ