第十一話 お前ら、日本人だろ!
僕は着替え、リビングで二人が来るのを待った。
「お待たせー」
「お待たせしました」
お嬢様二人は、見事にドレスアップしている。
一方僕は、王都で買ったあの一張羅だが、どう見ても不釣合いだった。
「ニコル君、どうですか?」
「あっ、うん。ドレス似合ってるね」
僕は、戸惑いながらもユミナを誉める。
「また、二人の世界に入るのかな?」
僕はそんなつもり無いのに、エミリが変な事を言っている。
「エミリも似合ってるよ。二人は、ドレスを用意してたんだね」
「ニコル君が作ってくれた《魔法のウエストポーチ》に、一通り入れてきました」
「まあ、貴族令嬢だしね。何があるか分からないから」
「そうだね」
「遅くなっちゃうから、早く行きましょ!」
「ああ、そうだね。シロン、悪いけど行って来るよ」
「じゃねー」
「一人で、留守番させて御免なさいね」
「気にしなくていいニャ。楽しんできてニャ」
◇
僕らは、シロンに申し訳なく思いながらも、予約した店に戻った。
《転移魔法》で移動してるので、それほど時間は経ってない。
店に入ると、席に案内された。
メニューを渡され、こういう場所に不慣れな僕は悩んでしまった。
「コース料理でいいんじゃない。ワインは、料理に合ったお手頃のを選んで貰えば」と、エミリがフォローをしてくれた。
「そうしてください」と、僕は店員に告げるだけだった。
心配だったが、予約無しでも対応してくれるらしい。
「エミリ、ありがとう。こういう店に、来た事がなかったんだ」
「任せて。親切なお姉さんが、『教えて、あ・げ・る!』から」
「ちょっと、エミリ。調子に乗りすぎよ」
「ごめーん」
「ところで、コース料理のマナーも分からないんだよね。スキルで、調べながらっていうのもね」
「それなら、私が教えます」
「ユミナ、違うでしょ。『教えて、あ・げ・る!』でしょ」
「エミリ!」
「てへっ!」
食事は、フランス料理風のコース料理だった。
食前酒から始まり、前菜、スープ、魚、シャーベット、肉、デザート、コーヒーをいただいた。
どれも文句の付けようが無く、美味しかった。
何となく、この店にも勇也さんの影を感じる。
フランス料理とか、それにコーヒーもあったし。
テーブルマナーが危うかったけど、ユミナの指導で何とか乗り切れた。
しかし、『高級店は、僕には合わないな』と、思っていた。
王都で通った食堂が懐かしい。
たしか名前は、《お食事処やまと》だったと思う。
◇
店を後にし、酔いを醒ますのに街を散歩する。
「美味しかったねー。ニコル君、ご馳走様ー」
「美味しかったです。ニコル君、ありがとうございます」
「どういたしまして」
「支払いは、大丈夫でした?」
「うん、大丈夫だよ。ハハッ」
『王都で稼ぐ前だったら、やばかったけど』と、思うも言葉に出せない。
十万マネーを、超えてしまった。
「食事は美味しいけど、ああいう高級店はマナーとか緊張するよ」
「何言ってるの? こんなの馴れよ」
「前世でも、行く機会無かったしね。二人は貴族のお嬢様だけあって、自然だったね」
「そんな事言うなら、ニコル君には《チート》があるし、貴族になっちゃいなよ」
「そんな簡単になれるわけ無いし、なるつもりも無いよ。僕は『のんびり』暮らすのが、目標なんだ」
「私が男でニコル君のその能力があったら、てっぺんを目指したくなるけどな」
「ニコル君の能力は、貴族とか庶民とか超越してます!」
「庶民派の僕は、貴族社会を理解できないよ」
「そんな事言わず、でっかい功績を上げて貴族になったらいいのに」
「それ、私も賛成です。そうすれば、『ごにょごにょ』・・・」
「ユミナ、聞こえないよ」
そんな事を話しながら歩いていると、突然声を掛けられた。
「あれ、ニコルか? よく合うな。そうして着飾ってると、貴族令嬢の護衛みたいだな」
『鋭い。当たっている』
「アレンさんは、御食事帰りですか?」
「ああ、試験官連中と少し飲んで来たところだ。お前さんらは、試験に合格したみたいだな」
「ええ、おかげさまで。それで、お祝いにちょっと背伸びをしました」
「そうか、良かったな。ところで、お前らに質問があるんだが」
「何です?」
「お前ら、日本人だろ!」
「「「えっ!」」」
僕らは固まって、返事ができなかった。
「あれ、違ったか? 俺の感は当たるんだがな。酔ってるのかもな」
「「「・・・」」」
「まあ、気にしないでくれ。ダンジョンで、気を付けろよな」
「はい。おやすみなさい」
僕らは動揺を隠せないまま、《転移魔法》で借家へ帰った。
◇
「ただいま、シロン」
返事が、無い。
「あれ、寝てるのか?」
「ねえねえ、ニコル君。あれは、気付いてるのかな? 《魔眼》からは、嘘は言ってないようだったけど」
「さあ、どうかな」
「でも、《鑑定》スキル持ってたよ」
「アレンさんの《鑑定》スキルが、エミリの《魔眼》スキルに匹敵するかは、分からないな」
「じゃあ、本当に感だけで言ったのかな?」
「そうかもしれないね」
「それで、今後どうするんですか?」
「どうしようか? 悪い人では無いと思うけど、君たちは伯爵令嬢だから、下手に情報を広めない方がいいと思う。まあ、信用できると分かれば、打ち明けてもいいかもね」
「そうですね」
「明日はダンジョンだから、お風呂に入って早く寝よう」
「はい」
その晩は、僕のベットで寝ているシロンを、約束通り抱きしめてやった。




