第十話 試験官アレン
2021/04/18 一部修正しました。
翌日の朝、僕達はダンジョン探索者試験を受けに通称《ダン防》に来ていた。
一人で留守番は可哀想なので、シロンも鞄に入れて連れて来ている。
お嬢様達の装備は、貴族らしく高価な物だった。
そういう僕も、オーガの皮で作った皮鎧と魔鋼の剣を装備した。
格好だけみれば、三人は一端のダンジョン探索者に見えた。
「あれ、ニコルじゃないか?」
「アレンさん! また、試験官ですか?」
「そうなんだ。夏休みの特に忙しい間だけな。ニコルは、パーティーで試験を受けるのか?」
「はい。彼女達と、パーティーを組む事になりまして」
「へー、美人を二人も連れてなかなかやるな。どっちが、お前の彼女だ?」
「えっ、違いますよ」
僕は振り向いて、チラッと二人を見た。
すると、ユミナが照れて下を向いていた。
「何だ、違うのか。勿体無い。俺はソロの試験官だから、もう行くわ。頑張れよ!」
「はい!」
アレンさんは変な言葉を残して、試験会場へ行ってしまった。
「ねえねえ、ニコル君。あの人、凄いわね」
「そうだね。実技試験でスキル無しで挑んだけど、全然適わなかったよ」
「へー、そうなんだ。称号が《光の英雄》ってなってたし、ステータスも凄いから納得よね。しかも、《元日本人の転生者》だし!」
「えっ、そうなの!!!」
「あれっ、知らなかったんだ。仲良さそうだから、知ってると思った」
「試験の時一回しか会ってないし、ステータスも見てないからね。見たとしても、エミリみたいに《転生者》という情報まで分からないよ
」
先日、三人の了承を得て、ステータスを見せて貰った。
安全の為、実力を知る必要があったのだ。
それぞれ羨ましいスキルを持っていたが、《転生者》という情報まで分からなかった。
エミリの《魔眼》スキルは、視る事に関して僕の《鑑定》能力より数段上だった。
嘘もある程度分かるらしいので、スキルレベルが上がったら怖い気もする。
「そうなの? それにしても、《転生者》が多いわね」
「僕もそう思う」
この場所にはさっきまで、五人の《元日本人転生者》がいた。
◇
僕らは、無事ダンジョン探索者試験に合格した。
「思ってたより、楽勝だったね。ユミナ!」
「そうね。ニコル君がいるから、安心して試験が受けられたね」
「試験官達も、ニコル君の強さにビックリしてたもんね」
「僕だけじゃないよ。エミリの剣技もユミナの魔法も、なかなか良かったよ」
「えへへ、そうかな?」
「嬉しい!」
「そういう事で、お祝いしようか? ご馳走するよ」
そんな訳で、今晩は外食をする事になった。
繁華街を歩くと、エミリがお洒落なレストランを見付けた。
この街はダンジョンの街という事もあり、貴族の子弟が多く訪れる。
そんな彼らが、利用する様な店だった。
生憎と王国学園の学生はまだこの街に来ていないので、店に入ってみた。
「そうですか。この格好では駄目ですか。それにペットも」
服は着替えればいいが、シロンはどうする事もできなかった。
僕達は諦め、店を出た。
すると、シロンが話し掛けてきた。
「ご主人、遠慮しなくていいニャ。着替えて、出直して来るニャ。その代わり、今晩ご主人に抱いて貰うニャ」
「シロンを抱くのか?」
人間だったら誤解を招く言い方だったが、二人の為にお言葉に甘える事にした。
そして店に戻り、予約だけして一旦借家へ帰った。
◇
借家に到着しお嬢様達が着替えている間、僕はシロンの夕食を用意してやった。
「ご主人、ありがとニャ。ご主人のご飯が、一番美味しいニャ」
「今晩は一緒に寝てやるから、大人しく待っててくれ」
「分かったニャ」
僕はシロンの気遣いに感謝し、優しく接するのであった。




