第十八話 男はサラダだけじゃ、満足しないニャ
今はもう、日が沈もうとしていた。
僕がシロンの壁のすり抜けを和みながら見ていると、エミリからお呼びが掛かった。
「ニコルくーん、シローン、ご飯よー!」
「分かったー。今、行くー!」
自室からダイニングルームに向かっていると、外から声が聞こえたので窓から覗いてみた。
「人の通りが、いつもより多いな」
ユミナ達は食卓に料理を並べていたが、気になったのでその事を話してみた。
「外が、いつもより賑やかだね」
「あれは、貴族の子弟の学生ね。王都の連中が、やっと着いたんじゃないかしら」
「そうなんだ」
「ニコル君。貴族の家の男子は卒業後就職を有利にするのに、夏休みを利用してダンジョンで能力を上げようと必死なんです」
「そうなんだ。でも、家督を継ぐ後継者には必要なさそうだけど」
「貴族の当主を継げたとしても、色んな意味で力が無いと、王国内での要職に就くのが難しくなります。その結果、その家が衰退する事もあります」
「へー、貴族も大変だね」
「王都の周りには五つのダンジョンがあり、夏休みの間多くの学生はそのうちのどこかに行きます」
「五つもダンジョンがあるんだ。僕は、ここしか知らなかったよ」
それを聞いて、『他のダンジョンに行ってみるのもいいな』と思った。
「この辺は、貴族の別荘があるみたいだから、そのうちもっと人が増えるわよ」
「という事は、あの子爵嫡男もいそうだね」
「そうね。警戒したほうがいいわね」
「ラノベのテンプレだと決まってトラブルが起きるんだけど、ユミナの《未来視》スキルで分からないかな?」
「そこまで万能じゃないので、些細なトラブルはスルーされるようです」
「そうか、残念。子爵嫡男がここを嗅ぎ付けて、尋ねて来そうだったから」
「私達がこの街にいる事がばれたら、貴族なら調べようと思えばいろいろと手段はありそうね」
「話題にしてると、まるでフラグを立ててるみたいだな」
そこでこの話題はやめ、ご飯を食べる事にした。
メインのおかずは照り焼きチキンで、僕の好きな炊き込みご飯もあった。
僕が作った味噌で、味噌汁も作ってある。
エミリが担当のサラダは、いつもと違ってゆで卵のスライスが乗っていた。
少しずつ、進歩しているようだ。
そして、みんなで食事をいただいた。
「ご飯、美味しかったよ」
「ユミナは、いい嫁になるニャ」
「あっ、ありがとうございます」
ユミナが、照れている。
「シロン、私は?」
「男はサラダだけじゃ、満足しないニャ」
「ぐぬぬっ」
エミリは、お嬢様らしからぬ様で、悔しがっている。
◇
食事が済み、僕とシロンはリビングで寛いでいる。
食事の後片付けが終わって、女子二人がリビングにやって来た。
「片付け、終わったよー」
「終わりました」
「ご苦労様」
「お疲れニャ」
そこで僕は、強化の終わった剣と杖を、二人に渡す事にした。
「エミリ、ユミナ。これ、渡しておくよ」
「えー、もうできたんだ。ありがと、ニコル君。・・・って何これ攻撃力が三倍以上で、魔法で属性を変えられるの?」
エミリは早速、《魔眼》スキルで剣の性能を見ていた。
「ユミナも、はいっ」
「これ、ミスリルですか?」
「表面だけね」
「ニコル君、ありがとうございます」
「どういたしまして」
「ニコル君、この剣凄いね。ユミナの杖の性能も、見てあげるよ」
「うん」
「えーとね」
エミリはそう言って、杖の性能をユミナに教える。
「《魔力回復(中)》と《詠唱短縮》ですか? 凄いです。ニコル君、本当にありがとうございます」
ユミナは杖を持ったまま僕の右手を握り、もう一度礼を言った。
僕は手を握り礼を言うユミナに、照れていた。




