第七話 《調理》能力を見せたせいで
2020/09/03 一部内容の修正と加筆をしました。
※前話を修正して、つじつまが合わなくなり加筆しました。
食事の後も、薬草の採取は続いた。
山の奥に行くと、熊や狼がいるので麓で探している。
《検索ツール》の地図機能で、それらが来たら分かるようになっているので、安全に採取できた。
僕は薬草を採取していて、ふと思った。
「薬草や薬の効果のあるキノコだけじゃなく、この木も錬金術の素材になるじゃないか?」
周りには、木が生い茂っていた。
「家具や紙や薪の材料になるし、ここなら少しくらい減っても目立たないよな」
でもそれは、大きくて馬車に積んで帰れないので、《亜空間収納》にしまう必要があった。
「どうしようか? 《錬金術》や《検索ツール》を使った知識は見せたけど、《亜空間収納》も見せないと駄目かな?」
今更遅いが、僕は能力を人に知られたくなかった。
村に魔法なんて使える人はいなかったし、知られて持て囃されるのも変な目で見られるのも避けたかったのだ。
「これから先の事を考えると、《亜空間収納》を隠すとどうしても不便だよな。家族だけなら、いいかな?」
僕は決心して、家族に打ち明ける事にした。
◇
「父さん。ジーク兄ちゃん。エレナお姉ちゃん。僕、みんなに見せてない能力があるんだ」
「まだ、何かできるのか。ニコルは、凄いな」
「ニコル、お姉ちゃんに見せて!」
「ニコル、兄ちゃんにも教えてくれよ!」
「ジーク兄ちゃん、ごめんね。教えられないんだ」
「チェッ!」
「それじゃ、いくよ。《亜空間収納》オープン!」
僕の目の前に、《亜空間収納》が現れた。
言葉にする必要は無かったが、分かり易くする為に言ってみた。
「うおっ、何か出てきたぞ!」
「ニコル、これ何なの?」
「これはね。《亜空間収納》って言って、この中に物がしまえるんだ」
「こんなのに、物がしまえるのか?」
「うん。今からやるよ」
僕は地面から生えてる大木に手を翳し、《収納》と念じた。
「うわっ、木が消えたぞ!」
「ニコル、どこに消えたの?」
「この中に、しまったんだよ」
「「「えっ!」」」
みんなは、信じられないという顔で驚いた。
「それじゃ、今から木を出すよ」
僕は大木を、少し離れた場所に出した。
「すげー!」
「すっごーい!」
「凄いな。これは、大変な能力だ。何でも物を隠せてしまうし、大きな物も運べる。お前達、この事は、絶対誰にも言うなよ。ニコルが、貴族に連れて行かれるぞ!」
「また、貴族か。分かったよ父さん」
「私も、言わない。でも、母さんにも駄目なの?」
「うっ、そうだな。母さんには、父さんから話すから、お前達は黙ってろ」
母さんはウソが下手だから、父さんは心配したようだ。
◇
その後は、畑に撒く堆肥を集めたり、木を追加で五本《亜空間収納》にしまった。
木は枝を取っ払い、皮を剥いだ状態だ。
取り除いた部分も何かに使えるかもしれないので、《亜空間収納》にしまってある。
『今日はもう、充分な収穫があったから大丈夫』と、父さんに伝えると、帰る事になった。
その父さんの手には、ウサギが一羽握られていた。
「ウサギが、獲れたんだ。良かったね父さん」
「ああ。何も捕まえられなかったら、父さんの立場が危なくなるところだった」
父さんの威厳は、ギリギリ保つ事ができたようだ。
◇
今は馬車に揺られて、帰るところだ。
そんな時、ふと思った。
『今日収穫した物は、全部僕の《亜空間収納》の中にある。これって、凄く便利だ』
『レベルアップして時間経過が無い物にできれば、食材は腐らないし保存食にもなる』
『それに、この機能と同じ魔道具があれば、村で重宝するに違いない』
それを、父さんに相談してみた。
「ねえ、父さん」
「何だ、ニコル」
「僕の《亜空間収納》と同じ機能の、《魔法の袋》って欲しくない?」
「欲しいけど、とてもじゃないが買えないな」
「今は無理だけど、そのうち作ってみようか?」
「ありがとな。でも、無理しなくていいぞ。ニコルは、子供なんだから」
「うん。でも、頑張るよ」
父さんは、僕に作れるとは思ってないようだ。
でも僕は、『いつか、作ってみせる』と、心の中で誓った。
◇
今日は村の休日なので、農作物の配給作業は無かった。
父さんがウサギを捌き、母さんが料理をしてくれた。
丸ごとローストにしたウサギは、凄く美味しそうだ。
夕食が始まり、ジーク兄ちゃんが余計な事を言った。
「美味いんだけど、なんか物足りないんだよなー。ニコル、どうにかならないか?」
「えっ、せっかく母さんが作ってくれたんだよ」
「でもよー。昼に食べたあれ、美味かったなー」
「あら、母さんがいないところで、そんなに美味しいものを食べたのかしら?」
「父さんなんか、『母さんが作るより美味しい』って、言ってたぜ』
「あら、あなたそんな事を言ったの?」
「ジークの奴、内緒だって言ったのに」
「あなたっ!」
「はい、言いました。ごめんなさい! でも、本当に美味しかったんだもん」
父さん、語尾が『だもん』って子供じゃないんだから。
「ニコルちゃん。お母さんも食べたいなー。ナカマ外れは悲しいなー」
「分かったよ。やってみる」
ウサギのローストに手を翳し、味付けを塩と胡椒と香草を効かせたイメージで、『美味しくなれー』と、唱えた。
白光と共に表れたのは、見た目はそれほど変わらない。
「母さん。食べてみて」
「もぐもぐ。・・・オイシー! ニコルちゃん、本当に凄く美味しいわ。ニコルちゃんは、料理の才能もあるのね」
「僕に料理はできないよ。これも、錬金術の一種みたいなんだ。母さんも、調味料を自由に使えればもっと美味しくなるよ」
「ニコルちゃん、ありがとう。優しいのね」
母さんは、僕を抱きしめた。
それ以来、僕が料理に手を加える事が多くなってしまった。