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08 暗転

覆灭(ふくめつ)の結び神~ぶっちゃけ異世界ってクソじゃね?~

第8話になります。


ようやくヒロインを起こすことが出来ました! 遅すぎるって、メチャクチャ相方()に説教されましたけど……。


どうぞ宜しくお願い致します。

 

 その森は、魔物達の巣窟だった。

 別に彼らが好んで住処にしているという訳ではない。


 人間達が、己の身を守る為に化物共を深い深い森の中に閉じ込めているのだ。

 故に、そこに足を踏み入れること自体が自殺行為。国が正式に禁止している違反行為でもあった。


 しかし、正規の命令を受けて、魔窟の土を踏む者達が存在した。


 数は八名。

 性別も年齢も異なっており、装備している武器も多種多様。

 けれど、黒と赤を基調とした衣服だけは、彼らが一つの集団である事を雄弁に語っていた。


「いや~、ジメジメするねぇ。暗いし……。気が滅入っちゃいそうだよ」


 淡い黄緑色の長髪が特徴的な美丈夫が、不満気に愚痴を零す。

 病的なまでに整った顔に手動で風を送り続けており、汗ばむ白い肌はともすれば扇情的な光景だ。


「分かるぜ、ルノー。俺らこんなん(外回り)ばっかだな」


 そんな彼に対し、すかさず同意を示したのは、2メートル近い体躯の大男だった。

 身長だけでなく筋肉量も異常で、服越しからでも引き締まった肉体が伺える。

 その肉体美を更なるものにしようとしているのか、大男は森であるにも関わらず、腹筋に興じていた。

 当然ながら、美丈夫から疑念……もといツッコミが飛ぶ。

 

「なんで腹筋?」

「暇だから! たく、サーディンの野郎が羨ましいぜ!」

「だよね~。僕らも引きこもり同盟組もうよ~」


 快活すぎる返答に、美丈夫は最初の問いがどうでも良くなったらしい。

 馬の合う大男と駄弁り始めようとした。

 しかしその時、冷え冷えとした横やりが入る。


「奴は王都守護の要だ。城を離れられる訳がないだろう」

 

 声の主は、赤褐色の長髪を靡かせた麗人だった。

 ガラス細工の様に綺麗な瞳。そこから放たれる氷原の如き視線が突き刺さり、男共は慌てて釈明を開始する。

 

「あー、ごめんごめん。そんな睨まないでよ。可愛い顔が台無しじゃないか」

「そうだぞ、ユーラ! お前は黙ってりゃ美人なんだか―――」


 瞬間、二振りの氷刃が美丈夫達の頬に顕現した。


「……殺すぞ」

「ごめんなさい」


 二人は即座に平服する。

 その甲斐あってか氷の刃だけは溶けて消滅したが、麗人の放つ殺気は微塵も弱まらなかった。


「お前ら、無駄話はその辺にしておけ」


 そんなやりとりの最中、三人を注意する声が少し遠くから放たれる。

 低い声だ。

 いや、無理をして重低音にしているとも言える。


 せいぜい十歳ぐらいの背の低い少年が、腕を組みながら前方の一点を見つめていた。

 彼の介入により、麗人はアッサリと殺気を解く。

 そして、少年の隣まで歩み寄り、問うた。


「そろそろか? 日葉(ひかみ)

「見た通りだ」

 

 少年は前方に目配せする。

 その視線の先では、四人の男女……彼らの部下達が円系の陣形を作っており、天に片手を伸ばしていた。

 四つの掌の指し示す先には、人の頭程度のサイズの球体が浮かんでおり、その表面で魔力が波のように蠢いている。


 その様子はさながら荒れ模様の海の如しで、せめぎ合う魔力が次第に輪郭を作って行く。

 次の瞬間、明確な意味を持った形が球体の表面に映し出された。

 少年は、部下達に尋ねる。


「どうだ?」

「ちょうど四グループ……。東西に分かれて移動しているみたいです」

 

 真っ先に反応したのは、橙色の髪をツインテールに纏めた少女だった。

 彼女の報告を聞き、少年は紫色の瞳を美丈夫らに向ける。

 

