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13 幕間

覆灭(ふくめつ)の結び神。13話の投稿となります。身も蓋もない言い方をすれば繋ぎ回ですが、どうぞよろしくお願い致します。


それと、我々投稿ペースが遅いので、前回のお話の要約を書いておきたいと思います。『時間空きすぎて覚えてねえよ』という方は、宜しければご一読下さい。




前回のあらすじ


人型の魔物、アスティオロスベータに襲われ窮地に追い詰められる浮波城(ふわしろ)と謎の少女。アスティオロスの魔の手に少女が落ちそうになったその時、浮波城の『神器』が覚醒する。

超極大の炎を放った浮波城は、山火事を起こす事と引き替えに少女救出に成功。

しかし、アスティオロスベータは炎の中から這い出て来た。

再び絶体絶命の状況に陥る二人。

そこに、乱入者が現れた。

どことなくアスティオロスベータと似た雰囲気を持つ男。

その男の口八丁によって、アスティは撤退。

ジルバール達とも合流し、彼らは窮地を脱したのだった……。





 不意に復活した感覚器官が、まず最初に知覚したのは『黒』だった。


 次いで、鼻孔に消毒液の独特な香りが侵入してくる。

 それが契機となり、意識が急浮上―――。

 全身という全身に感触が戻り、浮波城(ふわしろ)涼牙(りょうが)は目を覚ました。


「……白い天井だ」


 口から発露した言葉通り、眼前には白色の天井が広がっている。

 明らかに屋内だ。森の中ではない。

 直ぐ横にある窓からも、見えるのは緑の葉ではなく、高い高い青空だった。

 どうにか上体を起こして辺りを見渡すと、所謂『病室』のような光景が広がっていた。


 規模は広くない。というか、狭い。

 完全に個室と言って良い大きさだ。


 その個室の、たった一つのベッドに、浮波城(じぶん)は寝かされている。

 これは、一体どういう状況なのか……。

 まだ朧げな意識の中、必死に頭を動かそうとする。

 すると、脳の覚醒を手助けする声音が聞こえて来た。


「……! 浮波城!」


「うわっ、ベタな起き方!」


 それは、とても耳馴染みがある。

 瞬間、かかっていた靄など綺麗に吹き飛び、意識や視界がクリアになった。

 同時に体中が痛み出したが、今はさして気にならなかった。

 本能のままに、浮波城は彼らの名を口にする。


「ジル! 出原……!」


ジルバール・レスターに、出原羅亜土。

幼馴染と後輩。


 どちらも、浮波城と共に異世界に飛ばされ、ずっと行動を共にしていた友人達だ。

 とあるアクシデントの所為で逸れてしまっていたが、どうやら大した怪我はしていないらしい。

 気を失う直前、彼らの声は聞こえていたが、こうして実際無事な姿を目にすると、改めて安心できる。


「よお、テメェら。無事だったみてぇだな……」


「それは、こっちの台詞だよ。目覚めてくれて本当に良かった」


 つい安堵の言葉を漏らすと、そんなふう言い返されてしまう。確かに、ジルバールの言う通り、この三人の中で一番重傷だったのは、間違いなく浮波城自身だろう。


「大袈裟っスよぉ、ジルさん。命に別状ないって、あの姉ちゃんが言ってたじゃないっスか?」


「それでもだよ。友人が意識不明の重体に陥るなんて、初めての経験だからね」


 そりゃ、そうだと思いつつ、浮波城はジルバール達に尋ねる。


