第二十七話 ユミナの秘密
これはユミナの転生直前からニコルに出会った最近までの、ユミナ視点の回想である。
「ここは、どこ?」
辺りは、真っ白な何も無い空間であった。
「わたし、がっこうにいかなくっちゃ」
「ウォッホン!」
「だれっ? どこにいるの?」
「こっちじゃ」
私は、声の主を探した。
そして、後ろを見ると髭の長いお爺さんがいた。
「おじいさんは、だれ?」
「わしは、神じゃ」
「かみさま?」
「信じられんと思うが、本当じゃ」
「しんじるよ。えほんで、みたことある」
「そうか、それは良かった。ところで、お主には辛い話しじゃが、伝えねばならん事がある」
「なあに?」
「言い難いのだが、お主は既に死んでおるのじゃ」
「えっ、わたししんだの? でも、ここにいるよ」
「今のお主は、魂だけの存在じゃ。体は無いのじゃ」
「うそっ! でも、さっき・・・」
「そうじゃ、思い出したようじゃの。お主を助けに入った青年と一緒に、バイクに跳ねられて死んでしまった」
「そう、なんだ。わたし、しんじゃったんだ。もう、がっこうにもいけないんだ」
私は、涙目になった。
「転生して生まれ変われば、また学校には行けるぞい。じゃが、記憶は無くなってしまうがのう」
「かみさま、むずかしくてわかんないよ」
「そうかそうか、すまん。お主は赤ちゃんになって、違うお母さんから生まれてくるんじゃ」
「おかあさん、ちがうの?」
「そうじゃ。そして、おかあさんの事も友達の事も忘れてしまう」
「うそ、そんなのいやっ!」
「しょうがないのじゃ」
「いやっ!」
「困ったのう」
そこで、会話が止まる。
「ねー、かみさま」
「なんじゃ?」
「わたしをたすけてしんじゃったひとは、どうしたの?」
「ん? 彼は、一足先に異世界で生まれ変わったぞい」
「『いせかい』って、なに?」
「んー、どう説明すればいいかのー。一言で言えば、『遠いお星様の国』かのー」
「それなら、わかる」
「良かったわい」
「わたし、おにいさんに『ありがとう』と『ごめんなさい』をいいたい」
「んっ、そうか。そういう事なら、特別に記憶を残して彼と同じ異世界に転生させてやるぞい」
「かみさま、またむずかしくなってる」
「すまんのー。えーとな、家族やお友達の記憶を残して、お兄さんと同じお星様の国で赤ちゃんとして生まれるのじゃ」
「そっかー、それならそっちのほうがいいなー」
「分かった。それなら、お兄さんに合えるように能力を授けよう」
「のうりょく?」
「そうじゃ。『お兄さんに会いたい』と、毎日一回でいいから願うんじゃ。そうすれば、いつか会える」
「わかった。がんばる」
「それじゃ、生まれ変わらせるぞい」
「うん」
そして、私は意識を無くした。
◇
次に神様に会ったのは、異世界で五歳の誕生日を迎えた日の夢の中だった。
私はその時、短い前世の記憶を取り戻した。
そして、神様はこの世界の事や私の能力の事を、簡単に説明してくれた。
私は転生する前の約束を守って、その日から『お兄さんに会いたい』と、毎日一回祈った。
そして十歳の時に初めて、転生したお兄さんの姿を朧げながら夢で見た。
その夢は、年を追うごとに鮮明になった。
最近になり、お兄さんがいつどの場所に現れるかも分かった。
そして《運命の日》、私は繁華街の少し外れで、露店を開くお兄さんに出会った。
しかし、その時は緊張のあまり、お兄さんに話し掛けられなかった。
私は今度こそ話し掛けようと、次の日も学園帰りにエミリと露店に行った。
しかし、お兄さんはそこにいなかった。
他の場所も探してみたけど、見つける事ができなかった。
次の日も、また次の日も会う事ができなかった。
そして、ここ三日間お兄さんの夢も見なくなっていた。
私はもう一生、お兄さんに会えないんじゃないかと思った。
そして、私は神様に祈った。
「神様、お願いします。お兄さんに会わせてください」
すると、頭の中に映像が浮かんだ。
それは翌日、お兄さんが繁華街で露店を開く場面だった。
私はエミリと、翌日もう一度繁華街に来る約束をした。
次の日、《未来視》の映像通り、お兄さんは繁華街にいた。
私は今回も緊張して、昨夜練習した挨拶程度の会話をするのが精一杯だった。
転生する前から言おうと思っていた『ありがとう』と『ごめんなさい』は、その時どうしても言い出せ無かった。
それを言うには、私の前世をお兄さんに伝える必要があった。
子供だったら言えた言葉を、十五歳になった今の私は『私のせいで、お兄さんが死んだ』という《罪悪感》が芽生え、素直に言えなくなっていた。
しかし、《罪悪感》の他にもう一つ生まれた感情がある。
五歳の頃から会いたいと願っていたお兄さんは、夢の中で凄く素敵だった。
そんな素敵なお兄さんに、自然と《好意》を抱くようになっていた。
ただ今は、《感謝》と《好意》と《罪悪感》が入り混じり、この気持ちをどう伝えていいか分からないでいた。




