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ダスティーシティー  作者: エイトシー
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瓦礫と人影

 少年は心臓が高鳴るのを感じた。そして、その刹那に全ての現状が脳内に流れ込んだ。倒壊しかけたビル、身動きが取れない謎の人影、他に人間のいない廃墟。そしてすぐに、少年は重い荷物をおろして、倒壊しかけたビルに向かって走り出した。


 ビルに向かって走りながら、少年は様々なことを思案していた。ビルが完全に倒壊するまでの時間は?その隙にあの人を助け出すには?そもそもあの人は何者?様々な思考が巡った。


 「おーいっ!危ないぞー!」


 少年は叫んだが、ガスマスクのせいでほとんど声は届かなかった。少年は、少しずつはっきりとしてきた人影を、走りながら観察した。どうやら、鞄の紐が瓦礫に引っかかって、身動きが取れないらしい。ビルまであと半分の距離。少年はここで大きなミスに気がついた。ナイフが鞄の中である。引き返すか?時間があるのか?思考している間に、もがく人影のすぐ隣に大きな瓦礫が落ちた。引き返す時間は残されていない。少年は必死に走った。重いブーツを持ち上げ、手袋の重みで働く慣性が少年の腕を大きく振らせた。その時、ポケットの中に妙な異物感を覚えた。人影のすぐそばにきた瞬間。少年はとっさにそれを取り出した。さっき拾ったガラスの破片である。少年はとっさにそれで鞄の紐を断ち切った。


 「走れ!」


 少年は、肺に残った空気を全部吐き出して叫んだ。叫びが聞こえたかどうかは分からないが、人影は真っ先に走りだした。少年は、鞄を掴んだ手を離そうとして、考え直した。ほんの一瞬で、あの人影にこの鞄が必要であろう事に思考が至った。少年は、鞄を掴んだ手を離さず、大急ぎで走り出した。ガラガラと、崩壊の音が大きくなりだし、頭の上に、カツカツと小さな瓦礫が当たった。少年は、必死に走ろうとしたが、すでに体が重くなり出していた。ブーツの重みが、少年が足を上げようとするのを妨害していた。肺にも、ほとんど空気が入ってこなかった。このままではまずい、そう少年が感じた時、腕にかかっていた鞄の重みが軽くなった事に気がついた。そして、隣で鞄を一緒に持っている人影に気づいた。どうやら戻ってきてくれたようだ。


 少年は人影とともに、なんとか安全なところまで走りぬいた。ゼェゼェと息を切らす少年と人影。少年は、さっきまでいたビルの残骸を見た。ゴゴーという爆音が鳴り、そこにあったはずのビルは一瞬で小さな瓦礫の山になった。安堵した少年は、その場にへたり込んで、大きく酸素を吸い込んだ。


 「あ…あの…」


 突然聞こえてきた他人の声に、少年は仰天した。声のする方に視線を向けると、自分ととてもよく似た、化物のような姿の人影があった。


 「た…助けていただいて、あ…ありがとうございます…」


 少年はまた驚いた。その人影から発せられた声は、自分とそう変わらない年齢の少女のものだった。少年は、警戒するその人影に向かって返答した。


 「い…いえいえ…た…たまたま通りかかって、動けなさそうだっ…で…」


 自分でも恥ずかしくなるほど辿々しい声が出た。人影の方は、少し驚いた反応をした後、ゆっくりと肩を落とした。顔が見えないので確信はないが、どうも向こうも安心してくれたようだ。


 「そ…それに、荷物も持ってきてくれて、本当、なんてお礼を言ったら良いか」


 「いえいえ…こんな場所だし、荷物が無くなったら大変だと思って…というか、どうしてあんなところに?」


 「………」


 少女は少し黙ってから、俯いて答えた。


 「…実は、崩壊しそうなのを見学したくって…そしたら近づきすぎて、荷物引っ掛けちゃって、おまけにナイフも無くしてて…」


 なんとなく、少年の身にも覚えがあることを言われた。


 「…でも、助けぐらい呼べばよかったのに」


 少女は少し笑った後、少年に言った。


 「まさか他に人間がいると思ってなくて…緑色した化物とかならともかく…」


 少年も、同じように少し笑った。こんな風に他人と会話ができるのは、とても久しぶりに思えた。そして、それはどうやら少女も同じのようだった。


 「そうだ、まだ自己紹介してなかった…」


 少女は、改まって少年に向き直った。すかさず、少年も立ち上がって少女に向かう。


 「私シオリ、よろしく」

 

 シオリはそう言うと、右手を差し出した。


 「ショウタ 、よろしく」


 ショウタも右腕を出すと、二人とも硬く握り合った。


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