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06 方策

覆灭(ふくめつ)の結び神~ぶっちゃけ異世界ってクソじゃね?~

第6話になります。よろしくお願いいたします。

 黄金色に輝く巨大樹。

 その梢に生い茂る葉っぱは、緑や黄緑を主戦力として、紅葉や、紫色の物も生えていた。

 傘の様に日差しを遮る彼らの真下には、草花の絨毯が敷かれている。


 傘と絨毯の間を陣取っていたのは、無数の水泡だ。

 中々に巨大で、一般的なシャボン玉くらいと表現しても良いだろう。


 光る木に、光合成無しに生える草花。

 それに、一向に落ちる気配のない水泡の群れ。


 不思議な光景だ。

 少なくとも現代日本では、まずお目にかかれない超常現象がいくつも発生している。


 だと言うのに、光の中に居る三人の高校生達は、そんな事には脇目も振らず、水泡にがっついていた。


「ふう、生き返るぅ!」


 豪快に喉を鳴らして水を飲み干した浮波城(ふわしろ)は、身体の端まで水分が行き届くのを実感しながら腰を下ろす。


「美味かったぜ。サンキューな、ジル」


 そして、未だ飲み続けている出原(でばら)を横目に、ジルバールに労いの言葉を送った。辺りに浮かぶ水の雫たちは、正真正銘、全てジルバールが生み出した物だ。

 

 周辺に、川や湖が見られなかった為、『水を放出する神器』に白羽の矢が立ったのである。


 最初こそ『武器から出る水を飲むなんて正気かい!?』と、難色を示していたジルバールだったが、彼も人の子。灼けるような喉の渇きには打ち勝てず、提供する運びになったのである。