「聞いたなお前ら。各副団長先導の元、対象の保護に移れ」


 この場で最も幼い子供の指示に従う形で、全員がこの場から姿を消した。



 ◇



「話ときたい事? なんだよそれ?」

「てか、話し合いバッカでいい加減眠いんすけど」


 御神木の光に守られながら、尚も話し合いを続けるつもりらしいジルバールに、浮波城と出原は愚痴を漏らした。


 ようやく今後の方針が決まり、嫌いで嫌いで仕方のない脳内労働が終わったと思った矢先にコレである。彼らが文句を言うのも無理はない。

 まあ、話し合いの殆どはジルバール一人の尽力によって成立していたのだが……。


「これで最後だから頑張ってくれ。とは言え、君達の集中力が限界に近いのも分かってる」


 ジルバールは真剣な眼差しで、有無を言わせず浮波城達を立ち止まらせた。

 どうやら、本当に最後まで聞かせるつもりらしい。

 観念して浮波城が出原と共に身体を向けると、彼は自身の見解を口にし始めた。


「結論から言うと、僕は彼女が『裏切り者』なんじゃないかと睨んでいる」

「ふぁ!?」


 瞬間、即座に出原が距離を取った。

 未だ、御神木の幹を背に気を失っている黒髪長髪の美少女……、彼女との距離が最も近かったからだ。

 対照的に、浮波城は冷静に聞き返す。


「そりゃまた随分と物騒な話だな。確証はあんのか?」

「ないよ。五分五分と言った所かな」

「五分かぁ」


 浮波城は腕を組んで天を仰いだ。

 率直な感想としては、中々に判断しづらいラインだ。


 長年の経験からいって、こういう言い方をする時のジルバールの読みは結構当たる。何だかんだ言いつつ、彼の中でそれなりの理論が展開されているからだ。


「彼女の現れ方は、明らかに僕達とは違っていた。仮に、裏切り者を『自分達とはまた異なる世界から出現した敵』と仮定するのなら、出現方法に違いにも納得がいくとは思わないかい?」

「……まあな」


 何故、別世界の人間が千三(せんみ)高校の制服を着て現れるのかという疑問はあるが、そもそも裏切り者は素性を隠さなければならないのだ。

 その為には制服ぐらい用意するだろう。

 異なる世界を任意で行き来する技術力を持った者達ならば、制服の調達ぐらい朝飯前だろうし、そもそも、良く似たデザインの別物でも問題ない。

 

「裏切り者がどういう立場で、誰をどう裏切っているのかは分からない。本当に存在するのかもね。けれど、仮に魔物サイドの存在で、僕らを始末するのが目的だったなら……」

「このままだと俺らは、自分達の命を狙う殺人鬼と行動する事なるって事か」

「フヒ!?」


 途端に、出原がガタガタと震えだした。

 そんな後輩を尻目に、浮波城はふとした疑問を幼馴染にぶつける。


「けどよ。だとしたらちょっと間抜けすぎねぇか? 俺達を殺しに来た殺人鬼が、ここまでずっと気絶してるって事だぜ?」


 その指摘に、ジルバールは一つ頷きつつ、次の様に続けた。


「そうだね。でも、それすらも演技かも知れない」

「は?」


 その見解に浮波城は首を傾げ、彼の心の内を出原が代弁する。


「ホ、ホントは起きてるって事っスか? なんでそんな……」

「僕らの寝首を掻くのが目的なら、意識がないと思わせておいた方が都合が良いと思わないかい?」

「……!」


 まさにその通りだった。

 浮波城は全面的に納得する。


 彼女の気絶は長い。いや、長すぎる。

 実は意識を取り戻していて、此方の隙を伺っていると言われても不思議ではないだろう。

 出原も同じ考えに至ったのか、顔を青くしながら慌てふためいた。


「や、ヤベェじゃん!? とっとと追い出しましょうよ、コイツ!」


 散々彼の恐怖心を煽ったジルバールが、責任を取ってか宥め始める。


「確率は五分だと言った筈だよ。半分の確率で、何も悪くない者に濡れ衣を着せる事になる。それに、もし彼女が裏切り者だった場合、その場で戦闘開始だ。どちらにとってもメリットはないよ」

