18 開戦
覆灭の結び神-ぶっちゃけ異世界ってクソじゃね?
第18話の投稿になります。どうぞよろしくお願い致します。
前回のあらすじ
世良の凶刃から、浮波城を救ったルノー・アルフィード。
彼は、お道化た態度で『異界人vs団長』の対決を提案する。負けたら勝った方のいう事に従うと言う条件だ。
それを了承したジルバールは、浮波城と出原に語る。
この戦いは、『神器の性能を見せつけるチャンス』だと……。
「『神器』の性能を見せつけるって……」
そんな事をして意味があるのかと、浮波城はジルバールに懐疑的な視線を送った。
見せつけるも何も、そもそも性能の程はバレているのだ。
今更『大したことない力』を見せつけてなんになるのかと……。
しかし、幼馴染はその問いには答えず、辺りに目配せをする。
「君の疑問は最もだよ。でも後にしてくれ。もう説明している時間はなさそうだ」
「……は?」
その指摘によって、浮波城は周囲の変化に気が付いた。
あからさまな程に、人の気配が薄らいでいるのだ。
周囲を見渡すと、この円形の室内において、自分を含めた数人の千三高生が部屋の中央に孤立している。
他の同郷者達は、既に一歩も二歩も三歩も下がり戦闘不参加の意思を示し終えていた。
パチパチパチ……―――。
ここで、乾いた柏手が鼓膜に入り込む。
「メンバーが決まったみたいだね。三分以内に選出し終えるなんて優秀じゃないか」
ルノー・アルフィード。
試合の提案者でもある優男の魔導騎士が、薄い笑みと共に賞賛を送ってきた。
それは、まるで『小学校の先生が児童を褒めているかの様な物言い』で……正直煽られているとしか思えなかったが、『世良劇場』を見せつけた後では仕方のない反応だろう。
そう心を静めて、浮波城は改めて残った人間を確認し始めた。
総数は、『六名』。
浮波城、ジルバール、出原。
それ以外は世良と、金髪ピアスの男と、茶髪ウェーブの女である。この二人は、最初に壮年魔導騎士に食ってかかった同級生である。
「うわ……、めんどくさそうな奴ばっかじゃねぇか」
浮波城は、思わず素直な感想を口にしてしまった。
完全に自分のことを棚上げした発言だが、幸い彼の言う所の『めんどくさそうな奴等』には、その声は届かなかったらしい。
「ウケる! 6対1とかイジメじゃね?」
「ね~、戦うのロン毛のお兄さんだけで良いんですかぁ?」
金髪男子と茶髪女子が、クスクスと嗤いながらルノーを指差した。
明らかに、学生特有の大人を小馬鹿にするようなニュアンスが含まれた発言だ。
そんな無礼な態度に対し、当の本人はケロッとした様子で首を振った。
「あー、違う違う。僕は戦わないよ―――?」
「はぁ?」
「なんだと?」
その意外過ぎる発言に、浮波城はつい頓狂な声を上げてしまう。
そして、それと重なる形で、聞き覚えのある女性の声も聞こえて来た。
艶やかな赤褐色の長髪に、染み一つない白肌を拵えた美人……ユーラと呼ばれる魔導騎士も、耳を疑う様な顔でルノーを見ている。
どうやら味方である筈の彼らも、優男の発言は予想外だったらしい。
しかしそんな周りの空気をものともせず、彼は魔導騎士達の人垣に声をかけてしまった。
「颯香団長、鴇音団長。来てくれるー?」
「なんだ、日葉団長達に戦ってもらうのかい?」
リーク・ヴェンパーの問いに、ルノーは「ご明察」と親指を立てた。
かなり腹立たしい顔ではあったが、浮波城は別の所に引っ掛かりを覚える。
「ヒカミ……? は? 漢字?」
その様に呟くと、同じく違和感を覚えていたらしい出原が慌て始めた。
「え? じゃあ、日本人? でも『団長』とか言ってましたよ?」
どうしても和名にしか聞こえぬ音の響きに、浮波城と出原は戸惑う。
もし本当に日本人だとしたら、その『ヒカミ』なる人物も召喚された人間という事になるが、だとしたら何故そんな奴が『魔導騎士』という異世界特有の組織に属しているというのか……?