「しつこいようだけど、不調を感じたら直ぐに報告するように」


「わーってるって。てか……」


 お母さんの様に釘を刺してくる幼馴染に適当に返事をしつつ、浮波城は『光る樹木』を見上げた。


「マジであったな。光る木……」


「……そうだね。魔物が現れる気配もないし、本当にこれが『御神木』という奴なんだろう」


 時折降ってくる微粒子状の光を、ジルバールが手を皿にして受け止める。

 空を喰い破らんばかりに広がる葉。

そこから降り注ぐ発光体が、光る木の正体だ。

 風に煽られ常に形を変える粒子は、まるで黄金の羽衣の様で、本体である幹をグルッと取り囲むように外敵から守っていた。


 こんな目立つ木に気づかない訳もないので、本当に魔物は避けているのだろう。

 つまり、ここにいる内は安全だという事だ。

 正直、気が緩むのを感じる。

 けれど、そんな浮波城の心情を察したかの様に、ジルバールは一石を投じて来た。


「さて、そろそろ状況を整理しようか」


 その発言に、流石の出原も給水を中断し、近寄って来る。

 浮波城も未だ目覚めぬ黒髪長髪の少女へと視線を向けた。

 ジルバールですら見覚えのない、千三(せんみ)高校の女子生徒。


 彼女の現れ方は、明らかに自分達のモノとは異質だった。召喚の反動で意識を失っている事からもそれは明らか。


 故に、彼女について調べてれば、何か有力な情報を掴めるかも知れない……というのが浮波城の考えだったが、どうやらジルバールの思惑は違ったようだ。


「いや、彼女の事は一先ず放っておこう。目が覚めてから直接聞いた方が早い」


「じゃあ、何を話すんだ? 帰る方法とか?」


 浮波城は期待半分、おチャラけ半分に尋ねた。

 『帰る方法』自体は既に開示されている。

 『魔神を倒す』という無理難題と、『その他の方法』という酷く曖昧なモノだ。

 情報不足過ぎて考察も何も無いだろうが、ジルバールなら『その他の方法』の候補を導き出してくれる。そんな身勝手な期待を込めた問いである。


「うん」


 対してジルバールは、恐ろしい程あっさりと頷いた。

 此方の意図が伝わっているかどうかは定かではないが、浮波城はドキリとしてしまう。


「でもまずは前提の確認をしよう」


 そう言って、ジルバールは指を二本立てた。銀の視線が浮波城と出原を貫く。


「正直に答えてくれ。元の世界に帰りたいのか、この世界で暮らしたいのかを」


 誤魔化さずに本音を話せと、銀色の瞳が告げていた。

 だが、正直浮波城には、何故彼がこんな事を訊いて来るのか理解できなかった。

 故に即答する。


「そりゃ、帰りたいに決まってんだろ。なあ、出原?」

「そっスよ。二択の意味あります?」


 出原でさえ同意してくる。


「どうしてだい? 『魔法が使える別世界』なんだよ? 元の世界のしがらみは何もない、理想の世界じゃないか」


「いや、ジルさんよぉ。俺ら現代人なのよ。科学文明の申し子。分かる? こんな前時代的世界で生活できるわけねぇだろ」


 実際、この世界の生活水準がどの程度かは知らない。

 けれど、『異世界転生・召喚』の舞台は大抵『中世ヨーロッパ』だ。

 実際の中世ヨーロッパの生活を知っている訳ではないが、少なくとも現代よりもずっと不便である事は容易に想像できる。そして、娯楽に飢えて、「やっぱ帰りてー!」となる自分の姿も。

 加えて、何より―――。


「そもそも、この世界、『魔王』に滅ぼされそうになってんだろ? それでなくても、普通にバケモンいるし、残りたいわけねぇだろ」


 この要素は余りにも大きい。出原もブンブンと頷きまくっている。

 だと言うのに、ジルバールは尚も食い下がってきた。

 

「僕達には『神器』がある。その力を使って『魔神』も『魔物』も倒してやれば良いじゃないか。そうすれば、君達は『英雄』だ。一生食うに困らないよ」


「……さっき三人がかりでギリギリだったじゃねぇか」


「てか、この世界で食うに困らなくなってもねぇ?」


 無理だし割にも合わないと、出原と共にそう告げたが……。


「だったら、『魔神』には手を出さず、襲ってくる『魔物』だけを倒して細々と暮らすのはどうだい? そもそも、この世界に残るのであれば『魔神』を倒す必要なんかないしね」


「……」


 まあ、確かに帰還を目的としないのであれば、帰還の条件たる『魔神』と戦う必要は丸ごと消え失せるが……。

 その『魔神』が侵略してくる世界で暮らす以上は、どうしたって戦う必要が出てくる。倒さなければ殺されるのだから、どの道やり合うしかないのだ。

 結局、彼の主張は空回っている。

 どう考えても、この世界で暮らすメリットなどない。


 らしくない主張を繰り返すジルバールに、浮波城は出原と顔を突き合わせた。

 お互い、呆れ顔かつ困惑顔だ。

 「幼馴染なんだからアンタが聞けよ」という後輩のテレパシーを感じ取って、浮波城は渋々尋ねる。


「おい、もういいだろ、ジル。さっきからなんなんだよ? 意味不明な事ばっか言いやがって」


「酷い言われようだね。君達の耳には、そんなに頓狂な提案に聞こえていたかい?」


「聞こえまくりだよ。俺や出原丸め込めないって相当だぞ。てか、お前そもそも、丸め込む気ないだろ」


 仮にジルバールが本気でこの世界での暮らしを望んでいたとしたら、もっと弁舌を尽くして説得にかかっている筈だ。

 それこそ、本当にその気にさせられてしまったかも知れない。

 それ程までに、ジルバールとは知力の差がある。


「何がしたかったんだよ? お前自身この世界に住むの望んでねぇなら、今の問答は全部なんだったんだ?」


 それこそ、只の時間の浪費だったのではないのか。

 そう視線で訴えると、ジルバールは数秒沈黙を保ち―――あっけらかんと答えた。


「そうかい。なら、『元の世界に帰る為の方針』を決めようか」

 