「えーっと、ぶっちゃけ今どういう状況? 治療されてるみたいだけど、助かったで良いのか?」


 浮波城は改めて辺りと、自分自身を見渡した。

 ここは『病室』で、自分はベッドに寝かられている。そして、元々着ていた制服は脱がされたのか、所謂入院患者用の寝間着の様な衣服が着させられていた。

 これを脱ぎ捨てれば、包帯まみれの肉体が出現する事だろう。


 状況だけ見れば、明らかに『何者かに助けられて』いる。

 その何者かは、恐らく、アスティオロスベータと自分達の間に割って入った人物だろう。

 魔物である奴を追い払った事から、恐らくは『魔導騎士』。

 もし、『魔導騎士』に助けられたのだとしたら、意図せず『当面の目的』を達した事になるが……。


 そんな事を考えていると、此方の真理を読んだかのようにジルバールが口を開いた。


「うん、今はその認識で大丈夫だよ。察してると思うけど、僕らは今『魔導騎士』に保護されている身だからね」


「マジでか……!」


「うん。ここは、僕らの目指していた人里だよ。ログトリアという国の大都市『アルスノワル』。そこに拠点を置いている『天境祇騎団(てんきょうしだん)』という組織の本拠地内部さ」


「お、おう? なるほど……?」


「別に名称は覚えなくて良いよ。重要なのは、順調に『第一段階』に到達できたという事実さ」


 第一段階。それはつまり、『魔導騎士による保護を受ける』事だ。

 これが達成された以上、生命の維持自体は確約されたと考えて良い。

 

 ならば、これからは次の段階に意識を向けなければならない。

 第二段階……、『魔導騎士達と交渉し、可能な限り優位な立場を確立する』という工程だ。

 ここで何より重要になって来るのが『神器』の存在である。

 そこまで考えて、浮波城はジルバール達に伝えておくべき事を思い出した。


「あ、そうだ。俺の『神器』だけどよ―――」


 ―――彼女が入って来たのは、丁度そのタイミングだった。


 会話を両断するかの如く、唐突に扉の開閉音が響く。

 ガチャリと言う物音に視線を向けると、あの黒髪の少女が入って来る所で―――。


「ああ、お前も無事だった―――」


 か……。

 と、浮波城が言い切る前に、彼女はベッドまで到達してしまった。無表情の所為で分かりづらかったが、思いの外、大股で近づいて来ていたらしい。

 そして、軽く身を乗り出して、浮波城に無遠慮に顔を近付けて来る。


「は!?」


 ギョッとする浮波城を置き去りにしながら、少女は小さな唇を動かした。


「……皐月橋(さつきばし)(しおり)


「……へ?」


「私の、名前」


「お、おう。そう……?」


 あまりにも唐突に名乗られた所為で、浮波城は面を喰らってしまった。

 いや、より正確に言うならば、『吐息が触れるほど接近してきたにも関わらず、自己紹介しただけ』という事実に、拍子抜けしてしまったというのが正解だ。


 確かに、浮波城と彼女は、そこそこ濃密な時間を過ごした仲ではある。名前くらい教え合っても不思議ではないが、何故今このタイミングで告げる?


「え、っと……。で?」


 なんとか聞き返すが以降少女の唇は動かない。

 顔面の位置も、此方を捉えて離さない空色の瞳もだ。

 中々の時間、耳が痛くなるような沈黙が続く。

 

「……名前」


 しかし、その沈黙は、少女自身によって破られた。


「は?」


「名前……。あなたの」


 名前を教えろという事か……?


