第二十五話 明日の心配
僕達は貴族の子弟達から逃れ、《転移魔法》で借家に帰った。
「ニコル君、さっきは怒ってごめんね。言い過ぎた」
「謝らなくていいよ。僕は護衛として失格だし、男らしくない行動だと自覚してる。それに、ピンチに現れるヒーローじゃない、という事もね。エミリがユミナを連れ出して来なかったら、僕はまだどうしていいか悩んでたよ」
「二人共、この話しはもうよしましょ。これは私の問題で、ニコル君に迷惑は掛けられない」
「「うん」」
ユミナの沈んだ表情を見て、二人は頷く。
「でも、二人だけで街に出たのは軽率だったわね」
「ごめんね。私がニコル君が帰るのを、待てなかったから。まさかフードを被ったのに、声で気付く人がいるとは思わなかったの」
「声で、あの子爵嫡男にばれたんだ」
「はい。近くにいるのに気が付かなくて、会話をしていたところを」
「そういう事だったんだ。だけど、さっきユミナも言った通り、この話はもう終わりにしようね。王都でケーキを買って来たから、みんなで食べよう」
「「ケーキ!」」
「食べる、食べるー!」
「私、紅茶を淹れますね」
「私、シロン起こすー!」
シロンは、僕らが帰って来てもリビングで寝ていた。
◇
僕達はケーキを食べ終わり、寛いでいる。
みんなは、『美味しかったー』と言って満足げにしていたが、僕は明日以降の事を考えていた。
『明日、ダンジョンに行く時が危険だ。あの子爵嫡男の性格だと、見張りを立ててそうだ』
『ここからダンジョン下層へ直接転移すれば、安全なんだけど・・・』
「ねえ、君たち。夏休みの宿題は無いの?」
「ありますよ。エミリと夜寝る前に、毎日少しずつやってます。もう少しで、終わりそうですけど」
僕の思惑は外れた。彼女達は僕の知らないところで、ちゃんと宿題をしていたらしい。
「そうなんだ偉いね。あのさ、明日も休みにしない?」
「やっぱり、あの人達の事が気になるんですね」
「うん。君達に危害を加える事はなさそうだけど、バッタリ合って付きまとわれると行動し辛いしね」
「私は、休んでも大丈夫ですよ」
「私もー。想定したより大幅にレベル上がってるし、しっかり休んでまた頑張るー」
「良かった。じゃあ、明日休むとして何して過ごすかだね」
家でゆっくりしても良かったが、彼女達の希望を聞いてみた。
「定番の温泉ー!」
「私は、みんなに任せます」
「マグロが食べたいニャ!」
「エミリ、温泉なんてこの辺にあるのか?」
「知らなーい」
「なんだ、知らないのか」
「だって、ラノベなんかだと定番でしょ《温泉回》。それに、ニコル君ならなんとかしちゃいそうだし」
「エミリがどういう物を望んでるか分からないけど、家の風呂のお湯を温泉に変える事はできるぞ」
「い、や、だっ! 雰囲気と料理を楽しみたいのよ!」
「それじゃ、無理だな。温泉旅館なんて、行った事も無いし」
「ご主人、マグロはどうかニャ」
「さすがに、この街に売って無いだろう。どうしても食べたいなら、川魚をマグロに変えてやろうか?」
「嫌ニャ、本物が食べたいニャ!」
「ちょっとー、ニコル君。さっきから、考えがズレてるわよ」
「そうだね。ごめん」
定番と言えば《夏休みの海》を提案したが、この世界で水着が普及してないので却下された。
僕が水着を持っていたのだが、ユミナが周りの人の目を気にしていた。
『勉強の息抜きに、これで遊びなよ』と、錬金術で作った《トランプ》を渡したら、エミリから『もっと、早く出しなさいよ』と、言われてしまった。
このトランプは、今のところ僕の村でしか普及していない。
遊び方のマニュアルを、まだ作ってないのだ。
村人には、僕が一緒に遊びながら説明している。
そのうち、マニュアル付きでダニエル商会に卸す予定だ。
「ご主人、シロンもトランプしたいニャ」
「シロンは、トランプ持てないだろ」
「何とかしてニャ」
「困ったな。考えてみるよ」
僕はシロンの為に、《トランプカードスタンド》を作った。
シロンが直接トランプを持つ事はできないが、周りの人が手伝えば何とか遊べる。
肉球でトランプが持てるアイテムでもあれば、良かったんだけどね。
その後だが、ユミナの買物は済んでおらず、代わりに僕が買いに行く事になった。
子爵嫡男対策で、カツラと伊達眼鏡で変装をして出掛ける事にした。
ついでに、騒ぎの後の様子を見て来ようと思う。




