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第五話 バレタ

2020/09/01 一部内容の修正をしました。

誕生日から五日目、錬金術でちょっとした物なら作れるようになった。


村で共用の農具が草臥れているのを見て、僕は錬金術で鎌・平鍬・備中鍬・手スコップ・剣先スコップを十個ずつ作った。


「こんなものかな。後は、農具置場に置くだけだ」


僕は夕食前に家に帰ろうと、急いで農具置場に足を運び忍び込んだ。

いきなり十個ずつ置くと目立ってしまうので、取り敢えず二個ずつ置いた。


そして、その場所から離れようとすると、後ろから声を掛けられた。


「ニコル。そこで、何をしてるの?」


声の主は、エレナお姉ちゃんだった。


「エレナお姉ちゃん」


「一人でこんなところにいたら、危ないわよ。もうすぐ夕御飯だから、帰りましょう」


「うん」


エレナお姉ちゃんは、農具の事には気付いて無いようだ。



「ニコルは最近、一人で遊んでるのね。お姉ちゃんと一緒は、嫌なの?」


「そんな事ないよ。エレナお姉ちゃん、大好き!」


「そう、良かった。明日は、お姉ちゃんと遊ぶのよ!」


「うん!」


エレナお姉ちゃんは、『パッ』と笑顔になって僕の手を取って繋いだ。


僕は前世の記憶が蘇ったので、複雑な気分だった。

子供として遊ぶのは、どうも抵抗がある。


だから、自然と一人になってしまった。



翌日、エレナお姉ちゃんと一緒に、畑で手伝いをしていた。


「これが終わったら、お姉ちゃんと遊ぶんだからね」


「うっ、うん」


僕は何をして遊ぶのか、不安になった。



「くそっ! 山に、帰りやがれ!」


「父さん、一人じゃ危ないよ!」


突然、父さんとジーク兄ちゃんの叫び声が聞こえた。


そちらに振り向くと、大きな猪と父さんが争っている。


「あっ! 父さんが、猪に突き飛ばされた」


そして今度は、ジーク兄ちゃんの方に向かっている。


ジーク兄ちゃんは、まだ九歳の子供だ。

まともに喰らったら、大怪我をする。


僕は地面に両手を翳し、《錬金術》を使った。

まだ使った事は無いが、《漫画》で見た事がある。


「土壁、出てくれー!」


すると、猪の目の前に土壁が現れ、そのまま激突し失神してしまった。

土壁は、思いのほか強度があったらしい。


そこに立ち上がった父さんが、鎌で止めを刺した。


「ふー、危なかった。ジーク、大丈夫か?」


「うん。大丈夫だよ」


「それにしても、この土壁はどういう事なんだ? もしかして、ジークがやったのか?」


「違うよ。俺は、逃げただけだよ」


父さんはこの不思議な現象を、誰が起こしたのか探し始めた。


「ニコル。あの土の壁は、あなたが作ったの?」


「えっ、何の事?」


「でもさっき、『土壁、出てくれー!』って、言ってた」


「そうかなー?」


「そうよ!」


姉さんに手首を捕まれ、父さん達のところに連れて行かれた。


「ねえねえ、お父さん。この壁、ニコルが作ったみたいなの」


「何っ、本当か!」


「うん。でも、ニコルってば誤魔化すのよ」


「ニコル、どうなんだ?」


『うわー、これは言うしかないのかな?』と、心の声。


暫し、考える。


「えーと、・・・僕がやりました」


「ニコル、本当なのか?」


「私は見てたよー」


エレナお姉ちゃんは、得意げに言った。


「ニコル、どうやるんだ。俺にも、教えてくれ!」


ジーク兄ちゃんは、僕の能力に興味津々だ。



もうこれは、説明するしかなかった。

勿論、全部を明かすつもりは無い。


「この間の誕生日の夜、夢に神様が出て来て、僕に能力をくれたんだ。朝起きて確かめたら、本当にその能力が使えたんだ」


僕は土壁に手を翳し、土に戻す。


「「「うわっ!」」」


「ニコル、すごーい!」


「すげーな、ニコル!」


「どうやら、本当のようだな。もしかして、この切れ味のいい鎌もニコルが作ったのか? 昨日はこんなの無かったぞ」


「うん。僕が作った」


「それじゃ、他に増えた農具もそうなんだな?」


「うん」


「あー! だから、昨日農具置場にいたんだー!」


何か、みんなばれてしまった。


「お前達! この事は、言い触らすなよ!」


「「どうして?」」


「こんな能力が貴族に知れたら、ニコルは連れて行かれてしまうぞ!」


「えっ、やだー!」


エレナお姉ちゃんは、涙目になって言った。


「そうなのか? 父さん」


ジーク兄ちゃんは、いまいち分かってなかった。


「ああ、貴族は強欲な生き物だ。そして、ニコルの能力は凄い金を生む。だから、皆でニコルを守るんだ!」


「「分かったー!」」


ジーク兄ちゃんとエレナお姉ちゃんは、真剣な顔で返事をした。


「この猪は持ち帰って、村のみんなに分けるぞ。その前に、血抜きをしないとな」


「あっ! それだったら、僕できるかもしれない」


「そんな事も、できるのか?」


僕は猪に手を翳し、この間覚えたばかりの《分離》の能力で血を抜いた。

抜いた血は地面に落ち、染み込んでいった。


それを見ていた父さん達は、呻りを上げた。


「「「おおー!」」」


その後ジーク兄ちゃんが、猪を積み込む荷車と男手を探しに行った。



助っ人の手を借り猪を広場に運ぶと、見事な大きさの猪に村人達は賑わった。


それを父さんと助っ人で捌いて、村人達に配った。

村中の家族で分けるので、それほど多くはないが、みんな喜んでいた。



僕とエレナお姉ちゃんは、遊ぶ約束をしていたので、汚れを落として家に入った。


そして、エレナお姉ちゃんはお母さんを見付けると、畑での出来事を全て話してしまった。

僕はもうついでだと思い錬金術で作った食器を、隠れて《亜空間収納》から取り出して母さんに渡した。


取り敢えず《亜空間収納》は、今は家族に隠す事にした。


「ニコルちゃん、ありがとう。母さん、助かるわ。ニコルちゃんは可愛いくて、こんな物まで作れるのね」


母さんは食器をテーブルに置くと、僕に抱き付いてほっぺにキスをした。


母さんは僕の事が凄く好きで、こんな事は日常茶飯事だ。

でも、今は前世の記憶があるから、どういった反応をしていいのか困る。


まあ、母さんは美人で優しいから、正直に言うと嬉しいのだが。


その後、エレナお姉ちゃんと遊ぶ約束は、《錬金術》のお披露目に変わった。

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