表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/46

エリザクラの国

 それから私とエイミーは、キャッチボールをした。ピンクのボールがぽーんぽーんと宙を舞う。


 そのうちに、朝を告げる鐘が鳴り、私とエイミーは夢中になりすぎていたことに気がつく。


「はー、楽しかった! お姉ちゃん、ありがとー!」

「私も楽しかったよ」

「また遊ぼうねー」


 エイミーが姿を消す直前、ギリギリのところで当初の目的を思い出す。


「あ、待って、エイミーちゃん!」


 引き留められた彼女が緑のまあるい瞳で、不思議そうに私を見る。


「エイミーちゃんは、人魚、なんだよね」

「うん、そうだよ」

「私、ちょっと欲しいものがあるんだけど」

「うん、なあに?」

「人魚の声? が欲しいんだけど、何か知らない?」

「声?」


 うーんと、うなってから、エイミーは、


「わたしは子どもだから分からないけど、お母さんなら知ってるかも!」


 と、言うやいなや、私の手をつかんで引っ張った。


 ぐいぐいと引っ張られる先は、当然、噴水の中だ。


「え、ちょ、まっ」

「行こー!」

「うわああっ!?!?」


 昨日浸かった噴水に、今日も浸かった。底にぶつかるっ――と、反射的に目をつぶるが、痛みは来ない。


 ゆっくりと目を開けると、目の前を、一匹の魚が横切っていった。それを追うようにして、小魚の群れが泳いでいく。自分が群れの進行を妨げる場所にいるのだと気がつくと同時に、ここが海の中だということを知る。


 辺りは青一色で、遠くの方は暗く、見えない。足の置き場を求めれば、底が見えないことに気がつく。ふと、水面を見上げると、丸い何かがたくさん浮いていて、やわらかく変えた光を、海の深いところまで届かせていた。


 はっと、呼吸を忘れていることに気がつき、慌てて再開する。直後、ここが海の中であることを思いだし、さらに慌てて呼吸が変になり、むせた。――が、結果、ちゃんと息ができることに気がつく。


「ここはね、エリザクラ様の国だから、人魚じゃなくても、息ができるんだよ」

「エリザクラ様……?」

「早く行こう!」


 エイミーに手を引かれつつ、私は泳いでいく。やはり、人魚というだけあって、泳ぎは速い。


「お姉ちゃん、ニンゲンさんなのに、ヒレ速いんだね!」

「そうかな? ありがとう」


 いや、ヒレ速いて。足速いみたいに言ったな。私、ヒレないのに。


 しばらく泳ぐと、いくつか、大きな家のようなものが見えてきた。石や貝殻、甲羅、何かの脱け殻のようなものなどで作られているようだ。


「ここが私の家だよ! ちょっと待ってて」


 そこは、桃色や水色の貝殻の中でも、形のいいものだけを厳選して貼りつけた、他のどれよりもかわいらしい家だった。


「お母さん! お友だち連れてきたよ! なんかね、人魚の声が欲しいんだって!」


 それから少しして、エイミーだけが出てきた。


「お母さんが、お外で遊んできなさいって」

「そっか。ありがとうね、エイミーちゃん」

「うん! またね、お姉ちゃん!」


 ものすごい速さで去っていくエイミーを見送り、再び、私は石の家を見つめる。――なんとなく、嫌な予感がする。


「セーブした方がいいかなあ……」


 なんて、ゲームみたいなことを呟きながらも、真面目に考える。危険を感じたらその先に進むなとクレイアは言った。


 他の誰でもなく、クレイアにだけは心配をかけたくない。ギルデとステアは――まあ、今さらだから。


「でも、戻るにしても、帰り方が分からないし……」


 今すぐにエイミーを追いかければ、追いつけるかもしれない。だが、悩んでいるうちにも、距離は開いていく一方だ。やはり一度、戻るべきだろう。


「すみませーん、話が長くなりそうなので、一度、地上に戻らせてもらってもいいですか?」


 入口から大声で話しかけてみるが、いくら待っても返事が来ない。


 聞こえていないのだろうかと、少し中に入ったとき――音がした。言葉では例えづらい、魔法の音だ。私以外に、聞こえる人を見たことがないし、理解されたこともない。


 振り返ると、入口は透明な壁で覆われているようだった。


 間違いない。これは、結界だ。おそらく、私をこの家に閉じ込めようとしているのだ。


 ――すぐさま、触れることで結界を解き、全力でその場から泳いで逃げる。魔法を無効化できてよかった、なんて言っている場合じゃない。


「なんで追いかけて来るのおおお!?!?」


 大勢の人魚たちが、泳いで追いかけてきていた。速いなんてものじゃない。私は泳ぐのも速いほうだが、本業に敵うはずがない。


 ――だが、それは、水泳であった場合の話だ。


 これは、鬼ごっこ。鬼ごっこで一番大事なのは、速さではない。戦略だ。


 普段から、ベルとロロを相手にしている私なら、この数から逃げ切ることもできる、はずだ。少なくとも城内なら、二人に捕まったことは、ほぼない。


 音を聞いて、逃げる。避ける。かわす。振り切る。


 しかし、考えるのは、よくない。私は馬鹿だ。戦闘訓練でも、余計なことを考えないようにと、ギルデから散々、教え込まれている。


 一番威力の出る体の使い方、そのときの最善手、効率のいい動き方などは、すべて、本能が記憶している。私が考えなくても、身体が勝手に動いてくれる。私はそれについていくだけでいい。


 だから、今の、この、雑念にまみれた状況は、ひじょーうに、よくない。


「助けてママぁー!!」


 ――ママ、パパ、お元気ですか? アイネはとっても元気です。人魚さんたちと、元気に泳ぎ回っています。最近、こんな目にばかりっている気がするので、そろそろ、ママの手が借りたいです。体より先に、気持ちがやられちゃってます。もう泣きたい。


 昔は、呼べば、いつでもどこでも来てくれたママだけど、今は呼んでも来ないのは知ってる。――だから、呼ぶのだけは、許してね。


「ママー! って、叫びながら逃げれば、上手く逃げられる! はず! 私、めちゃくちゃえてない!?」


 そんなことを考えながら逃げていると、視界に、桃色の鱗が映った。――間違いない、エイミーだ。

ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!

次回から、火木日更新となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