第八話 お嬢様達の手料理
僕達は商業ギルドを出て、繁華街を歩いていた。
しかし、擦れ違う人達がこちらに視線を向けるので、なんとなく居心地が悪く、ゆっくり街を散策できないでいた。
自分で言うのも何だが、美男美女が三人とかわいい猫がいれば、目立つだろう。
そして繁華街を抜け、立派な家が多く建ち並んぶ閑静な場所に着いた。
「豪邸だニャー!」
「いやー、随分大きな家を借りちゃったよ。こんな家で、良かったのかな?」
「私達、伯爵家の御令嬢だからね。これなら、小さい部類よ」
「うっ、贅沢に大きな家を借りつもりだったのに、二人にはそうでも無いのか? 格差を感じる」
「ニコル君。私、お昼ご飯作りますね」
そんな僕を不憫に思ったのか、ユミナが話しを逸らしてくれた。
「ユミナの手料理、楽しみだ」
「ガンバリます!」
ユミナは、拳を胸の前で握り気合が入っている。
「あっ、私も手伝うー」
「えっ、エミリも料理するの?」
僕は思わず聞き返す。
「一応、女子だからね。料理できるとこ、見て貰わないと」
「前世では分からないけど、お嬢様は普段料理しないよね?」
「大丈夫。ユミナはがいれば、何とかなるって」
『何とかって、大丈夫かなー。その軽い感じが信用できない』と思ったが、口には出せない。
二人は張り切って、キッチンへ向かった。
食材は、僕が貸し出した《時間経過無し》の魔法袋に入れてある。
ユミナが、王都で揃えてくれた。
そこに『タタタッ』と、足音がした。
ユミナがこっちへ戻ってきて、『何か、リクエストはありますか?』と、聞いて来た。
僕が日本食をリクエストすると、『はい!』と頷いて、キッチンへ戻って行った。
その姿を見て、『新妻みたいで、可愛い』そんな事を思ってしまった。
当初、この街にいる間は、僕が錬金術で料理をしようと思っていた。
時間も節約できるしね。
だけど、ユミナは今回の昼食だけでなく、毎回料理を作ると言っている。
ユミナはお嬢様にも関わらず、料理が趣味らしい。《料理》スキルも、持っている。
そういう事で、料理を任せてしまった。
それに男なら女子にご飯を作って貰うって、憧れるよね。
一方、エミリの方は、料理をした事が無いみたいだ。
それでも、何故かキッチンで手伝おうとしている。
エミリが料理したら、日曜日の昼のテレビ番組の「○○○!TRY」というコーナーに出てくる素人のようで怖い。
一時間半程が過ぎシロンと寛いでいると、エミリが現れた。
「じゃーん! お待たせ。食事が出来たから、ダイニングに来てちょうだい」
「分かった。今、行くよ」
僕とシロンが、二人の待つダイニングへ行くと、いい匂いがしてきた。
テーブルの上を見ると、肉じゃがとピーマンの肉詰めと野菜スープとご飯が並べてあった。
「美味しそうだね。それに、凄く懐かしい」
「お味噌汁も作りたかったけど、お味噌が無くて代わりに野菜スープにしました」
「別に構わないよ。今度、味噌を作ってあげる」
「本当ですか? そうしたら、お味噌汁以外にも何か作りますね」
「二人の世界に入ってるわね。冷めない内に、早く食べましょう」
「早く食べるニャ」
「分かった。それでは、」
「「「「いただきます」」」」
僕は、肉じゃがに箸を伸ばし食べた。
「美味しい。これなら、毎日のご飯が楽しみになるよ」
「ガンバリます!」
ユミナは、箸を持ったまま両手の拳を胸の前で握る。
『可愛い』
「エミリは何を手伝ったんだ?」と本人に聞くと、無言でガツガツ食べだした。
どうやら料理はせず、食器を出しただけらしい。
そんなものだよね。エミリには悪いが、料理に手を出されなくて良かった。
「ニコル君は、料理ができる娘がいいんだ」
「僕は貴族じゃないから、専属の料理人がいる分けでもないしそうなるよ」
「ふーん」
エミリが、なぜか不遜な態度をとった。
「エミリは、ヤキモチ焼いてるニャ。料理を覚えればいいニャ」
シロンが、余計な事を口走った。
「ふん!」
「エミリは、貴族のお嬢様だしね。しょうがないよ」
フォローをしておく。
「ご主人、乙女心が分かってないニャ」
シロンが何か言っているが、スルーした。当たっているだけに、言い返せない。
「今度、私も作る!」
そして、エミリが料理をする事になった。




