だいっきらい
「私はっ! ママに会うために努力してきたの! 誰も何も教えてくれない。自由に外にも出してもらえない。だから、お城を抜け出して、一人で調べに行ったりもした。でも、世界中、どこを捜してもママはいなかった。私がいない間に、ひょっとしたら、ママが帰ってきてるんじゃないかって、何度も何度も何度も、そう思った。期待してお城に帰る度に、いつも、私は馬鹿だって、思い知らされた。それでも、いつか、帰ってくるって、ずっと、信じてきた。――ママがいないなら、私には、皇帝になる理由も、努力する必要も、生きてる意味さえない。それなのに。なのに。なのに……っ。どうして、会わせてくれないの? どうして、誰も何も教えてくれないの? ママのためって理由だけで皇帝になろうとするのが、悪いことだから? ……やっぱり、私が悪い子だから、いけないの?」
人質として送られてきたばかりの頃は、ママに会えなくて、毎日泣いている私を、二人が慰めてくれた。
今は、誰も、何も言ってはくれない。
「どうすれば、ママに会える? ママにもう一度会うためなら、私は、死んだっていい。死ぬよりつらいことがあったっていい。全部、どうだっていい。ただ、ママに会いたい。会って、たくさん、褒めてもらいたい。それだけなのに……っ。ママに何したの!? ちゃんと答えて!!」
涙で視界が霞んで、二人の顔は見えなかった。頬を伝う涙が鬱陶しくて、私は袖で雑に拭う。
「……教えてあげたら?」
ナーアの声が、私に味方してくれる。誰、なんて、酷い言い草なわりに、昔のまま、優しい。
「しかし、まだ、今は」
「じゃあ、いつならいいの!?」
「それは――」
「それさえも教えられない、なんて、言わないよね」
口を閉ざすルクスに、私は食い下がる。すると、彼は、困った表情を浮かべながら、石像を指さした。
「その女性なら、知っていると思いますよ」
なんて、そんなことを言い出した。石になった彼女を指して。
――考えてはいた。
クレイアなら、ママの居場所も知っているかもしれないと。
しかし、ずっと、自分の心を誤魔化してきた。
何か事情があるのだろう。
いつかは教えてくれる。
クレイアは、私のことを大切に思ってくれているはずだ、と。教えてもらえないのは、私が未熟だからだと。
だが、彼女は、私を知らないと、はっきりそう言ったのだ。それがどういう意味であるかすら、私はまだ、ちゃんと聞けていない。
「彼女をもとに戻せば、分かることです」
「……どうしても、今じゃダメなの」
「はい」
こうして、いつまでも、駄々をこねているわけにはいかない。私はもう、そんなに幼くないのだから。
――そうやって、簡単に割り切れたらいいのに。
実際は、ただただ、我慢するしかできない。なんと、自分は、幼く、器が小さいのだろうと思う。
「……分かった。それで? クレイアさんを元に戻す方法って?」
「分かりません」
「はあ!? じゃあ、さっきのは――」
「嘘です」
「嘘!?」
「ああでも言わないと、アイネ様が取り乱すと思ったので」
あのときは、動揺していて気づかなかったが、思い返せば、あれは、嘘の音だった。
「信じらんない……。どうしてそんな風に、平気で、嘘がつけるの」
「アイネ様のためですよ。あなたが取り乱さないという確信があれば、嘘をつく必要なんてなかったんですから」
「っ――!!」
なんと、腹立たしいことか。ここまでいらついたのは、久しぶりかもしれない。色々言いたいことはあったが、ぐっと、のみこんだ。
「ですが、割り切ったフリなんて、しなくてもいいですよ。僕は、アイネ様に困らされるのには慣れていますから。我慢する必要はありません」
ルクスが教えてくれないから、私はあんなに泣いたのに。
ルクスが困るから、私は譲ったのに。
ルクスが頑固だから、私が我慢したのに。
「……ルクスなんて、大ッッッキライ!! ふんだ!」
すると、ふっ、と、笑みをもらしたやつがいた。
「あんた、この子に嫌われたみたいね。ご愁傷様」
「言葉のわりには嬉しそうですね、ナーア。これでも、かなり、傷ついているのですが」
「嫌い嫌い、ルクスなんて、大っ嫌い。もう知らない」
私は膝を抱えて、その場にうずくまり、首を横に振る。
「あははっ、大嫌いだそうよ」
「傷つくなあ」
「誰が悪いの」
「……僕ですね」
ジト目で責めると、ルクスは自分の非を認めた。いつしか、溜飲が下がり、冷静になっている自分に気がつく。ここまで計算されていたのだとしたら、素直に称賛せざるを得ない。
「それでも僕は、君のことが大好きですよ」
「はいはい、そういうのいらないから」
手をヒラヒラ振って、適当にあしらう。ルクスの言うことなんて、二度と、信じるものか。
「信じてもらえませんか?」
「信じてって言う前に、信じてもらう努力をしたら? 私はママのことも何一つ教えてもらってないし、クレイアさんの戻し方も分からないままだし、ボイスネクターのことも、何も説明されてないんだけど」
「正論ですね。――では、あちらでお話します」
そうしてルクスが指したのは、セトラヒドナ教国。――私を誘拐したり、銃で撃ったり、蜜を奪ったりした、革命教の本拠地だ。
そして、彼、ルクス・ロゼッシュは、革命教の開祖であり、現教祖なのだ。




