第三十四話 キャンプのやり直し
夕べの帰りは午前様だった事もあり、今日は随分遅い時間に起きた。
昨日は朝から海産物を買いに海に行ったり、滝のある山にキャンプに行ったり、何百回も転移を繰り返して八百キロ離れた隣国に行ったり、スタンピードからダンジョン探索者を救出したり、魔王に遭遇したりと、いろんな事があり過ぎて本当に疲れた。
そして今も、エミリの追及を受けて、疲れに追い討ちを掛けられているところだ。
「ニコル君。勇者の事やダンジョンでの救出の事は分かったけど、スタンピードの原因を隠してるでしょう」
僕は悩んだ挙句、魔王の事は黙っている事にした。
エーテルの街のダンジョンには、まだ行かないといけないので、二人に変なプレッシャーを掛けたくなかったからである。
ダンジョンでの滞在期間中は、魔王に遭遇しない事を願うばかりだ。
「勇者の勇也さんは、何も教えてくれなかったよ」
僕はエミリの《魔眼》をかわす為、本当の事を交えて答えた。
「ウソは言ってないようだけど、誤魔化してるわね。そ・れ・に、そのステータス! どうして、そんなに変わっちゃったのよ!」
『ステータスの《職業》を変えたら、こうなった』と教えてもいいが、『魔王と一戦交えそうになったから《職業》を変えた』とは、不安を煽るので言えなかった。
「何か、ステータスの《職業》を変えたら、こうなったんだよね」
「そうなの。でも、まだ何か隠してるわね」
「エミリ、もういいじゃない。ニコル君だって、言えない事はあるわ。今日は、キャンプをしに行くんでしょ」
「エミリ、男を追い詰めるのは良くないニャ。ご主人に逃げられたら、どうするニャ」
シロンは、何気に失礼な事を言っている。
「分かったわよ。でも、そのステータスだったら、魔王を相手にできそうね」
『ぎくっ!』
「今、動揺したわね!」
「三年後、魔王と戦いたくないな。なんてね」
僕は言葉を選んで、慎重に答えた。
「怪しい!」
「エミリ!」
「さっき言った事、もう忘れてるニャ。キャンプが遅くなるニャ!」
「分かったってば!」
そこで話しが終わり、キャンプ地へと向かった。
◇
僕達は、《転移魔法》でキャンプ地に到着した。
「ニコル君は疲れてるだろうから、ゆっくりしててください」
「うん、そうさせてもらうよ」
僕は先日《亜空間収納》にしまった物を取り出すと、天然プールの横に木製のチェアベッドを置いた。
「ご主人、シロンのもお願いニャ」
「ああ、そうだな。みんなの分も出すか」
そうして、人数分のチェアベッドとクッションを取り出した。
「ご主人、ありがとニャ」
シロンはそう言って、チェアベッドのクッションの上で横になった。
僕も一緒に横になり、美しい自然に囲まれ体も心も癒された。
「ご主人、魚がいっぱいいるニャ」
「そうだな。水が綺麗だから、良く見える」
「魚、捕まえるニャ」
「昨日、ユミナがいっぱい買っただろ」
「キャンプで釣りは、定番ニャ」
「そうか、ゆっくりしたい気持ちもあるけど、これだけ魚がいると釣りもいいかもな」
天然プールにいる魚は、主にアユだった。
アユと言えば友釣りが有名だが、オーソドックスな平竿に浮きのスタイルにした。
撒き餌を使うといいようなのだが、目の前にたくさんいるので、それをする必要は無かった。
ユミナから、昨日買ったイカの足を分けて貰い、針に刺して餌にした。
「おっ、もう引いた」
浮きの動きに合わせ竿を上げると、アユを吊り上げた。
「ご主人、凄いニャ」
釣った魚は網状の袋スカリに入れ、生きたまま確保する。
その後アユは、入れ食い状態で次々と釣れた。
「ニコルくーん、準備できたよー」
「分かったー」
エミリに呼ばれて二人の元に行くと、バーベキューの食材が切り並べられて、ピザも焼き待ちの状態で何枚も用意されていた。
「ニコル君、ピザの焼き方教えてください」
「そうだね。でも、実際の調理は、素人に毛が生えたようなものだからね」
今のユミナは、パーカーの前を閉じてないので、ビキニの水着姿が凄く主張している。
手取り足取り教えたいが、理性が邪魔をする。
「ピザ釜の温度が高いから、焦げないようにピザの向きを変えながら、二分くらいで焼き上げるんだ」
などと、ユミナに口頭で指導し、決して体に触れる事はしなかった。
その間、エミリはバーベキューコンロの上に、野菜や海鮮を乗せていた。
ユミナの焼いたピザは、思いの他上手に焼き上がりった。
流石に、《料理スキルレベル3》を持っているだけはある。僕なんかより、手際がいい。
ユミナがピザを切り分け、出来上がりをみんなで食す事になった。
「このピザ、美味しい。ユミナ、今度屋敷でも作ってよ」
「生地の作り方を、ニコル君に教わってからね」
「だってさ、ニコル君」
「分かったよ。後で教える」
「ご主人、ピザ美味しいニャ! でも、アユも食べたいニャ!」
シロンは猫のくせに、猫舌ではなかった。だが、猫らしく、自分の欲求には忠実だった。
「アユか、ちょっと待ってろ。今焼いてる食材を、食べてからな」
今回バーベキューに使った海鮮は、貝類とエビとイカだけで魚は無かった。
僕はシロンの意見を取り入れて、釣ったアユを焼く事にした。
ピザや海鮮や焼きとうもろこしを食べ、切りのいいところでアユを下処理し串に刺して焼く。
前世のテレビで見たんだが、アユから出る油を利用してじっくり焼く事で、皮がパリパリして美味しそうだったのを思い出す。
「ご主人、美味しいニャ! 料亭の味だニャ!」
「これ、凄いよ! 素材もいいけど、焼き方がいいのね」
「美味しいです! アユなら王都でも手に入るので、私も今度やってみますね」
ピザより、こっちの方がみんなのウケが良かった。
◇
食後は、みんなで天然プールで遊ぶ事になった。
「ユミナ、何恥ずかしがってるの。ニコル君しか、男はいないのよ」
「でも」
「ユミナ、シロンはスッポンポンでも恥ずかしくないニャ」
「シロンは、猫でしょ」
シロンの言葉に、僕は思わずユミナのスッポンポンを想像してしまった。
「ニコル君は昨日、ユミナの《お願い》を聞いて頑張ったんだから、サービスしてあげなさい」
ユミナはその一言が決め手となり、パーカーを脱いで水着を披露した。
僕は今回の件で口を出せなかったので、エミリとシロンに感謝した。
「ご主人、見過ぎニャ!」
「ばっ、馬鹿、ちょっと見ただけだろ!」
その後みんなは自然の中で心と体を癒し、明日からのダンジョンに備えるのであった。