「……ふ、浮波城涼牙」


 とりあえず、浮波城は素直に告げた。

 すると、それで用件は終えたと言わんばかりに、少女は病室から去って行ってしまった。


 まるで嵐が去った後の様に、病室は再び沈黙に包まれる。


「……アンタら急にイチャつくなよ」


「何処がイチャついてるように見えたんだよ? マジでなんだったんだ?」


 後輩の呟きを利用して、浮波城はにスイッチを入れ直した。そして、彼女について説明せねばならぬ事柄を思い出す。


「そうだ。あいつが裏切り者かも知れないって話だけどよ……」


「ああ、うん。その事なら大丈夫だよ」


「あ?」


 ジルバールの即答に、浮波城は胡乱な声を上げてしまった。

 どちらかと言えば、出原よりも彼に対して言いくるめておかなければと思っていたからだ。


「あの時は僕も余裕がなかったからね。視野が狭くなって、僕らが誘拐犯に間違われている可能性を失念していたんだ。冷静に考えれば、それが一番自然な筈なのにさ」


 だから、彼女に刃を向けられたのは当然・と、ジルバールは自嘲気味に笑う。


 成程。自分で勝手に分析して、あの時考え至らなかった可能性に気が付いたと言う訳だ。相変わらず真面目な奴だと思いつつ、浮波城はフォローを入れる。


「いや、アイツが妙な登場の仕方したのは事実だし、無くはない説だったろ」


「その通りだけど、少なくとも気付いて提唱しておくべきだった。実際彼女は裏切り者ではなかった様だし、要らぬ疑いをかけたのは僕の落ち度さ……」


「……あんだけ、気ぃ張ってたクセに、やけにアッサリ信用するんだな」


「彼女が君を守ろうと動いたのは事実さ。あの極限の状況で、自分の身を顧みずに、君を庇った。裏切り者がそんな事をするとは思えないからね」


 浮波城はあの時、半分意識がなかった。

 というより、朦朧としていた所為で、殆どの情報を聴覚や触覚から得ていた。


 確かに、アスティオロスの喚声から、彼女が自分を守ろうとする動きを見せたらしいというのは分かっていたが……。正直、ギリギリの窮地過ぎて、細かい部分が曖昧な所がある。


「まあ、良いや。話戻すぜ。ジル、俺の『神器』だけどな―――」


 そこまで口にした所で、バッと、掌を突き出された。

 何故かは分からないが、喋るなとジルバールが言っている。


 そして、コツコツと、足音が聞こえて来た。この病室に近づいて来ている。

 誰かが来るから、余計な事は言うなという事だろうか……?



「や、起きたね。どうも初めまして。異邦の住人くん」


 少しして現れたのは、やけに整った貌を持つ男だった。

 嫌味なほどに艶やかな黄緑色の長髪が、男の挙動に呼応するように揺れ動いている。

身長とガタイがなければ、女と言われても通りかねない容姿だろう。

 恐らく、万人が想像する英雄の姿とは、こういった者に違いない。


 しかし、浮波城は、男に対して割合い高めの警戒心を抱いてしまった。


「誰だ、アンタ……?」


 知らず知らずの内に毛布を握りしめているのが、その証明なのだろう。

 男の雰囲気は、どことなく浮波城達を襲った狂人・アスティオロスベータと似通っている。


「ルノー・アルフィード。天境祇騎団(てんきょうしきだん)血狐ノ排衆(エイル・フォーシア)』団長……って、言っても分からないか。端的に言えば、君の命の恩人さ」


「……!!」


浮波城は察する。

 この男こそが、自身や皐月橋をアスティオロスから救った張本人なのだと。

 そう思って聞いてみると、確かにあの時乱入して来た人物と同じ声の様な気もする。


 若干、警戒心が薄れるのを感じていると、男、ルノー・アルフィードは、薄い笑みを浮かべたまま続けた。


「さて、起きたばかりで申し訳ないけど、一緒に来て貰うよ」


「……どこに?」


 尋ねると、ルノーは病室の窓を指差す。

 彼の長い指が示した先には、やけに大きく豪奢な建物が鎮座していた。



「僕らのボスの所さ。そこで、君達をどうするか話し合う事になってる」


お読みいただきまして、ありがとうございました!

もし良ければ、次の投稿も宜しくお願いします!


それと、ようやく謎の少女に名前が付いたので、ちょろっとプロフィールを……。



皐月橋(さつきばし)(しおり)

国籍 日本

年齢 17歳

身長 160㎝

体重 38㎏

髪色 黒

好きなもの 一人の時間

嫌いなもの 自分





アスティオロスベータ

国籍 ―――

年齢 107歳

身長 168㎝

体重 48㎏

髪色 灰

好きなもの 従順な嫁

嫌いなもの 思い通りにならない嫁




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