帰ろうとは思わなかったのだろうか?
組織の『団長』という地位についてしまっている以上、彼がこの世界に来たのは、下手をすれば何十年も前だろう。
もし、その長きに渡って帰還方法を見つけられなかったのだとしたら、本当に帰る手立てなど……。
浮波城が悲観的な想像を繰り広げたタイミングで、ついに二人の魔導騎士が姿を現した。
男の子と女の子だった。
どちらも怖いくらいに小柄で、男の子の方は空を想起させる澄んだ寒色の髪を持っており、女の子は瑞々しい金髪を特徴的な形に結い上げている。
背格好は二人共同じくらいだが、やけに対照的な印象を覚えた。
そう感じるのは一重に、不機嫌そうに腕を組んでいる少年に対し、少女の方は不安げな表情を見せているからだろう。
「は? ちょーガキじゃん」
「だな……」
出原の呟きに、浮波城も肩透かしを食らったように頷いた。
後輩の言う通り、彼らは『子供』だ。
『背丈の低い成人』という可能性もなくはないが、それにしては顔立ちが幼すぎる。恐らくは背丈通り『小学生』……若しくは『春先の中学一年生』と言った所だろう。
とても、『数年前からこの世界に飛ばされた人物』とは思えない。
そして『魔物と戦う組織の一員』とも……。
少なくとも、後者の感想が浮波城の偏見でない事は、他の者達の反応からも伺い知ることが出来た。
千三高サイドの人垣から、
「ちっちゃい……小学生?」
「馬鹿、小学生がこんなトコいるかよ」
「金髪の子かわいい……」
等と戸惑いの色が沸く。
そして、世良も目尻を吊り上げて怒号を飛ばした。
「ふざけるな……! まさか、こんな餓鬼共と戦わせるつもりか……!?」
同調する様に金髪ピアスと茶髪ウェーブも批判意見を連ねる。
「そうだそうだ! ケガさせたらどうすんだ!」
「てか、子供に本気出せないしぃ? もしかして作戦?」
まあ、同調元は『子供に戦わせるなんて酷い!』ではなく、『子供に相手どらせるなんて、舐めているのか』と憤っているのだろうが……。
どちらにしても、三人分の瞋恚の視線がルノーに注がれている事には変わりない。
けれど、黄緑髪の魔導騎士は、寧ろ可笑しそうに言葉を紡いだ。
「だってさ~、もし僕が勝ったら、君達納得する?」
「は?」
「僕みたいな『如何にも経験豊富な大人の魔導騎士達』が相手じゃ、普通に考えて君達負けて当然でしょ?」
「……」
浮波城は、ルノーの言いたい事を理解した。
つまり、負けた異界人達に難癖をつけられるかも知れないと考えている訳だ。
確かに望む結果にならなかった場合、『大人と戦わせるなんてズルい!』と騒ぐ輩が出て来ないとは限らない。
というか、世良辺りなんかは普通に喚き散らしそうな気もする……。
実際、彼は、拳を握ってプルプルと震えており、今にも叫び出しそうな雰囲気だった。
だが、ルノーはそれを見越してか、仏頂面な男の子の後ろに回り身を隠す。
そして、その小さな両肩に手を置きながら、ねっとりとした声を奏でた。
「でも、対戦相手が子供だったらそうもいかない。子供に負けて駄々捏ねるなんて、そうそう出来る事じゃないでしょ?」
「まあ、確かにメッチャみっともない絵面だわな……」
浮波城は実際の場面を想像して顔を青くした。
対して、ルノーは「でしょ~?」とクスクス笑いながら、子供の魔導騎士に手を払われる。
その時―――金髪ピアス、それに茶髪ウェーブが拗ねた様な声を出した。
「いや、それアンタの妄想じゃん……。ウチら別にダダこねないし」
「だよなぁ。てか、何勝手に決めてんの? その子達に許可取ったのかよ?」
「じゃあ、彼らが良いと言えば大丈夫って事かな?」
「ま、まあ、それなら……ね?」
「ああ、俺らもケガさせない様にするしな」
ルノーの雑な誘導に引っ掛かり、金髪と茶髪は最初のスタンスとは真逆の意見を口にする。
この間、世良は終始無言だった。
