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05 御神木

覆灭(ふくめつ)の結び神~ぶっちゃけ異世界ってクソじゃね?~

第五話になります。よろしくお願い致します。

 

 突如として現れた亀裂。

 ソレは、少女を吐き出した後、忽然と姿を消した。


 歪んでいた空間も元通りになり、何事もなかったかのように風が吹き抜けている。地面に投げ出された少女は、どうやら気を失っているようだった。


 うつ伏せになったままピクリとも動かず、腰ほどまで伸びた黒髪が、そよ風に煽られ(なび)くのみである。

 そんな彼女は、ジルバールの言う通り千三高校(せんみこうこう)の制服を着ていた。


「……千三高校(ウチ)の生徒が俺らと同じ様に召喚されたって事で良いんだよな……?」

「恐らくね……」


 浮波城(ふわしろ)とジルバール。

 双方とも煮え切らない言い方なのは、確信を持てないからだ。

 自身の学校の制服を見間違えたりはしない。それを着ている彼女が千三高生である事は、紛れもない事実だろう。

 しかし、登場の仕方が引っ掛かる。


 浮波城達は、生徒会室の戸を開けた瞬間この森に来た。それは正に一瞬の出来事で、空間が歪み、亀裂が入る等という仰々しい現象が起こったとは思えない。

 何より、自分達と違い、少女が気絶するほどのダメージも負っているのも気がかりだった。

 転移の仕方や肉体への負担が、個人個人でここまで違うものなのだろうか。


 そんな事を思いながら、浮波城は彼女の顔を覗き込む。

 瑞々しい黒髪が掛かる小さな顔は、陶器のように白い。

 それが自前なのか、血色を悪くしているからなのかは分からなかったが、目鼻立ちからして、途轍もなく整った容姿の女子生徒である事は間違いなかった。


 正直、このレベルともなると、校内でも学園のアイドル的な騒がれ方をしていそうなものだが……。


「ジル、お前コイツ知ってるか?」

「いいや、記憶にないね。少なくとも三年生(同級生)じゃないと思うよ」


 ジルバールはあっさりと首を横に振った。

 顔立ちからして三年生ではないかと予想していたのだが、同学年を全員記憶している彼が言うのなら、そうなのだろう。

 だとすれば二年生かと、浮波城は駄目元で後輩に振る。


出原(でばら)、お前は?」

「知らねっスよ、こんな特徴ない奴」

「ま、だよな」


 『特徴ない奴』という表現は引っかかるが、概ね予想通りの回答だった。

 人の顔を覚えるのが苦手な出原にとって、黒髪ロングの大和撫子というのは、マイナス要素が無いため記憶し辛い顔なのだろう。そう解釈し、浮波城は幼馴染に尋ねた。


「どうする、ジル? 放置しとく訳にもいかねぇし、連れてくか?」

「……そうだね。背負えるかい?」

「小柄だし、いけんだろ」


 浮波城は実際に少女を背中に負ぶって有言実行して見せる。

 気絶している関係上、想像よりは重かったが、歩く分には問題ない程度だ。


「うわぁ、セクハラ~」

「うっせぇ」


 悪ふざけで後ろ指を差してくる出原の足を踏み抜いて、ある意味今更な疑問を口にする。


「てか、どこ行くんだ俺ら? とりあえず歩くか?」

戦場跡(この場)から離れるという意味ではそれもアリだけど、適当に歩いた先で魔物と遭遇してもアレだからね……」

 

