第四話 シャルロッテの回想
私の名前は、加藤さゆり。二十四才独身。・・・でした。
私は車の前に飛び出した近所の男の子をかばい、死んでしまった。
そして、私は馬として転生した。
『うぎゃー! 何てこったー!』
転生前の意識がはっきりしたのは、馬として生まれた瞬間。
そして、ここが異世界だと知ったのは、しばらく経ってからの事だった。
◇
そして、私が転生してから三年の月日が過ぎた。
わたしは三年間、まだ誰もこの背中に乗せてない。
私を育てた、牧場の家族でさえも。
私が背中に乗せるのは、《金髪美少年》と決めている。
そして、やっと巡り会えた。
彼とおじさんは、馬を購入する話をしている。
私は彼の気を引こうと、アピールの方法を考えた。
でも、私は馬である。私の声は、彼に届かない。
私は苦肉の策で、ちょっと変わった態度をとる事で、彼が興味を持つよう仕向ける。
そして、なんとか興味を引く事に成功し、念願叶って金髪美少年を背中に乗せる事ができた。
《至福の時》である。
このまま、私のご主人様になって貰いたい。
私は調教をちゃんと受けてないので、合図だけではどう動いていいか分からない。
しかし、異世界の言葉は理解している。
私は金髪美少年の言葉に合わせ、なんとか動く事ができた。
そして私は、ついに《彼の物》になった。
嬉しくて、堪らない。
ここにいると、牡馬のアピールが鬱陶しい。
早く、私をここから連れ出して。
◇
私は始めて牧場の外を、金髪美少年の操車で走った。
嬉しさのあまり、足が自然に早くなってしまった。
そんな私を、ご主人様は止めて注意した。
私は落ち込んでしまったが、私に名前を付けてくれる事になり、期待して待った。
ご主人様は、私に《シャルロッテ》という可愛らしい名前を付けてくれた。
私は、ご主人様に喜びをアピールした。
◇
街道を走っていると、十人の馬に跨る盗賊に道を塞がれてしまった。
ご主人様の指示で、私は止まった。
私はせっかく掴んだ幸せが、こんなに早く終わってしまうのかと心配になった。
ご主人様は、盗賊と会話をする。
そして、盗賊は私を寄こせと言っている。
『そんなの、嫌! あんな汚らしい盗賊の物になるなんて、我慢できない』
そんな事を考えていると、突然風が吹いた。
そして、牡馬が私に興奮しだした。毎度の事ながら、本当に嫌になる。
『私は元人間だから、あなた達はお呼びじゃないのよ』と、言ってやりたい。
私は牡馬達から逃げる為、来た道を引き返したかったが、荷車を引いているので小回りが利かなかった。
私は牡馬達の隙間を掻い潜って、突破した。
私はそのまま走り続け逃げようとしたが、荷車を引いてる分私のほうが遅く、盗賊に追いつかれてしまう。
そんな心配をしていると、ご主人様が『盗賊を止める』と、言い出した。
追い付いた盗賊は、七人もいた。
騎乗してない馬が三頭いたので、三人は落馬したらしい。
『ご主人様一人で大丈夫なの?』と思ったが、あっという間に全員倒してしまった。
ご主人様は、あれなの?
この世界の主人公なの?
素敵過ぎる(ハート)。
この時、私は人間に生まれ代わりたくなった。馬だけに・・・。
直後、私は牡馬に囲まれ、夢から覚めた。
そして、私は悲鳴を上げた。
ご主人様が魔法で結界を張ってくれたが、気分のいいものではなかった。
捕まえた盗賊を馬車に乗せ街道を走ると、牡馬が付いて来た。
ご主人様が私に《消臭》の魔法を掛けてくれたお蔭で、牡馬達の興奮が治まっていた。
それでも私は凄く嫌で、ご主人様の言う事を聞かず、スーピードを上げてしまった。
次の街で盗賊と牡馬は、衛兵に引き渡された。
やっと牡馬達から開放され、私は落ち着く事ができた。
◇
ご主人様のペットの猫が、人語を話してる。
会話から、ご主人様と猫は私と同じ転生者だという事が分かった。
私は猫のシロンに、馬語で話し掛けてみた。
「シロン、あなた転生者なの? 私も、元日本人の転生者よ。でも、あなたみたいに人語が話せないの。ご主人様に、伝えてくれない?」
「なんニャ。転生者だったニャ。シャルロッテも、金髪美少年好きニャ?」
シロンは、私の金髪美少年好きを見破った。
「私は金髪美少年に出会うのを夢見て、やっと叶ったの。今まで、誰も背中に乗せて無いわ」
「好みが被ってるニャ。ご主人は、シロンのご主人ニャ。シャルロッテに渡さないニャ」
シロンは、結局私の願いを叶えてくれなかった。
でも、私は諦めない。
ご主人様が私を転生者だと気付き、可愛がってくれるその日まで。




