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07 想察

覆灭(ふくめつ)の結び神〜ぶっちゃけ異世界ってクソじゃね?〜

第7話になります。

前回から少し遅くなってしまい申し訳ありません。

青の意見に豚脂が手こずりまして、、、。


宜しくお願い致します。

 

「しょ、処刑……!?」


 処刑が決まる。

 そう言い切ったジルバールに対し、出原は露骨に泡を喰い始めた。

 浮波城も嫌な物を感じながら尋ねる。


「随分とまた極端じゃねぇか。お前らしくもねぇ」


 ジルバールは普段、色々な可能性を考慮する為に敢えて断定を避けている。

『僕はこう思うけど、こういう可能性も考えられる』という具合だ。


 しかし、今回は『恐らく』という言葉こそ付けているが、ほぼほぼ確信に至っている様に感じられた。

 

 そして、それに対する返答は次のようなモノだった。


「そう極端でもないさ。王の気質にも拠るけれど、僕らのような得体の知れない連中が接触しようと動き回るんだからね」


「あ……」


 具体的に『王に保護を求める場合』の自分達の行動を諭されて、浮波城もようやく言わんとする意味を理解する。


「王からしたら、普通に恐怖の対象だ。自分を暗殺する為に嗅ぎ回っていると受け取られても不思議じゃない」


「で、でも、俺ら『神器』持ってるんスよ? 救世主ッスよ? 話聞いてもらえりゃ……」


「そもそも、僕は謁見なんて叶わないと思ってる。仮に釈明の機会を貰えたとしても、納得して貰えるかどうかは賭けだよ。余りにもハイリスクな賭けだ。勿論、召喚が彼らの仕業なら問題ないけれど、現状僕らには判断のしようがない」


 手刀を首に当てるジェスチャーをするジルバールに、出原はスコスコと引き下がった。

 確かに、国王を相手に交渉を持ちかけるのは危険すぎる賭けだ。


 『自分達は異界の民で、魔神を殺す武器を持っている。だから保護してくれ』。なんて、お願いした所で、信じて貰える保証はない。

 奇異な連中と見られ、権力にモノを言わせ、呆気なく首を跳ねられる可能性は否定できない。

 

「その点、魔導騎士ならまだローリスクだ。勿論、王国に保護されるより豪遊は出来ないだろうけど、いきなり『処刑』だなんて極端な話にもならないと思う」


「ようは、安全策を取るか、危険を侵して多くのリターンを得るかって事か?」


「うん。そして、この場合の危険は、『死の危険』だ。選択の余地はないと思うね」


「……まあ、そうだな」


 現状、浮波城達はこの世界の住民に『保護』して貰うしかない。でなければ、生き残る事すらままならないからだ。

 けれど、『異界人』等と言う得体の知れない存在を保護してくれる者など、召喚を行った『誰か』のみ。

 そして、その誰かの有力候補は『国王』と『魔導騎士』。

 上記のジルバールの説明により、『国王』に助けを求めるのはハイリスク。

 だから『魔導騎士』に頼るべきだと、そうジルバールは言っているのだ。


 正直、反論する気さえ起きない。

 ちらりと出原を見るが、彼も既に『国王』に保護される考えは捨てている様だ。


 『お前の案で良い』という視線を向けると、幼馴染は微笑みながら口を開いた。

 


