第二十三話 ニコルのいぬ間に
エーテルの街に来て、一ヶ月が経った。
「今日は、ごめんね。僕の都合で、ダンジョン攻略を休みにして」
「気にしないでください。この街に来て、あまり休みを取れてませんでしたから」
「ニコル君、王都に行くんだって。それなら、お土産買って来てよ」
「ご主人、ケーキがいいニャ」
「ケーキか。エミリ、それでいいかな」
「いいよー」
「分かった。それじゃ、行って来るよ。お昼は、向こうで食べちゃうから」
「分かりました。いってらっしゃい」
僕は用事を済ませに、王都に転移した。
◇
僕は今、ダニエル商会の支店に来ている。
「お久しぶりです。メゾネフさん」
「待ってたんですよー、ニコルさん。ニコルさんの商品、全て売切れです。グラスの予約も、たくさん入ってます」
メゾネフさんは、随分慌てた様子だ。
「そうですか。申し訳ありません。今日は、いつもより多く商品をお持ちしてます」
「ああ、良かった。助かります」
いつもの商品の納品後、ガラスの工芸品は無いのかと催促されたり、新しいデザインのグラスを見て貰ったりというやり取りがあったが、その辺の内容は割愛する。
今回、切子ガラスのグラスを青色二百個と赤色百個と黄色百個、ボックスティッシュを五百個、ケース二種類を各二十五個納品した。
それに、これ以上焦らすのも忍びないので、《西洋風の城》を模したガラスの工芸品を五点納品した。
大きさは、どれも幅五十センチ程である。
その中には、千葉県にあるテーマパークの城もあった。
その結果売上げ金額は、グラスが八百万マネー、ボックスティッシュが百九十万マネー、ケースが三百五十万マネー、ガラスの工芸品が二百二十五万マネーで、《総額千五百六十五万マネー》になった。
「メゾネフさん。こんなにたくさん買っていただき、ありがとうございます」
僕がこれらの商品を売ろうとしたら、こんなに捌けないので本当に助かる。
「何を言ってるんですか。こちらこそ、儲けさせていただいてます。おかげ様で、他の商品の売れ行きも良くなってますよ」
どうやら、お互いウィンウィンな関係だったらしい。
新作グラスは、預かり証と交換に預けてきた。
今度来る時までに、オーナーと金額を決めてくれるそうだ。
現行品より綺麗という事で、値上げは間違い無いらしい。
僕はダニエル商会をお暇し、その後《お食事処やまと》でオムライスを食べ、お土産に例の喫茶店でケーキを買ってエーテルの街に戻った。
◇
エーテルの借家へ着くと、シロンはリビングで昼寝の最中だった。
「ムニャ。ご主人、お帰りニャ」
「ごめん。起こしたか?」
「大丈夫ニャ」
「ところで、エミリとユミナは部屋にいるのか?」
「買い物に行ったニャ」
「買い物?」
それを聞いて、心配になった。
テーブルの上を見ると、『食材を買いに行ってきます』と、書かれたメモがあった。
この街に来た当初、僕を含めて彼女達は目立つので、街の人達の視線を浴びていた。
貴族の子弟を見掛けてからは、暑い中フードを被りながらも接触を避けていた。
その結果昨日まで、大事も無くやり過ごせた。
ダンジョンで一回だけ揉めたが、たいした事では無いので数に入れてない。
だが、二人きりで繁華街に行くのは、今回が初めてである。
「シロン、何か嫌な予感がするんだ。僕は、二人を迎えに行くよ」
「シロンは、家で待ってるニャ」
「そうか、留守番頼んだぞ」
「はいニャ」
《検索ツール》の《地図》機能で彼女達の居場所を探すと、繁華街で二人の周りに大勢の人が集まっているのが分かった。
「うわっ、何だこれ。急いだ方がいいな」
僕は慌てて、繁華街に転移するのであった。




