第七話 ダンジョンの街、再び
実力試験も終わり、ダンジョンの街エテールに向けて出発するまで二週間あったが、僕は忙しくしていた。
その一つは、故郷の村で収穫した小麦を、領主様に税として納めに行った。
盗賊がこの時期活発になり、税を納めに行く父さんを護衛したのだ。
これは、五歳の頃からずっと続けている。
母さんに『もう、行っちゃやだー』と、引き止められてしまったが、いろいろと忙しかったので我慢して貰った。
その他に、ダニエル商会に行って商品を卸したり、エーテルの街に用事を済ませに行った。
ユミナさんの家でダンジョンの打ち合わせや、魔法書を見せて貰ったりもした。
『ニコル君、来てたんだね。ちょっと魔法談議をしようか?』と言って、グルジット伯爵が現れて、魔法についていろいろと説明を始めたのには困った。
その時に聞いた事なんだけど、グルジット伯爵の連続の魔法は、《無詠唱》では無く《待機》をさせていたそうだ。
呪文を唱えて、魔法を最大十二個まで《待機》させられるという事だった。
『そんな事もできるんだ』と関心したが、《無詠唱》で魔法を使える僕には、必要の無い物だった。
◇
そして夏休みになり、僕達三人と一匹は、エーテルの街に来ていた。
「へー、ここがエーテルの街かー。王都と全然雰囲気が違うね」
「そうね。街並みが違うし、ダンジョン探索者が大勢いるわね」
「美味しそうな、臭いがするニャ」
「みんな、今日は拠点となる家を借りて、試験の申込みに行こうと思うんだけどいいかな?」
「うん、いいわよ」
「ニコル君と、一つ屋根の下で過ごすんですね。楽しみです」
「顔を赤くして、何が楽しみなのかニャ? ユミナ、大胆ニャ!」
「楽しみに、変な意味はありません!」
「はいはい。商業ギルドへ行くよ」
僕達は商業ギルドへ行き、一軒家を借りた。
僕がちゃんと予約していたので、すんなり借りられた。
日本式の間取りで言えば、4LDKと言ったところである。
しかし部屋の大きさは日本の比では無く、各部屋二十畳ほどあった。
ちなみに、金額は四十五日間で百八十万マネーだった。
それでもギルド会員という事で、一割引きしてもらい百六十二万マネーになった。
「やっぱり、ちょっと高かったかな? 貴族のお嬢様が泊まるから、奮発したんだ」
「どうかしら? こういう事で自分でお金を払わないから、正直分からないわ」
「やっぱり、お嬢様だね」
「まあね。はい、お金。ニコル君が立替えた分、忘れる前に払っておくわ」
「あっ、うん。ありがとう」
打ち合わせの金額に収めたが、貴族の金銭感覚に戸惑う僕であった。
◇
その後、通称《ダン防》に寄り、無事に試験の申込みを済ませた。
このダンジョンの受験資格は、十五歳の成人を迎えていれば良かった。
エミリとユミナは、僕と同じ十五歳なので問題無い。
夏休みの時期は学生で込み合うらしく、毎日試験をしていた。
試験の受け付けも、前日に定員になるまで行われている。
この事も、すでに調査済みであった。
僕らは運よく定員前で、明日試験を受けられる事になった。
パーティーでの申し込みだったが、ソロの資格を持つ僕の費用は免除された。
「明日、試験だって。大丈夫?」
「特訓したから、大丈夫よ!」
「私も、平気です!」
「それなら、良かった」
彼女達は、頼もしかった。
お気付きかもしれないが、二人に対して僕の言葉使いがフランクになった。
実は二人に『よそよそしい』と、注意されたのだ。
『元日本人でも、今は伯爵家の御令嬢なんだから』と断ったが、それでも二人は納得しなかった。
「二人の実力は見せて貰ったので、明日の試験は大丈夫だろう」と、考える僕であった。