正直嵐の前の静けさの様で不気味でならなかったが、異を唱えないのならで『無言の肯定』と受け取って良いのだろう。
そもそも世良のスタンスは『誰が相手でも勝つ』だ。だというのに敵の人選にケチをつけるのも可笑しな話ではある。
話は纏まった。
そんな空気が場に充満し始めた事が、浮波城達にも分かった。
ルノーは一度手を叩いて、子供達に声をかける。
「さて、彼らはこう言っているけど、戦ってくれるかい? 二人共。まあ、実際に戦うのは選ばれた一人だけどね」
お道化ながら尋ねたルノーに、子供団長の片方が緊張した面持ちで背筋を伸ばした。
「は、はい……! ルノー団長の代わりを務められるように頑張ります!」
そう宣言し少女の魔導騎士は、頬が仄かに蒸気しており、『憧れの先輩の期待に応えたい』という微笑ましい気負いが伝わってくる。
「ははは、鴇音ちゃんは可愛いなぁ。良いんだよ? そんなに肩肘張らなくって」
「い、いえ……あ、はいっ……!」
「アハハ」
ロボットの様にカクカクになっている少女を撫でながら、朗らかに微笑みをかけるルノー。
正直、身長差や年齢差を考えると、かなり犯罪チックな絵面にしか見えないが、そこはイケメンオーラで強引に圧し潰している。
そして、次に少年の方にも同じ事をしようとしたが……。
「颯香くんも大丈―――」
「触るな、気色悪い」
こちらには冷たく手を叩かれてしまった。
肩を落とすルノーに、少年が声をかける。
「アルフィード……。仮の話しだが、俺達が敗けた時の想定もお前の中ではついているんだろうな」
「え? 敗けた時って、君らが負ける訳ないじゃない」
「……」
朗らかに手を振るルノーに、少年は沈黙を返した。
なんというか、下手に茶化せない緊張感が充満している様に感じる。
ルノーも同じ様に思ったのか、遂に真面目な顔で彼の問いに答えた。
「うん、バッチリと」
自信満々にグッドサインを送るルノーに、薄空色の魔導騎士は暫く品定めするかの様な視線を送っていたが、やがて目を伏せ、唇を動かした。
「……良いだろう」
そして、前方……つまり、浮波城やジルバール、世良達の正面まで移動する。
「さっさと選べ、異邦人共。いつまでもこんな下らん事に付き合う程、俺達は暇じゃない」
腕を組みながら、随分と偉そうな態度で此方を見上げて来る子供の魔導騎士に、正直浮波城は少しイラっとしたが、ここで文句を言っても話は進まない。
年上の自分が大人になってやろうと、胸中でマウントを取りつつ、ジルバールに話を振ろうとした。
しかし―――、それより早く世良が口を開く。
「気に入らないな……その態度。だが、暇じゃないのは我々も同じだ―――」
そして、言葉の途中で剣を振り上げた。
刀身から閃光が放たれ、少年の身体を丸ごと呑み込んでいく。光には物理的な破壊力があるらしく、轟音と共に衝撃と煙を立ち昇らせた。
その完全なる不意打ちに、魔導騎士側はどよめく。
「き、貴様……!」
特に、女性魔導騎士が過剰反応を示した。今にも斬りかかりそうな剣幕を世良に向ける。
けれど、世良は嘲笑するように答えた。
「なんだ? 時間を惜しがっていたのは奴だろう? てっきり開戦の合図すら惜しんでいるのかと思ったんだが……」
「―――そうだな」
「……!」
余裕綽々に言葉を紡ぐ世良に、煙の中から返事が返って来た。
煙幕は既に薄まり、消その中に直立している人物の影がハッキリと視認できる。
少年は無傷だった。しっかりと二本足で立っており、とても攻撃された後の状態とは思えない。
驚愕する世良を他所に、少年は同僚の少女に声をかける。
「退がれ、朝宮。奴らの指名は俺だ」
「は、はい!」
その指示に身を引こうとする金髪少女だったが……何故かジルバールは声をかけた。
「すまないが、ちょっと待って欲しい」
「え?」
驚く少女に、生徒会長は次のように続ける。