「じゃあ、ここからは少しだけ良い話をしようか」


「良い話?」


「手帳が言っていた『魔神討伐以外の帰還方法』についてだけど、これじゃないかというモノがあるんだ」


「マジで!?」


 浮波城は、出原と共に大きく身を乗り出してしまった。

 対して、ジルバールはどうどうと抑えつつ、再び疑問を投げかけてくる。


「さっきは『誰が』僕らを召喚したか尋ねたよね? じゃあ、『どうやって』僕等らを召喚したんだと思う?」


「どうやって? そりゃあ、魔法の世界なんだから『召喚魔法』とか使ったんじゃねぇの?」


「古の魔法陣なんてのもありますよね」


 浮波城と出原の考えに、ジルバールは嬉しそうに頷いた。


「そうだね。どういう形かは知らないけれど、恐らくそういう用途の『魔法』や『道具』があるんだろう。そして―――」


 ここで、銀の眼光が鋭くなる。


「当然だけど、僕らを召喚した『誰か』は、そういった『魔法』や『道具』を保持している事になる。つまり―――」


「その魔法を使わせる事さえ出来れば、その場で元の世界に帰れる……?」


 半ば興奮気味に言葉を奪うと、ジルバールは「その通り」と言わんばかりに微笑んだ。

 ドクンと浮波城の心臓が跳ねる。

 希望を見たような気がした。


 けれど、次の出原の発言によって、直ぐに現実に引き戻される。


「え、でも簡単に帰してくれます? 『魔王』倒させなかったら召喚した意味ないじゃないっスか」


「た、確かにそうだな……」


 出原のクセにまともな意見を言うじゃないかと吃驚しつつ、浮波城はジルバールの顔を伺った。

 

「無理だろうね。でも、可能性がない訳じゃない。僕らには『神器』がある」


 その発言に、浮波城は懐疑的な顔を作る。


「『神器』って……。おいおい、実力行使でもしようってか? ぶっちゃけアレ、そんな凄くなくね?」


 確かに、魔力を持たない出原達が重力魔法や水魔法を扱えていると点は凄い。

 無から有を創り出していているのだから、本当に神ワザと言っても良いのだろう。


 しかし、肝心の火力が無さ過ぎる。

 いざ、魔導騎士を従わせようとしても、普通に返り討ちに遭いかねないだろう。


 だと言うのに、どうして『神器』に期待を寄せていると言うのか……。

 その答えは、直ぐにジルバールの肉声で告げられた。


「実情はそうだね。でも、彼からしたらそうじゃない」


「へ?」


「彼らは、僕らを『対魔神用の切り札』として呼び出した筈だ。つまりは、『神器』をそれ程大きな力として見ている」


 彼の言わんとする事が分かった様な気がした。

 その正誤を確かめるべく、浮波城は口を開く。

 


