第三十一話 勇也、突然の遭遇
2021/04/18 ステータス表記を追加し、一部内容の修正をしました。
これは、勇也が二コルの前に現れる前の出来事である。
神崎勇也は六月の初旬、エステリア王国を脱出した。
そして辿り着いた場所は、アルシオン王国ユンベルグ辺境伯領のオーエンという街だった。
その街には十三階層からなる初級者向けダンジョンがあり、勇也は一人で挑戦していた。
《身体強化》スキルと、鋼の剣に魔力を通す事で攻撃力を補った。
そして、ニコルから貰った《物理防御力+500》のペンダントのお陰で、多少無理な攻撃を仕掛けても少ない負傷で戦えた。
「これで、止めだーーーーー!」
『ザシュッ!』
「ブモーーーーー!」
『ドサッ!』
「ふー、初級ダンジョンとはいえ、一人で攻略できたぜ」
たった今倒したのは、ダンジョンボスのミノタウロスである。
『ピロリロリン!』
頭の中で、レベルの上がる音が聞こえた。
「よし。今ので、レベルが上がった!」
勇也はここまで一人で戦い、レベル25になっていた。
そして、ミノタウロスの死骸は淡い光りを発し、魔石とミスリルのインゴットに変わっていた。
インゴットは五個もあり、一個は五キロの重さがあった。
「おっ、ミスリルがこんなに。売れば、結構な金額になるぞ!」
勇也は、ホクホク顔だった。
「あとは、宝箱だな」
先日覚えた《探知》スキルで、『お宝、お宝』と言いながら探ってみた。
すると、この部屋には隠し部屋らしき気配があった。
部屋の開け方が分からなかったが、何処かで聞いた事のある方法を試してみた。
「おりゃー!」
気配を強く感じた壁に、魔力を流してみた。
『ガガガガガガーーーーー!』
その壁は大きな音と共に動き、部屋が現れた。
「うひょー、大当たりー!」
勇也の目には、宝箱が飛び込んだ。
《鑑定》し罠の無い事を確認すると、勇也はわくわくしながらそれを開けた。
「やったぞ。ミスリルの剣だ。しかも、かなり強い付与がしてある。やっといい武器を、手に入れたぜ」
「あれっ? 何だこの気配は」
新しい武器に喜んでいると、最下層のはずのこのずっと下から強い気配を感じた。
◇
「隠しステージでも、あるのか?」
辺りを見渡すが、隠し階段や転移装置のようなものは無い。
そこで、もう一度《探知》スキルで地面の下を探った。
『シュタッ!』
すると、突然目の前に何かが現れた。
「お主か? 我の居城を、探っておったのは」
「ぐぐっ! 何だこの圧力は。押し潰されそうだ」
「んっ? よく視れば、お主《勇者》ではないか!」
「くそっ! こっちも《鑑定》だ」
勇也は、目の前の壮年の男を視た。
そして、驚愕した。
「《魔王カイゼル》!!!」
「その通り、我は魔王カイゼル。それを知って、お主はどうする?」
「倒す!」
「ほう、お主は我を倒すと申すか? 実力の差も分からぬ、身の程知らずだのう」
「くっ!」
勇也が《鑑定》スキルで視た魔王は、レベル310だった。
だが、それ以外のステータス情報は隠されていた。
魔王の強さは、《未知》である。
一方勇也は、ダンジョンボスを倒して、やっとレベル25になったばかりだ。
【名前】神崎 勇也
【年齢】十五歳
【種族】人族
【性別】男
【職業】勇者
【称号】料理研究家
【レベル】25
【体力】2750/5800
【魔力】2325/5320
【攻撃力】2460(460)
【物理防御力】1090(340)
【魔法防御力】340
【筋力】460
【敏捷】364
【持久力】364
【精神力】340
【知力】340
【運】340
【固有スキル】食材探索(Lv5)/調味料調合(Lv5)/魔法無詠唱