 そう前置きをして、ジルバールは生徒手帳を開いた。

 何か有益な情報が書いていないか探しているのだろう。


 あの喋る手帳の言う通り、コレが『便利アイテム』であるのなら、『安全地帯』か何かが記されている可能性は高い。

 奴の語った事が真実ならば、ここで浮波城達異界人に死なれるのは本意ではない筈だからだ。

 まあ、だったら最初から安全な場所に呼び出せよと言う話なのだが……。


 等と内心文句を垂れていると、不意にジルバールの声が鼓膜を突く。


「あった」


 浮波城は顔を寄せる。どうやらそれは、この森の地図である様だった。

 手帳の後半のページに見開き一杯に森の地形が記されている。

 左ページの上部には『ログトリア:ロベリアの森』とあり……。


「こ、こりゃあ……」


 浮波城は思わず声を引きつらせた。

 地図が見つかったのは良い。これがあるという事は、ここが未開の地でないという事の証だ。  

 少なからず人の手が加わっており、現地住民が停泊する場所をセッティングしている可能性だってあるだろう。


 浮波城や出原は地図などまともに読めないが、その点もジルバールがいるので問題にはならない。

 しかし……。


「まいったね……。まさか目印になる記号すらないとは。只でさえ土地勘皆無な異界の地図だと言うのに」

 