「……ようは、実力行使を匂わせるだけで、勝手にビビッて言う事聞いてくれるって事か?」


「あくまでも可能性の話だけどね」


 ジルバールの頭部が、確かに沈んだ。


「でも、魅力的だろう? もし失敗しても、彼らと共にいる限り常にチャンスが転がっているんだ」


「なるほど……」


 確かに魅力的だ。

 一緒に居れば、事故や手違いで魔法が使われるかも知れないし、情が移って……という可能性もある。

 勿論、針の孔ほどの狭き可能性ではあるが、無いよりは全然マシだ。


 なにより、最初の『脅し』が成功すれば、その時点で帰還できる。

 まあ、この『脅し』に関しては初手で成功させなければ、『神器』の微妙な性能が露呈して失敗不可避だろうが……。


 そこまで考えて、浮波城は嫌な事実に思い至った。


「……あれ? おい、ちょっと待て? 『神器』がヘボいってバレるのは、良いのか?」


「へ? どゆこと?」


 頓狂な顔で聞いて来る出原を無視して、ジルバールに質問をぶつける。


「だって、『神器』の力ありきで俺らは呼び出されたんだろ? なのに大した事ないってバレたら……」


「門前払いをくらう・かい?」


「あ、ああ……」


 それは、十分に考えられる可能性だろう。

 利用価値がないと分かれば保護する道理はない。『戦力にならないなら元の世界に帰そう』となるかも知れないが、それは都合の良い推測である気がしてならない。

 何より、浮波城は他二人と違って『神器』の発動さえ出来ていないのだ。


 『能力不全の物さえ存在する』。


 この事実は、『神器』。ひいては、『異界人』の価値を大きく下げる要因になるのではないか……。

 柄にもなく不安に駆られる浮波城だが、ジルバールは問題視していない様な口調で続けた。


「その点については大丈夫だよ。上手く交渉する自信はある」


「……!」


「でも、君の『神器』は流石に問題だね」


 上げて落とすとは正にこの事だ。

 いや、この口振りからして、自分の所為で他の者達の評価が下がる可能性はなさそうだ。

 その点に於いては胸を撫で降ろす事も出来るが……。

 浮波城は、バツが悪そうに白状する。


「……気づいてたのか。俺が神器使えないって」


「マジ!?」


「勘だったけどね。さすがに、『使えない』は庇い切れるか分からない。なんとしてでも、この森を抜ける前に発動させる必要があるね」


「つっても、原因がわかんねーしな……」


 あの時、浮波城は、確かにジルバールに言われた通りの行動をした。

 そもそも、彼自身直前まで『力の発露を成せる』気がしていたのだ。

 けれど、出なかった。何も。


「とにかく、たまたま出なかった可能性もあるし、練習はしておこう」


「もし、それでも出なかったら?」


「……」


「だまるなよ」


 ジルバールの沈黙に、一気にお通夜モードになる。

 けれど、能天気に口を開く男がいた。


「でもアレっスよね。無能が実は最強だったって、メッチャありがちっスねよ」


 出原である。

 『何をラノベあるあるを……』と、浮波城は睨みつけるが、ジルバールは希望を見たかのように顔を上げた。


「ありがちなのかい……?」


「ん? あ、ああ」

 

「つまり、読者側は『無能は実は凄い』という共通認識を持っている……?」


「まあ、そうなんじゃねぇか?」


「あんだけテンプレと化してりゃ流石にねえ?」


 浮波城は、戸惑いながら出原と顔を見合わせた。

 そして、ジルバールがニヤリと微笑む。

 彼が何を考えているのかを察して、浮波城は慌てて先の句を取る。


「お、おい、待てよ。『無能=チート』とか、この世界の奴は知らねぇだろ」


「でも、僕らの世界では常識なんだろう。もし、他の召喚者達と口裏を合わせる事が出来たなら」


「……!」


 その一言に、浮波城は目を見開いた。


「『神器使い』が全員口を揃えてこう言うんだ。『実は後々一番強くなるのは、今一番弱い奴なんだ』と。これ、寧ろ僕等より君の方が貴重な戦力として映ると思うけど」


 確かに、映るだろうが……。


「おいおい、俺だけメチャクチャハードル上がってんじゃねぇか……」


 青い顔で文句を言うと、ジルバールは溌溂とした表情で言って来た。


「勿論、彼らと接触する前に『神器』を使えるようになればそれで良いさ。けれど、無理だった場合の保険は必要だろう?」


「そりゃ、そうだが……」


「何、心配ないさ。いざとなれば、本当に最強になればいいだけなんだからね」


 浮波城は察した。

 これは過大評価タイムに入っていると。


 ジルバールは、どういう訳か浮波城に対して理想を見ている節がある。

 身体能力と根性のゴリ押しで大抵のことは乗り越えてしまうと、本気で信じているのだ。

 こうなってしまえば彼は意見を変えない。

 ずっと、昔からそうだった。


「……もう、なるようになれ」


 観念した様に呟くと、瞬間、ジルバールが満足気に微笑む。

 何となくムカついたので背中を強く叩くと、彼は『ゴメンゴメン』と手を挙げて、纏め始めた。


「じゃあ、今日はもう休んで、行動は明日からにしよう。勿論、君の『神器』の鍛錬もだ」


「わーってるよ。流石に今から試す元気はねぇって」


「体力バカが唯一の取り柄をなくし……ぐは!?」


 浮波城の拳が出原の腹に直撃する。

 それを完全にスルーしつつ、ジルバールは淡々と決めておくべき事を言葉にした。


「御神木の光の中とはいえ、誰か一人は起きていようか」


「だな。どうやって決める。ジャンケン?」


 浮波城が無難な提案をした所で、出原が「つーか」と不満げな声を漏らした。


「コイツいつまで寝てんスか? 散々寝てんですし、起こして見張らせましょうよ」


 彼が指さしたのは、未だ御神木の巨大な幹に背中を預けている黒髪の少女だった。

 意識のない彼女に、ズンズンと近付いていく後輩を、浮波城は慌てて引き止める。


「待て、バカ出原。気絶舐めんな。ちょっとの衝撃で致命傷なるってテレビで見たぞ」


「マジで!?」


 そして、そのタイミングでジルバールが意味深に口を開いた。


「うん、そうだね。頃合いかな」


「へ?」



「聞いてくれ、二人共。彼女の意識が戻らない内に、話しておくことがある」


 そう告げた、幼馴染の表情は、真剣そのものだった。






ご一読頂きまして有難う御座いました!

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