「う……」


 確かに、彼女が本当に裏切り者なら全力で抵抗する筈だ。何かしらの『力』を使えるなら迷わずそれを行使するだろう。故に、下手に刺激するのは下策。

 けれど……。


「でもよ、逆に言や、半分の確率で敵を抱えるって事だろ? 流石にリスキーじゃねぇか?」


 浮波城は懸念点を口にした。

 そう。このまま敵とも知れない相手を抱え込むのも、それはそれで危険な行為だ。精神衛生上的にもよろしくない。

 ならば、気絶している事に賭けて、今の内に拘束するなりしてしまうのが利口な様にも思えるが。

 しかし、ジルバールはしっかりと首を横に振った。


「大丈夫だよ。彼女がこの会話を聞いているのなら、迂闊な事は出来ないさ。これから襲う相手に裏切り者の疑いをかけられ警戒されているんだからね」

「……! あ、そっか!」


 その言葉に、出原の目がキラキラと輝く。

 同時に、浮波城は何とも言えない表情で幼馴染を一瞥した。


「抜け目ねぇなジル。俺らへの注意喚起とコイツへの警告を同時にしたって訳か」


 わざわざ話を続行したのは、この事を伝える為だろう。

 これから浮波城達は身を休める事になるのだ。それは即ち睡眠であり、敵かも知れない少女に無防備を晒す事になる。


 勿論、魔物の警戒も含めてローテーションを組む事には成るが、それでも釘を刺しておくに越したことは無いだろう。

 取り越し苦労になれば問題ないが、残念な事に現状まったく無いとは言い切れない。

 しかし、彼の話はまだ続き、どうやらここからが本題である様だった。


「とにかく、僕は彼女が裏切り者じゃないかと考えて動く。仮にそうだと確定してなくても、いざという時は切り捨てるからそのつもりでいてくれ」

「え?」


 ふいに放たれたその言葉に出原は戸惑う。余りにも、いつもの彼とはかけ離れた冷たい声音だったからだ。 

 付き合いの長い浮波城は敢えて茶化す。いや、反射的にと言った方が近いかも知れない。


「なんだよ? 要は危なくなったらコイツを囮にでも使うって事か? 裏切り者じゃなかったとしても? うわ、外道~」

「うん。僕の中での優先順位はあくまでも君達だ。面識のない彼女を立てる理由はないよ」


 その返答に、浮波城は言葉を詰まらせる。


「……随分とマジトーンじゃねぇか。五分の確率で濡れ衣云々言ってたのは何処のどいつだよ?」

「君達は何もしなくて良いよ。全部僕がやるから」


 ジルバールの済ました答えに、浮波城は佇まいを直した。そして、問いただす。


「……汚れ作業は僕がやるから大丈夫って? お前、見て見ぬ振りも苛めって言葉知らねぇの?」

「ははっ」


瞬間、幼馴染の口から乾いた笑みが漏れた。それは、ともすれば小馬鹿にしているようで……。


「見ているだけの人間が同罪な訳ないじゃないか。庇った人間に標的が移ったらどうするんだい? そんなリスクを背負ってまで助けに入る事を美徳とする常套句に価値があるとは思えないね」