 珍しくジルバールが物にケチをつけた。

 そう、この図面には、地図記号の類が一切書き込まれていないのだ。只々、地形を細かく記してあるだけで、いっそ正確な模写絵と言っても良い。

 原住民ならこれだけで十分なのかも知れないが、異界民にとっては不親切もいい所である。現状、自分達が、この地図のどの地点にいるのかさえ分からない。


「地図があれば、そこに安全地帯が書き込まれているかと思ったけど、見込みが甘かったね」

「いや、そんぐらい書いててくんねぇと、便利もクソもねぇだろ」


 浮波城は、愚痴りながら地図に触れる。

 それは、なんとなくだった。


 本当に、なんとなく。特別な意図があった訳ではない。

 しかし次の瞬間、地図の上空に立体の地形が投影され―――。


「え」


 それはさながら、森をかたどったジオラマの様だった。

 その中の一か所に、不自然な黒点が四つ出現する。

 恐らくはこの黒い点が、自分達の現在地を示しているのだろう。

 そう解釈して、浮波城はジルバールの肩に手を置いた。


「よ、よかったな。カーナビタイプ(超便利)じゃん」

「まあ、そうだけど……。これじゃ結局どこが安全なのかが……」

「アレ? なんかそこ光ってません?」


 不意に会話に入って来た出原が、ズイッと右手を伸ばした。


 余りにも躊躇が無いものだから、浮波城もジルバールも、全く反応する事が出来ず、後輩の指 先が立体模型の一部に触れる。


「お前、何を勝手に……。せめてジルに見せてからにしろよ」

「いや、アンタだって、ノホホーンと触ってたじゃないっスか」


 軽率な行動に苦言を呈し、言い返されたタイミングで、新たな画面が展開される。

 そこ書かれた説明書きを、ジルバールが読み上げた。


「『魔除けの御神木』。魔の嫌う光を放つ樹齢千年を超える大木……」

「魔除け? ならそこ行きゃ魔物は寄ってこないのか?」

「額面通り受け取るなら、そうなるんじゃないかな」


 ピクリと反応した浮波城に、ジルバールは頷いた。

 無論、確実という訳ではないが、現状、それに縋る以外の選択肢がないのも事実だ。

 目的地は決まった。


「出原、お前どこに手ぇ置いた?」

「へ? いや、光ってたトコとしか……」

「はぁ? テメ―――」

「ここから少し南下した地点だよ。詳しくは、この画面を消して確認すればいい」


 口喧嘩を察したらしいジルバールが、早々に口を挟む。

 そして、光る木の説明画面をタップして、消した。

 彼は改めて御神木の場所を確認して、一つ頷き告げる。


「うん、ここからそう遠くはないようだね」

「そいつは良い。いい加減コイツも重く感じて来たからな」


 浮波城は一度背中の少女を背負い直した。


「つーか、降ろせば良かったのに。おっぱい気持ち良いんでちゅかぁ?」

「馬鹿野郎、慎ましすぎて当たってる気がしねぇよ。てか、マジで糞野郎だな出原テメェ」


 贅肉の付きまくった自身の胸部を鷲掴みにして煽ってくる出原に蹴りを入れる。

 露骨に身体が揺れた筈だが、彼女が目覚める気配は一切ない。


「全員、念のため神器は仕舞わないでおいてくれ」


 ここで、ジルバールの指示が飛んで来た。浮波城は出原と共に彼に向き直る。


「魔物と遭遇したら極力回避する。無理なら戦って突っ切る。目的地が近くなったら強行突破だ。良いね?」

「おう」

「魔物なんて俺の重力でケチョンケチョンにしてやりますよ!」


 さきの戦闘で活躍したからか、出原は妙に自信に満ちていた。とても敵ごと味方全員に重力を注いできた人間の台詞とは思えない。

 一端の口はもっと力を使い熟してからにしろと思いながら、浮波城は自身の『神器』に視線を移した。


 こうして意識を集中させれば、やはり不安など吹き飛ぶほどの心強い力を感じる。

 あの戦闘中もそうだった。

 もし、出原の重力に邪魔されなければ、発動させた瞬間に『ボス個体』を倒していたかも知れない。


 ―――……いや、本当にそうか?


 心の奥底で冷静な自分が疑問を呈する。

 本当に、出原に邪魔をされたからなのかと……。


 浮波城はあの時、確かに力を開放したつもりで剣を振った。いや、振り抜き切っていた。

 本来であれば、出原と同時に力が発露し、『重力に妨害され発動出来なかった』という事象は起こり得なかった筈だ。何故なら、既に発動していたのだから。


 だと言うのに、浮波城の『神器(太刀)』からは、何の攻撃も飛び出してこなかった。

 これが指し示す事とは……。


「浮波城!」

「……!」


 名を呼ばれ、顔を上げると少し離れた所に幼馴染の顔があった。その横には出原の姿もある。どうやら、既に歩き始めていたようだ。

 慌て追いつくと、ジルバールは無言で首を横に振ってくる。

 まるで、今はその事は気にするなと、そう言っているかの様だった。


 確かに、今考えても仕方のない事ではある。

 そう簡単に答えは見つけ出せないだろうし、腰を据えて三人で考察し合うべきだ。

 その為には、安全地帯に急がなければならない。

 こんな所で考え込んで、進行速度を落とす理由はない。

 浮波城は思考を切り替え、意識を生い茂る森の中へと向けた。





 背中の少女が、今まさに、薄っすらと瞳を持ち上げた事に気付かずに―――。


ご一読ありがとうございました!

ご意見ご感想頂けると大変励みになります。よろしくお願い致します。




【浮波城】

・得意科目:『体育』…日々の勉学を犠牲にして、帰宅部にも関わらず運動部以上の身体能力を手に入れた。その戦力は運動部三人分に相当すると言われており、体育の試合内のチーム決めでは彼の争奪戦が発生する。但し、複雑な作戦を理解する脳はないので、戦略性の重要なゲームでの過信は禁物。

また、短距離走において彼の右に出る者はいないが、長距離走は性格上高確率でダレる。去年のマラソン大会は途中で徒歩にシフトし、最下位となった。


【ジルバール】

・得意科目:『すべて』…基本的に全教科で満点を叩きだす、創作物の中にだけ存在を許された怪物。たまに間違えた時は、教師が総出で何度も回答を見直すという逸話を持つ。

たまに間違える時点で完璧超人キャラとしてはスペック低め。


【出原】

・得意科目:『生物』…彼の中では得意な科目だが、それでも赤点ギリギリ。普通に赤点の時もある。この事について本人は「カブクワ(カブトムシとクワガタ)の問題だったら満点取れるのにな~」と豪語している模様。因みにそれらの知識は、小学生の時に流行っていたアーケードゲームの情報で止まっており、昆虫愛好家どころか、ちょっと詳しい中学生にも鼻で笑われるレベル。

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