第二十話 ミノタウロスの斧
僕達は絡まれる前に、階段を降りようとした。
「おい、お前ら待て!」
僕達は、聞こえない振りをして、そのまま階段を一歩降りた。
『シュタッ!』
最初に僕達に気付いた男が、素早い動きで直ぐ近くまでやって来た。
「おい、お前ら! 兄貴が、待てと言ってんだろ!」
僕は振り向いて答えた。
「何だ、僕達の事だったのか? 気付かなかった」
「いい度胸だな。俺ら《ミノタウロスの斧》の事を、知らないのか?」
「ああ、知らないな。だが、知っていても何も変わらないぞ」
「てめー、殺られてーみてーだな!」
男は、ダガーナイフを構えた。
そして、一番近くにいたエミリに、近付こうとした。
『ドスッ』
「うっ」
僕はその気配を感じ、《瞬動》スキルで男に近付いた。
すぐさまダガーナイフを持つ右手首を掴み、鳩尾にパンチを見舞った。
「おい、お前っ! なに、この娘に手を出そうとしてるんだ。死にてえのか!」
僕は言葉と共に、《威圧》スキルを放つ。
「ヒィー!」
男はニコルに怯え、悲鳴を上げる。
「ニコル君!」
エミリも、ニコルの言動に驚く。
僕は男のダガーナイフを奪い取り、今度は前蹴りを見舞った。
「みんなは、ここで待ってて」
「「ニコル君」」
「ニャニャニャ(ご主人)」
「大丈夫だよ。手加減する」
だが、それはニコルの思い違いで、二人と一匹はそんな事を考えていなかった。
純粋に、ニコルの心配をしていたのだ。
僕は、男の前にゆっくり近付く。
「ヒィー!」
男は仲間の方に、慌てて逃げて行く。
「おい、兄貴とやら! 僕らに何か用か?」
「ふん、随分生きのいい坊主だ。俺は綺麗な姉ちゃん達に用があるんだが、すんなり行きそうもねえな」
「ああ、手を退いて貰いたいな」
「ふん。俺はなー、舐められたまんまじゃ気がすまねーんだ」
「別に、舐めてはいないが」
「それが、舐めてるって言うんだよっ!」
そう言いながら、こちらに迫って来た。
そして、ミノタウロスのような体躯が、斧を思い切り振り下ろして来た。
『ガキーン!』
僕は手に持つダガーナイフに魔力を通し、それを正面から受け止めた。
なかなかの腕力だ。だが、ラングレイ家の騎士ゴードンさん程ではない。
「ちっ、これを受け止めるか!」
「今なら、穏便に済ませてやってもいいぞ!」
「舐めんじゃねーーー!」
兄貴とやらが、重低音の声で喚きながら、斧を連続で振り回す。
僕は、それを体捌きだけで避ける。
「どうも、体の大きい奴は単細胞が多いな」
「糞がー!」
「おい、俺らもいくぞ!」
「ぶへへ!」
「おりゃー!」
「ぶへへー!」
一人は大剣で、もう一人は盾と片手剣を携え迫って来る。
『シュバッ!、シュバッ!』
二人の剣を、魔力を込めたダガーナイフで切り落とす。
「うひゃっ!」
「ぶへへー!」
そこに、《魔力感知》スキルが働く。
「*****、*******、*****、*******、*******、炎槍!」
「ギンッ!」
「うがーーー!」
「《ウォーター》」
僕は、女が放った魔法《炎槍》を、魔力を込めたダガーナイフで軌道を変えた。
その結果、兄貴と呼ばれる斧を持つ男の右太腿を、炎の槍が貫いた。
そして直ぐに、男の全身を炎が覆った。
命を奪うつもりは無いので、僕は直ぐに水を掛けた。
男は火傷を負ったが、重症というレベルでは無い。
右太腿の槍の貫通と火傷は、痛々しいが。
「「「兄貴ー(ぶへへー)!」」」
剣を切り落とした男二人と、ダガーナイフを奪い取った男が叫ぶ。
「炎槍の軌道を変えた? それに《無詠唱》の魔法?」
女は男を心配するよりも、僕が起こした現象の事を考えている。
周りにいるダンジョン探索者達は、ただ息を飲んで黙っていた。
「みんな、行こうか?」
「「「うん(ニャ)」」」
僕はこれ以上騒ぎに巻き込まれるのが嫌で、この場を去る事にした。
魔法名が漢字だったりカタカナだったり、統一できてなくてすみません。
それに、漢字の魔法名を何て読むか悩んでいると思います。
作者も厳密に決めてないので、勝手ながらご想像にお任せします。
そう言えば、ニコル達のパーティー名も付けてませんでした。
夏休みの間だけのパーティーなので、このまま付けないかもしれません。