【スキル】鑑定(Lv3)/空間転移(Lv3)/アイテムボックス(Lv3)
剣術(Lv3)/体術(Lv2)
魔力感知(Lv2)/危機感知(Lv2)/探知(Lv1)
魔力操作(Lv2)/身体強化(Lv3)
体力回復(Lv2)/魔力回復(Lv2)
料理(Lv5)
【魔法】火属性魔法(Lv3)/水属性魔法(Lv3)/生活属性魔法(Lv2)
【武器】ミスリルの剣(攻撃力:+2000)・(強靭(中)付与)・(腐食耐性(中)付与)
【防具】鋼の鎧(物理防御力:+250)
【アイテム】ペンダント(物理防御力付与:+500)
ステータスは、《勇者補正》で普通の人より上昇率が高い。
たった今ミスリルの剣を手に入れ、攻撃力も跳ね上がった。
しかし、魔王とのレベル差は《致命的》だった。
「秘密を知ったお主の命を奪う事は簡単だが、我は人殺しが好きな訳ではない」
「お前が、勝手に現れたんだろう!」
勇也は、勇気を振り絞って突っ込んだ。
「そうだったな。お主の言う通りだ。だが、我を倒そうなどとほざく勇者を、このまま帰すのも後々面倒だ」
「俺を殺ろうって言うのか?」
「さて、どうするか。ところで、勇者のお主にいい事を教えてやろう。ただし、他言無用だ。お主がこの事を他に漏らした時、地上が魔物
で溢れかえるぞ」
「ふん。約束なんか、する訳無いだろう」
「我は、どちらでもよい」
そう言って、魔王は説明を始めた。
◇
魔界は数千年前から魔素が濃くなり過ぎ、魔族でも住み辛くなっていた。
それを解消する為、当時の魔王が新たな魔法を生み出し、余分な魔素を一箇所に集めた。
しかし、どんどん膨れ上がるそれを、そのままにしておく事はできなかった。
そこで、百年に一度開く魔界ゲートを利用し、この世界に廃棄しようと考えた。
だが、魔素の集まりは超巨大で、その大きさのままゲートを通る事ができなかった。
それを解決したのも当時の魔王で、新たな魔法でゲートを潜れる大きさに圧縮した。
そしてゲートが開いた時、魔王は気が付いた。
このまま捨ててしまえば魔素が魔物を生み出し、異世界が魔物の痩躯になってしまう事に。
そこで魔王は決意し、自らゲートを通り魔素の塊を異世界で管理する事にした。
【中略】
魔王は魔素の塊を核とし、地下にダンジョンを作った。
だがその過程で、多くの人間が死ぬ事となった。
魔王の力でダンジョンは安定するようになり、長い年月を掛け少しずつ魔素を消費した。
その為、魔王はその場所を長く離れられなくなった。
幸い魔界ゲートを通った事で、魔王は《異世界転移》を使えるようになった。
魔王は一時的に魔界に帰ると、魔王職を王子に譲った。
それと同時にこの《魔素の廃棄》を、魔王が代々受け継ぐよう《法を制定》した。
それは今でも実行され、歴代魔王はそれぞれのダンジョンで生きている。
◇
「じゃあ魔王を倒して、元の世界に帰った歴代勇者はいないのか?」
「勇者が元の世界に返ったか、我の知るところではない。しかし、魔王が生きているのは事実」
「くそっ! 魔王討伐が元の世界に返る望みだったのに、こんなんじゃ無理だ!」
「こやつ、先程の脅しだけでは心配だな。ここでの事を他者に漏らしたら、死ぬ魔法をお主に施す」
そう言って、魔王は勇也に魔法を掛けた。
「くっ!」
勇也は咄嗟に逃げようとしたが、《空間転移》スキルが使えなかった。
「お主に、我の力の片鱗を示そう。これから、スタンピードを起こす。お主がどう行動するか、見せて貰おう」
「そんなっ!」
「それでは、検討を祈る」
そう言って、魔王はこの場所から消えていった。




