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ダスティーシティー  作者: エイトシー
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少年と少女

 強い風が、砂を巻き上げながら進み、消えていく。崩れたばかりのビルの残骸から、まだコロコロと小さな石ころが落ちていく。そしてその十数メートル先では、少年と少女が向かい合っていた。


 シオリは、置いた鞄を背負おうと身をかがめたが、紐が切れている事に気付いて、後ろ頭をかいた。


 「あちゃー、せっかく拾ってもらったけど、これじゃあ持っていけるかどうか…」


 「…そういえば!」


 ショウタは、背負っている鞄を置くと、中から糸と針を取り出した。


 「…え?こんなところで裁縫でもするつもりだったの?」


 「まさか、傷口を縫うための針と糸だよ。でもまさか裁縫で使うとは…」


 ショウタは答えながら、慣れた手つきで壊れた鞄を直し始めた。


 「器用だねー…しかも最初から針に糸を通す気の使いよう…」


 「なかなか便利だよ。もう一セットあるから救急箱に…」


 「……」


 シオリがまた気まずそうに下を向いたのを、ショウタは見逃さなかった。


 「まさか、救急箱も落としたの?」


 「…と言うより、最初から入っていなかったと言いますか…」


 「じゃあ…このクソ重たい鞄には一体何がはい」


 「食料!」


 「元気はいいようで…」


 ショウタは一つ大きなため息をついた。


 「…いろいろ少し分けて入れとく…」


 ショウタは、いくつかの絆創膏と軟膏、糸を通した針を、紐の縫い付け終わった鞄に突っ込んだ。


 「ありがとー!」


 シオリは元気よく礼を言った。


 「これだけ食料が入ってるんなら、これからかなり遠くへ?」


 ショウタは、鞄をシオリに返しながら聞いた。


 「実は、『第二共同墓地』ってところに向かう途中で…でも、端末の地図にうまく出てこなくて…」


 「…ちょっと見して」


 ショウタは、シオリの腕についている端末を覗き込んだ。シオリの端末には、ショウタの端末とよく似た、でも少し違う画面が表示されていた。


 「…これ、OSのバージョンが古くて、地図に表示されてないんじゃ…」


 「え?…マジで?」


 ショタはすぐに、自分の端末の地図を確認した。少し東側にスクロールすると、見やすいフォントで「第二共同墓地」の文字が表示された。その画面をシオリに見せると、シオリは頭を抱えた。


 「あー…どーうしよ…」


 「…実は、俺も近くに用事があるんだけど、よければ一緒に行きます?」


 「…ほ、本当に何から何まで…」


 シオリは大きく息を吸い込むと、ブンッという音を立てて思いっきり頭を下げた。


 「ありがとうございます!」


 「い…いやいや、いいよ別に…さぁ、行こ」


 もう一度地図を確認した後、ショウタとシオリは、一緒に東の方角に向かって歩き出した。




 東側には、目立った高濃度汚染地域(ホットスポット)もなく、倒壊しそうなビルもほとんどなかったので、意外とすんなりと進むことができた。二人は、特に会話もないままに、自分の影を追いかけるように進んでいった。


 「あ…」


 シオリが、驚いて声をあげた。


 「どうしたの?」


 「…ここ知ってる、小学校ぐらいの頃、お父さんに連れてきてもらった団子屋さんの近く」


 ショウタは、あたりを見渡した。建物はほとんど崩れていたが、その並び方には覚えがあった。


 「…そこ、俺も知ってる、みたらしの美味しいところでしょ?」


 「え!?私三色団子買っちゃったんだけど…」


 シオリの返答に、ショウタの声が少し大きくなった。


 「なんでよ!?あそこはみたらしで有名で、たまにニュースとかにも出てるくらいだったのに…」


 「…いや、なんかあの頃三色団子にただならない憧れを抱いておりまして…」


 「……ちょっと分かる、カラフルで美味しそうに見えるしね」


 「そうそう!……でも…みたらし食べたかったぁ…」


 シオリが心底残念そうにうなだれた。


 「…てか、随分この辺に詳しいね」


 「…この辺俺の家の近所でさ…」


 「え!?私の家もここからそんなに遠くないよ!」


 「ほー、じゃあ、昔どこかで会ってたかもしれないね」


 「もしそうだとしたら、こんな場所で再会するなんてとんでもない奇跡だろうね」


 シオリは、周りの廃墟をぐるりと見渡しながら言った。


 「…でも、なんかさ…」


 ショウタは、この街にきてから、ずっと考えていたことを、シオリに打ち明けてみる事にした。


 「俺たちがこの辺に住んでた頃には、見上げるほど大きいビルが立ってて、大勢の人でごった返してて、とにかくめちゃくちゃ華やかに繁栄してたじゃん?」


 「うん」


 「昔はそれが突然消えるなんてファンタジー以外の何者でもない気がしてた…でも、いざ無くなってみるとあっという間というか、思ってたよりも遥かにあっけなかったと言うか…」


 「分かる…」


 シオリはコクリとうなずいた。


 「昔さ、AIの発達が進んだ時代あったじゃない?その時に日本中のお偉いさんが『我々は新しい生命体を産み出した!ついに我々は神の領域に達したのだ!』みたいなこと言ってたじゃない」


 ショウタは、シオリの話に聞き入っていた。

 

 「でも挙句はこのザマ…私たちは結局神どころか愚か者以上の何者でもなかったんだなって」


 「つまり俺達は、俺達以上の超常的な存在ではなく、呆れるほどに愚かな俺達自身によって滅ぼされたわけだ…」


 ショウタは、諦めたように言った。


 「そしてさらに嘆かわしいのは!」


 続けて、シオリが声を張り上げた。


 「…そんな愚かな人類の中、ギリギリで生き残れたにもかかわらず、こんな廃墟を彷徨っているとんでもない愚か者が二人もいるという事実である!」


 シオリの大声が廃墟にこだまする。そして、二人は声を上げて笑い出した。ガスマスクのごしの呼吸が焦ったくなるほど、腹を抱えて笑った。


 「あはははは!!……はぁーっ…神様も、七日で世界を作ろうなんてやっつけ仕事をしなけりゃ、この世界はもうちょっとまともだったろうにね…」


 ショウタの返答に、シオリの笑い声が止まった。


 「なるほど…適当な発明品で満足して無茶をやらかすあたり、私達は間違いなく神の領域に達してたって訳だ!」


 二人は、また声を上げて笑った。


 

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