第三十話 《お願い水着Ver.》発動
ユミナが、不吉な言葉を発した。
「ユミナ。スタンピードって、魔物がダンジョンから出てくるやつか?」
「はい、《未来視》スキルで視えました。ですが、スタンピードの対策がとられていて、地上の非常扉が魔物を感知し閉じられます。地上の人達は大丈夫ですけど、ダンジョン探索者がダンジョンに閉じ込められてしまいます。たぶん、今日中に起こります」
「まさか、エーテルの街のダンジョンか?」
「いえ、違います。場所は分かりませんが、オーエンという名前の街です」
「オーエン? 知らないな。調べてみるか」
僕は《検索ツール》で、ダンジョンのあるオーエンという街を探した。
「あったけど、隣国のアルシオン王国だった。この国と隣接するユンベルグ辺境伯領だって」
「アルシオン王国ですか?」
「うん。だけど、何でユミナが他国で起こる事を見るんだ?」
「それって、《勇者》が関ってるんじゃないかな? この国とニコル君に繋がりがあるし」
エミリから、鋭い指摘が入る。
「そうかもしれない」
僕は勇也さんの居場所を、《検索ツール》で探した。
「当たりだ。《勇者》は、オーエンの街のダンジョンにいる。でも、何で?」
「どうするの? ニコル君」
「どうするって、他国だし距離もここからだと《八百キロ》もある。それに、僕なんかが口出しする事じゃないよ。アルシオン王国の問題だ」
「それは、そうだけどさ」
「ニコル君。私、どうしたら・・・」
「ユミナは、何もする必要は無いよ。君が悪い訳じゃない」
「でも」
ユミナはそう言いながら、沈んだ顔をする。
僕はそんなユミナの気持ちをどうにかしてやりたいと、余計な事を言ってしまった。
「ユミナがどうしてもって言うなら、何ができるか分からないけど、僕一人でオーエンの街に行って来るよ」
ユミナは数秒考え、真剣な眼差しで言葉を発する。
「ニコル君、お願いします。一人でも、多く救ってください」
ユミナの《お願い水着Ver.》が、発動されてしまった。これじゃ、行くしかない。
「分かった行って来る。でも、君らをここに残して行く訳にいかないから、一度エーテルの街に戻るよ」
「ピザもバーベキューも、中止かニャ?」
「日を改めて、やるよ。今は急いでるから、この辺にある物はこのまま《亜空間収納》にしまっちゃうね」
「そんニャー」
「しょうがないわね」
「お願いします」
◇
片付けを済まし、僕達はエーテルの街に戻った。
距離にして百キロはあるが、《転移魔法》で一瞬で着いた。
「それじゃ、オーエンの街に行って来るよ」
「はい。気を付けてください」
「行ってらっしゃい」
「早く帰ってきてニャ」
僕はみんなに見送られ、キャンプ場に転移した。
僕が行ける範囲で、ここがオーエンの街に一番近かった。
「さて、どうするか」
八百キロを、どうやって行くか考えた。
しかしいい案は浮かばず、面倒だが目視できる範囲で、《短距離転移》を繰り返す事にした。
◇
四時間掛けて、国境に辿り着いた。
「いやー、疲れた。数百メートルから数キロを、何百回も転移したんだから当然だよな」と、愚痴を言う。
その後、出国と入国の申請なんかもあって、無駄に時間とお金が掛かった。
僕は行商人なんで、適当な物を仕入れに行くと嘘も付いた。
結局、オーエンの街に着いたのは夕方だった。
そんな時、ダンジョンの施設から大声が上がった。
「大変だー、スタンピードだ!」
ここでも、誰かの《ご都合主義》が発動した。
話しの内容をこっそり聞くと、魔物が地上に出て来て、通路の非常扉が全て閉められたそうだ。
幸いにも、魔物は外に出て来なかったらしい。
しかし同時に、ダンジョン内にダンジョン探索者が閉じ込められてしまった。
「ユミナが、言っていた通りになったな」
「下層の強い魔物が地上に向かっているとすると、上層で活動している人達は抗えないぞ」
「この広いダンジョンに、いったい何人いるっていうんだ」
そして、ダンジョンの中に入り救出しようにも、非常扉が閉まっていた。
「僕はせっかくここまで来たのに、手をこまねいているだけなのか?」
そんな事を呟いていると、突然勇也さんが現れた。




