第十六話 シロン、鉢合わせを回避する
僕達はダンジョンを出て、《ダン防》施設内を歩いている。
シロンは、いつものように鞄の中だ。
「戦闘時にニコル君がいないと、どれだけ守られてたか分かるわね。守備に攻撃に、へとへとよ」
「そうね。ニコル君がいたから安心して魔法が使えていたけど、守りが無いと詠唱を焦ってしまうわ」
「僕抜きで戦うのは、まだ早いかな。回復魔法が使えても、大怪我させる訳にはいかないからね」
歩きながらそんな話しをしていると、買取りカウンターが目に入った。
「そう言えば、魔石も素材も一つも買取りに出してないな。たしか、買取に出した魔石のランクと数で、探索者のランクが上がるんだよな」
「講習会でも、そんな事言ってたわね」
「うん。二人は、ダンジョン探索者のランクって気になる?」
「ランクが上がると、何か役に立つの?」
「エミリ、講習会で講師が言ってたでしょ。ランク別に、高額買取りの素材回収依頼があるって」
「そうだっけ?」
「それに高ランクだと、王国や貴族の兵士に就職するのに有利かもね。ただ、収入・安定・自由・危険なんかを天秤に掛ける必要があるけど」
「ふーん、そうなんだ。ニコル君のランクは、どうなの?」
「僕は一番下のGランクだよ。魔石を売った事無いからね。それに、本職は行商人だし」
「ユミナは、どうする?」
「今は、ランクに拘りは無いかな」
「じゃー、私もいいや」
彼女達がランクを上げたいと言ったら、魔石を売るつもりでいた。
僕はランクを上げたい訳じゃないから、結果的に良かったのだが。
僕達は用が無いので、そのまま《ダン防》を後にした。
◇
今は、繁華街を歩いている。
そして、ダンジョンで話していた件を、もう一度二人に聞いてみた。
「二人の剣と杖は僕が強化するけど、武器屋と魔道具屋に寄る?」
「夕食まで時間があるし、行ってもいいかな」
「私も、行きたいです。あと、食材のお店もいいですか?」
「そうだね。じゃあ、順番に行こうか。でも、店員に気を持たせないでね」
「うん、分かったー」
「分かりました」
「ご主人、鞄から出てもいいかニャ?」
「ああ、いいぞ」
シロンは、鞄から跳び出した。
僕達は、折れた魔鋼の剣を買った武器屋に来ている。
店に入る前に、魔鋼の剣は鉄の剣に替えてある。
店主に剣を直したのがばれたら、面倒な事になりそうなので、その辺は抜かりない。
「いい物でも、私の剣と性能は変わらないわね。でも、こんなに高いんだ。自分で買ってないから、知らなかった」
エミリは、《魔眼》スキルで自分の剣の値段まで見てなかったらしい。
「杖も、やっぱり高いんですか?」
「王都の魔道具屋を見た時、いい物は高かったよ」
「装備の買い替えを想定してなかったから、そこまでのお金を持って来ませんでした」
「私もー」
「それはしょうがないね。それじゃ、一応魔道具屋にも行こうか」
「はい」
「そうね。行きましょ」
僕は、店主の顔をそっと窺う。すると、目が合った。
「おじさん、ごめんね。今回も買えないや」
「おう、頑張って稼いで、また来な」
「そうします」
最初から買う気は無かったので、店主には悪い気がした。
魔道具屋にも行ったが、見て回るだけでやはり何も買わず店を後にした。
「それじゃ、食材を見に行こうか?」
「はい。食材はまだまだ有りますけど、この土地の物があれば買いたいです」
ユミナの要望が叶うか分からないけど、僕が何回か通った店に寄る事にした。
「ご主人、聞き覚えのある嫌な声が聞こえるニャ!」
シロンの《超聴覚》スキルが、ある声を捕らえそんな事を伝えてきた。
「誰だ?」
「嫌な声と言ったら、あの貴族ニャ! 誰かに、怒鳴ってるみたいニャ!」
「王都でいちゃもんをつけてきた、あの子爵の嫡男か?」
「そうニャ!」
夏休みに入って、今日で七日が経っている。
王都からだと、昨日今日がこの街に到着するタイミングだ。
あいつに見つかると、ユミナに付き纏うのが想像につく。
「シロン、子爵嫡男はどっちから来るんだ?」
「商業ギルドの方から来るニャ」
「ユミナ、どうする?」
「私、会いたくありません」
「私も、嫌だなー」
「それじゃ、買い物は中止して帰ろうか?」
「はい」
「そだねー」
「帰るニャ」
僕達は《転移魔法》で、借家へ帰るのであった。
テンプレだと鉢合わせするんだが、今回はシロンのスキルに救われた。




