お説教
ロロと泣き合って、慰め合っていると、ふと、ロロが私から離れて、こんなことを言い出した。
「アイネは、あの、白いお姉さんが好きなの?」
「ふぇ? ……エッッッ!?」
いーやいやいやいや。私、何動揺してるの? クレイアさんは、私の第三のお母さんみたいな人で、サードマザー的なサムシングで、べ、別に、好きってわけじゃ……。
「ふーん、そーなんだ。ふーん」
「何その顔! ニヤニヤして、ウザいんだけど!」
「ふーーーん」
「もう、やめてってば!」
え、私、クレイアさんのこと、好きなの? 嘘でしょ? え、初&恋……?
「初恋は実らないんだって。アイネ、ドンマイ」
「そんなのまだ分かんないじゃん! ……だから、違うってば!」
信じない信じない信じない。私が、クレイアさんを好き? いーやいやいや。ありえないって。
「アイネがあの人のことを好きでも、ロロはアイネを変な風に見たりしない」
――それは、そうだろう。だって、ロロだから。
「だって、クレイアさんは、確かにいい人だけど、年齢もすっごく離れてるし、魔族だし、かわいくて、賢くて、カッコよくて、私なんかとは釣り合いが取れないっていうか」
「ひゅーひゅー」
「あんた、からかう気満々じゃない……!!」
果たして、どう調理してくれようかと考えていると――ロロが表情を一変させた。
「アイネ、樽に触って!」
言われた通り、樽に触れる。それから中を確認すると――さらに中身が減っていた。クレイアが持ち運べるような重さではないので、私が巣まで持ち帰ることになっているが、今のは一体……。
すると、突然、ロロが駆け出した。樽を持って着いていくと、たどり着いた先にも、樽が一つ、置いてあった。その中を覗き込み、ロロは小さく声を上げる。
「蜜が、ない。今日盗んだやつ」
「え、食べちゃったの!? もしかして、本当は美味しかった!?」
「アイネの、馬鹿。……盗まれたの」
シンプルに怒られた。
私はもう一度、耳を澄ませて、盗んだ犯人の居場所を特定する。
「どうしよう、すっごい勢いで逃げてる……。クレイアさんに報告を――」
「行こう、アイネ。時間がない」
――一瞬の迷いの後、私はロロをおぶって、犯人を追うことにした。まばたきの間でも気を抜けば、見失いそうなほどに、距離は離れている。そして、その差は、縮まらない。
「止まって――」
その願いが届いたかのように、気配は足を止めた。私はそれをたどっていき――ここが、セトラヒドナ領、つまり、革命教の本拠地であることに気がつく。
「下手な争いは避けた方がいい。ロロ、帰ろう」
「でも、蜜だけでも取り返したほうが――」
「ダメ。捕まったり、死んじゃったりしたら、困るもん」
クレイアに迷惑をかけるのはダメだ。普段、あれだけお世話になっているのだから。
「……! 伏せて!」
ロロに飛びかかられて、私は背中から地面に倒れる。
頭上を、銃弾が通りすぎる音がした。
「ここまで来たら、城まで行っても、同じ」
「さすがにそれは無謀すぎるって」
「どうせ生きてる限りみんな死ぬから、だいじょーぶ」
「何が大丈夫なのロロさんギャアアア!?」
バンバン撃たれる。もう、バンっバンに聞こえる。めちゃくちゃ撃たれている。当たっていないのが奇跡に近い。
「だいじょーぶ。死ぬか死なないかだけだけ」
「痛いのも嫌だし、まだ全然、死にたくないんだけど!」
当たったらほぼ間違いなく死ぬのに、さすがロロ節。ブれない。
「引こう! 引こうよ! ね! ね!?」
「えー。まー、アイネがそこまでゆーなら」
背後から向けられる銃に、鱗で対抗しながら逃げ、所々、衣服を切り裂かれながらも、致命傷を負うことはなく、私たちはその場を切り抜けた。
***
「――事情は分かったわ。そこに正座しなさい」
から始まった、クレイアの初のお説教。
「この馬鹿! あたしが、どれだけ心配したと思ってるの!? こんな怪我までして!」
と裏返った声が続き、
「よかった。無事で、本当に、よかった……」
涙を溢すクレイアに、二人そろって抱きしめられた。心臓が大きく跳ねた後で、彼女の小さな体が、震えているのが分かって、どれだけ重い罪を重ねてしまったのかと、罪悪感でいっぱいになる。
「ごめんなさい、クレイアさん」
「ごめんなさい」
二人で抱き返すと、クレイアのほうが抱きしめられている幼子みたいに見えてくる。彼女が涙を堪えようとしているのが、嫌でも分かった。
「いい? 危ないことをするときは、ちゃんと知らせること。敵なんて、追わなきゃいけないくらいなら、放っておきなさい。どうせまた、あっちからのこのこやってくるんだから」
「はーい」
「怪我なんてしないで、って、本当は言いたいけれど、それは過保護すぎるし。危ないことなんてしないでって言っても、どうせ無茶するだろうから。――命だけは、持って帰ってきて。どれだけ致命傷を負ってても、たいていの怪我なら、あたしが治すから」
「はーい」
「それから。――もう二度と、あたしを泣かせないで」
「……はーい」
最後の脅しが、一番、効いた。