「!?」


 余りにもあっさり、先程までの意見を取り下げるものだから、浮波城はついつい訊いてしまう。


「なんだよ? やけに急に引き退がるじゃねぇか」


「そうかな? まあ、念の為の確認さ。君達は、『もし異世界に行ったら』って話で盛り上がっていたからね」


「……!」


 ジルバールが引き合いに出してきたのは、この世界に飛ばされる直前の会話だった。

 確かに、試験勉強に行き詰まり、出原と共にそんな与太話をした覚えはある。


 故に、念のため本心を確認していた。

 というのがジルバールの主張だが、浮波城にはどこか言い訳臭く感じられた。


「ば、バカっスね、ジルさん! あんなのマジな訳ないじゃないっスか! 例え話っスよ、例え話!」


 しかし、付き合いがそれ程でもない出原は完璧に納得させられてしまったらしい。唾を飛ばしながら赤い顔で弁解を始めている。

 「はいはい、分かったよ」と父親の様に宥めつつ、ジルバールは表情を引き締めた。


「僕らの目的は『元の世界への帰還』。じゃあ、この世界には、誰の手によって召喚されたんだと思う?」


 浮波城は「そりゃあ……」と頭を捻る。

 この世界を救わせる為に呼び出したのだから、必然的に……。


「この世界の誰かだろ? 国王とか、メッチャ凄ぇ魔法使いとか」


「あと、神様ってパターンもありますよね」


 出原も自らの予想を口にする。

 それらは全て、異世界転生や召喚物のテンプレと言われている転移方法だ。

 どれも創作物の設定ではあるが、事実、小説の様な状況に置かれているので考慮しない手はない。

 ジルバールも、「そうだね」と頷いてくる。


「『魔神』を倒す為に召喚されたんだから、『魔神』に侵略されている側の人間の仕業だと考えるのが妥当だ。それに、『神器』が実在している以上、神様説もなくはない」


「なくはない・か。お前ん中じゃ一枚劣るみたいじゃねぇか」


 浮波城がそのように指摘すると、出原が途端に「えー」と不満げな声を漏らした。

 困った様な笑みを浮かべながら、ジルバールは説明する。


「あくまでも確定しているのは『神器』と呼ばれている(・・・・・・)武器の存在だからね。見たことも会ったことも無い以上、実在が確定的な『この世界の誰か』を推すのは当然だよ」


 『神器』と呼ばれている……。

 この言い方から察するに、ジルバールは『神器』の『神から与えられた救世の武器』という謳い文句にも疑念を抱いているらしい。

 その気持ちは、浮波城にもよく理解できた。

 自分達の持つ武器は、『神の武器』というには余りにも弱すぎる。


「そして、召喚を行った『この世界の誰か』は、僕らの力を欲している訳だ。つまり、その誰かに助力を仰げば快く『保護』して貰える可能性が高い」


「『保護』……? んな事されなくても適当に宿取れば良いんじゃないっスか?」


 出原の主張に、ジルバールは現実的な問題を羅列した。


「この世界のお金を君は持っているのかい?」


「え」


「言葉や文化への理解は?」


「……」


「僕らはこの世界の住人の大半にとって『得体の知れない異物』だよ。奇妙な格好をして理解不能な言語を話し、『神器』という武器も持っている。下手に接触しようものなら攻撃対象になりかね―――」