シンと、場の空気が静まり返る。重い重い沈黙だ。

浮波城は、幼馴染の瞳を真っ向から覗き込んだ。


「……本気で言ってんのか? それ」

「冗談でこんなこと言わないよ」」

「お前、寧ろ率先して助けてたじゃねぇか」

「僕は『生徒会長』という立場と盾がある。他の一般生徒とは違う」


 ジルバールは俯きながらそう告げた。

 本当に彼の声なのかと疑いたくなる程、弱々しく不安定な声音だった。

 ジルバールの銀の双眸が、浮波城の赤い瞳を見つめ返す。そこには、縋る様な、羨むような、そんな色が含まれていた。


「僕は……君のようにはなれない」

「……!」


 それだけ絞り出すと、ジルバールは再び顔を伏せてしまった。明らかに普段と様子の異なる彼に浮波城も、勿論出原もかける言葉を見つけられない。

 下手に触れれば彼の何かを壊してしまう。そんな気がしたからだ。


 永遠にも続くかのような息苦しい沈黙。

 それは、唐突に破られた。他でもない、ジルバール自身によって。


「さてと、僕からの話はお終いだ。他に何もなければ休もうか」


 ぎこちない笑顔が、浮波城達に向けられる。


「……だな」


 そして、浮波城も、それ以上追求しようとはしなかった。

 空気を換えようと、背伸びをしながら告げる。


「じゃ、しょんべん行ってくるわ」

「あ、俺も」


 その意図を組んでかたまたまか、出原も普段のアホ面で追従する。まあ、彼に関してはあれだけ水をがぶ飲みすれば尿意を催して当然だろう。


「念の為『神器』も忘れずにね」

「わーってるよ。ジル、お前は?」

「君達が戻ってきたらにするよ。彼女を一人にする訳にもいかないしね」


 ジルバールはいつも通りの声音を奏でた。

 確かに彼女の監視は必須だろう。


「気ぃ付けろよ? もし起きてたら、絶対真っ先にお前ぶっ殺しに来るだろうから」

「襲われたら大声で叫ぶ事っスね!『きゃー、助けてー!』って」

「分かってるよ」


 場を和ませようとふざけ合いながら、浮波城と出原は幹の裏へと消えて行った。

 まあ、実際はいざという時に備えて、ある程度歩いたところで足を止める事になったのだが。



 ◇



 御神木側面。


 浮波城と出原は、どちらともなくズボンのチャックを降ろした。

 そして、発射。ジャーという音が鼓膜にこびりつく。

 ここで、浮波城がある事に気が付いた。


「……アレ? おいデブ、お前『神器』どうした?」

「ん? 向こうっスけど」

「はぁ? お前、ジルに持っとけって言われてただろうが」

「センパイ持ってんだから良いじゃないっスか」

「……この野郎」


 浮波城はこめかみに筋を立てた。

 完全に、魔物が襲ってきた時は完全に守ってもらう口振りだ。他力本願が過ぎる。

 そもそも、こと『神器』に関する戦闘力で言えば完全に出原の方が上だという事を忘れているのだろうか?

 そんな、憤り半分、呆れ半分の感情を抱いている時だ。


 

 音もなく。



 なんの前触れもなく……。





 暗闇が世界を覆い隠した―――。





 ◇



「……なっ!?」


 ジルバールは一瞬心臓が飛び出しそうになった。

 突如として、場が光を失ったからである。


 何らかの理由で、御神木から放たれる光が途絶えた。


 そう解釈するのに時間はかからなかったが、早まる鼓動は収まらない。

 御神木の光が途絶えたという事は、ここが安全圏では無くなったという事。本当にあの光に魔除けの効果があったかは定かではないが、ここまで一切魔物の襲撃に遭わなかったことは厳然たる事実だ。

 それが途絶えた以上、周囲を警戒する理由は余りある。


 目を慣らせ。周りを見ろ。音を聞け。

 

 ジルバールは、いつ魔物が現れても良いように警戒レベルを最大迄引き上げた。


 だからこそ……気づかなかったのだ。


 背後には御神木がある。物理的にとても巨大な壁だ。

 ジルバールの意識は自然と前方に向いていた。


 故に、背後で少女が立ちあがり、近づいて来る足音に―――全く気付かなかった。



 スチャ……。


「……!」


 ジルバールがそれに気づいたのは、自分の首筋に冷たく硬い何かが触れた瞬間だった。

 少しでも動けば、肉が裂かれる。それを確信すると同時に、自身の迂闊さを後悔する。


 優先順位を誤った。

 混乱して、魔物の襲撃にばかり意識が行ってしまった。

 最も警戒すべき存在が、直ぐ後ろに居た筈なのに。


 息を呑む。

 そして聞こえて来る息遣いと、――――声。

 

「動かないで」


 それは、やはり女の子の声だった。

 恐らくは自分達と同年代。

 恐らくは、先程迄意識を失っていたあの少女のもの。



 無色透明の殺気がスルリと音もなく、ジルバールの心臓を握り込んだ。

ご一読頂きまして、ありがとうございました!

ご意見・ご感想など頂けますと大変励みになりますので、もし良ければお願い致します!



また、今回のお話しにつきまして、ジルバールの発言に憤りを感じる方がいらっしゃるかと思います。そのお気持ちは当然の物だとは思いますが、彼がいじめを肯定している訳では無いという事だけはご理解頂きたく存じます。無論、作者共々『いじめられる方が悪い』等と考えている訳でも御座いません。

私の文章が洗練されていれば本来必要のない注意書きではありますが、現状確実に力不足である為、この様なみっともない文章を書き連ねる事となりました。重ねてお詫び申し上げます。


それでは、よろしければ次のお話も宜しくお願い致します。

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