第二十二話 苦戦
午後になって、魔法主体の戦闘に切替え、二人と一匹は早々に苦戦していた。
「やっぱりこいつ、私の魔法じゃ効かないよ!」
上の階層に行く予定だったが、学園の高レベルの上級生達と鉢合わせしてしまう可能性に気付き、引き続き地下十一階にいる。
ユミナは、どうやら上級生にも人気のようだった。
「《雷》」
『バシッ!』
「当たらないニャ」
シロンの魔法のコントロールは、いまいちである。
僕の方は守備に徹し、《魔法の盾》で彼女達を守っている。
最近魔法を覚えたばかりなので、僕も魔法で攻撃をしたくてむずむずしていた。
雇われの身なので、彼女達の為に我慢している。
彼女達が苦戦している原因は、魔法の威力の他にもう一つあった。
二人は学園の授業を想定し、呪文を唱えていた。
ユミナは『《詠唱短縮》の癖がつくと、呪文を忘れそう』と、嘆いている。
「エミリ、頑張って。魔眼を活かして、弱点を突くんだ」
「そんな事言っても、タイミングを取ったり精度を上げて狙うのは難しいの!」
このクラスの魔物だと、やはり魔法だけでは大変そうだ。
「早くしないと、他のも集まってくるよ」
「分かってるって! ちょっと、ユミナもシロンも頑張って!」
「《放電》猫パンチニャー!」
「ガーッ!」
トロールの動きが止まった。痺れているみたいだ。
「シロン、いいぞ! 動きが止まった」
「褒められると、照れるニャ!」
シロンは授業とか関係無いので、《詠唱短縮》を使っている。
「*****、*******、*****、*******、*******、光線!」
「ウガーッ!」
そこに、ユミナの《光線》が、土手っ腹を貫通する。
これは、《光属性魔法》がレベル2になって覚えた、攻撃系の魔法である。
「ほら、エミリ! お膳立ては、済んだぞ。止めだ」
「分かってるわよ!」
そう言って、呪文を唱え始めた。
「*****、*******、*****、*******、*******、火矢!」
「ギャーッ!」
《火矢》は、トロールの右目を貫いた。
「*****、*******、*****、*******、*******、火矢!」
「ギャーッ!」
「*****、*******、*****、*******、*******、火矢!」
「ゴワッ!」
続けて、二本目を左目、三本目を口内に打ち込んだ。
「まだ、息があるわね。ニコル君、剣を使いたいんだけど」
「えっ、使っちゃうの?」
「このままじゃ、効率が悪すぎる。剣に魔法属性を持たせれば、いいでしょ?」
その言葉に、僕は悩む。
「んー、そうだね。止めに使う分にはいいかな」
「やったー! ユミナ、シロン、ちょっと待ってて!」
「「分かった(ニャ)!」」
エミリは《魔法のポーチ》から剣を取り出し、杖を剣に持ち替えている。
「《雷》」
「*****、*******、*****、*******、*******、光線!」
エミリが準備する間、ユミナとシロンが間を繋ぐ。
「ユミナ、シロン、お待たせ! 《身体強化》もしたから、バッチリよ!」
エミリは剣に炎を纏わせ、最近覚えた《身体強化》スキルまで使った。
はっきり言って、ここまで弱ってるトロールに、《身体強化》スキルまで使う必要は無かった。
『ズバッ!』
剣の横一線で、トロールの胴体を真っ二つにした。
「やったわ!」
「やったわね!」
「やったニャ!」
「でも、時間が掛かり過ぎね。今度から、ニコル君も攻撃してよ。たくさん倒して、経験値を稼いだほうがいいでしょ」
「それはそうだけど」
「ニコル君、私からも《お願い》します」
「どんどん、レベルアップするニャ」
ユミナの《お願い》が発動した。僕はこれに弱い。
「分かったよ」
その後魔法主体の攻撃の間、みんなが一通り魔法を使ってから、僕が止めを刺す事になった。