「申し訳ないけれど、君は僕らと戦ってくれないかい?」
「「は?」」
訝しむ少女の声と、浮波城は声が重なってしまった。
そんな二人を他所に、ジルバールは神器から水を放出し、自身と浮波城、出原の周りに漂わせる。
まるで『僕ら』とは『この三人』だと主張するかの様に。
浮波城は、幼馴染の意図が全く理解できなかった。
自分達三人が彼女と戦うのであれば、少年の方と戦うのも世良、金髪ピアス、茶髪ウェーブの三人だけという事になる。
つまり、3対1の戦闘を二つ展開するという事だ。
この提案が通ってしまえば、実質的に6対1が3対1になってしまう。
どちらにしても人数では勝っているので不利にはならないが、それでも人数有利を自分の手で減らしている事には変わらない。
「おい、ジル……?」
「……言いたい事は分かるよ」
幼馴染は神妙に頷きながら、世良の方に視線を向けた。
「でも、僕と世良君は仲が悪い。一緒に戦っても、足を引っ張り合うだけだと思うんだ」
「なるほど……言えてるかもな」
その説明に、浮波城は一定の理解を示した。
恐らく、というか絶対、世良はジルの意見など聞かないだろう。
寧ろ反発を繰り返し、まともに連携を取れなくなる絵が容易に想像できる。
正直、素人の自分達は連携を取るより、数の利で袋叩きにした方が良いような気もしたが、ジルバールが『連携』を重視するならそういう事なのだろう。
幼馴染の判断を何よりも信じている浮波城は、その様に考えを改めた。
だが―――。
「え、えっと、それは……」
少女の方は判断に窮しているようだ。
その間隙を縫って、世良の同意が轟く。
「お前にしてはまともな提案だ、レスター! 足手纏いが消えるならそれに越したことはない!」
言いたい事だけ言って、世良は再び少年魔導騎士に斬りかかってしまった。
もうそれが決定事項であるかに攻撃を繰り出している。
恐らく……これ以上世良が耳を貸す事はないだろう。
そう感じ取ったのは何も浮波城だけではなかったらしく、魔導騎士サイドから、壮齢の男が溜息と共に決定を下した。
「仕方ないね……君の提案を飲むよ、ジルバール君。相手をお願いしていいかな、朝宮団長」
「は、はい、勿論……!」
少女の了承が木霊する。
これで、浮波城達は彼女と戦う事になった訳だが……。
「でもよ、別々に戦うには、ここちょっと狭くねぇか?」
「あ、オレも思ってました」
時折流れて来る世良の閃光の残滓に顔を顰めながら、浮波城は懸念を口にする。
この部屋は、高さはあるが横幅はそこまでなのだ。
とても、複数の戦いを同時展開できるとは思えないが……。
次の瞬間、三人は妙な感覚に襲われた―――。
「へ?」
頓狂な声を上げた後、浮波城は床の硬い感触が消失している事に気が付いた。
だが、決して床が無くなった訳では無い。
故に当然、地下に落下もしていない。
浮いているのだ、身体が、宙に。
ゆっくりと、円柱型の部屋の上部に、勝手に身体が移動している。
「せ、センパイ!? と、飛んでますよ、オレら!?」
「ええぇぇぇ!? なんで!? てか、オレ、高いトコ無理なん―――」
「落ち着いて二人共。どうやら彼女の仕業らしい」
ジルバールの冷静な声音に、浮波城は彼の指差す先を見る。
そこには、金髪の魔導騎士。
対戦相手の少女がいた。
その金の瞳は、鋭く此方を射抜いており―――。
「……貴方達の言う通り、この部屋は狭い。だから、浮遊魔法をかけさせて貰ったわ」
幼さを残しながら、どこか大人びた静謐な声だった。
先程迄のビクビクした様子とは打って変わって、まるで別人の雰囲気を醸し出す魔導騎士。
彼女は堂々とした態度で、浮波城達に己が名を語った。
「【徨猫ノ幻奏】団長……朝宮鴇音よ。貴方達も名乗りなさい。異界の民たち……」
お読み頂きまして有難うございました。これからも投稿頑張っていきますので、よろしくお願い致します。