「はーい、もう黙りまーす」


 早々に降参した出原は、一歩下がってジルバールに続きを促した。

 正直、『保護』される必要性について出原と同程度の認識だった浮波城は、口を開かなくて良かったと胸を撫で降ろす。


「つまり、僕らが頼れる相手は『国王』か『魔導騎士』に絞られるという事だよ」


「『国王』は分かるとして、『魔導騎士』ってのは……」


 そう浮波城が首を捻ると、ジルバールが手帳のとあるページを掻い摘んで読み上げた。


「魔法を使って魔物と戦う者達の総称だね。単独で動く者もいる様だけど、大抵が『退魔』を掲げる組織に所属しているみたいだ。僕らの世界の自衛官や警察のようなものかな」


「警察っスか。イイんじゃね?」


 説明を聞いて、出原が好色を示す。

 『警察』と言う単語に一定の安心感を覚えたのだろう。かくいう浮波城もその口だった。


 つまりは、『国王』か『警察』が自分達を呼び出した可能性が高い。

 だから、ひとまず彼らに『保護』を求める。


 中々良い案なのではないだろうか?

 土台直ぐに元の世界に帰れる保障など無いのだから、必然的にこの世界での生活拠点は必要になる。その相手として『国王』や『警察』はかなり魅力的だ。『国王』なんて特にだろう。

 ただ、一つ問題点があるとすれば……。


「けどよ、それってカモがアレするようなモンじゃねぇのか?」


「鴨が葱を背負って来る・かい?」


「それそれ」


「カモしか言えてねえじゃん」


 指を差して来る出原の腹に拳を入れつつ、浮波城は続ける。


「それだと、保護はされても『代わりに魔王倒すの手伝えや』ってなんねぇ?」


「なるだろうね。タダで助けて貰える訳がない。というか、『魔神討伐』が帰還の確定条件な訳だけど、君は倒す気がないのかい?」


 意外そうな顔で聞いて来るジルバール。

 けれど、浮波城はそんな反応をする幼馴染の方が意外だった。


「ねぇよ。てか、お前だってねぇだろ?」


 何故なら、帰る方法は、その一つだけではない。

 ソレは既に、手帳により明言されている事実だ。

 どんな方法かは分からないが、少なくとも『魔神討伐』より危険が伴う事はないだろう。わざわざ死のリスクが高い方法を選ぶ必要はない。


 浮波城は、当然の様にそう思っていたのだが……。

 ジルバールの意見は違った。


「そうだね。けれど、その『他の帰還方法』が見つかる保証もない。何せ、僕らは『他の方法』がどんな物なのか、検討すらついていないんだから」


「……」


 それは、浮波城にとって聞きたくない言葉だった。

 勝手ながら、ジルバールなら『他の帰還方法』がなんなのか推測できると期待していたからだ。

 その心情を、ジルバールは汲み取ったように諭して来る。


「浮波城……。勿論、僕も『その他の方法』を探す事には賛成だよ。けれど、何事も最悪を想定しなければならない。『魔神討伐をせざるを得なくなった時』の想定をね」


 正論だった。

 希望論だけを追いかけていては、いつまで経っても元の世界は近づいてこない。

 堅実に、既に提示された確定条件を満たす努力も行うべきなのである。


「じゃあ、俺らが頼るべきなのは『魔導騎士』か? いや、数なら『国王』のが上か?」


「質を取るか数を取るかという話だから一概にどちらが上とは言えないけれど、どちらが召喚したにしても、僕は『魔導騎士』を頼るべきだと思うよ」


「え? なんでっスか?」


 出原が太い首を傾ける。

 浮波城も同意見だ。

 戦力的にどっちが良いと言えないのなら、『国王』に保護された方が色々とお得なのではないか。そもそも、『国王』が命令すれば、『魔導騎士』だって力を貸してくれる可能性が高い。


 けれど、次の瞬間、ジルバールの口から恐ろしい推測が告げられた。



「簡単な事だよ。もし、僕らを召喚したのが『国王』でなかったら、恐らくその場で僕らの処刑が決まる」


ご一読いただきまして有難うございました!

ご意見ご感想いただけますと大変励みになります。

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[良い点] 文章がとても良くできており読んでいて目が疲れません。 設定も凝っててありきたりでは終わらせないと言う気概を感じます。 [一言] これから応援しております!
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