第五話 バレタ
2020/09/01 一部内容の修正をしました。
誕生日から五日目、錬金術でちょっとした物なら作れるようになった。
村で共用の農具が草臥れているのを見て、僕は錬金術で鎌・平鍬・備中鍬・手スコップ・剣先スコップを十個ずつ作った。
「こんなものかな。後は、農具置場に置くだけだ」
僕は夕食前に家に帰ろうと、急いで農具置場に足を運び忍び込んだ。
いきなり十個ずつ置くと目立ってしまうので、取り敢えず二個ずつ置いた。
そして、その場所から離れようとすると、後ろから声を掛けられた。
「ニコル。そこで、何をしてるの?」
声の主は、エレナお姉ちゃんだった。
「エレナお姉ちゃん」
「一人でこんなところにいたら、危ないわよ。もうすぐ夕御飯だから、帰りましょう」
「うん」
エレナお姉ちゃんは、農具の事には気付いて無いようだ。
「ニコルは最近、一人で遊んでるのね。お姉ちゃんと一緒は、嫌なの?」
「そんな事ないよ。エレナお姉ちゃん、大好き!」
「そう、良かった。明日は、お姉ちゃんと遊ぶのよ!」
「うん!」
エレナお姉ちゃんは、『パッ』と笑顔になって僕の手を取って繋いだ。
僕は前世の記憶が蘇ったので、複雑な気分だった。
子供として遊ぶのは、どうも抵抗がある。
だから、自然と一人になってしまった。
◇
翌日、エレナお姉ちゃんと一緒に、畑で手伝いをしていた。
「これが終わったら、お姉ちゃんと遊ぶんだからね」
「うっ、うん」
僕は何をして遊ぶのか、不安になった。
「くそっ! 山に、帰りやがれ!」
「父さん、一人じゃ危ないよ!」
突然、父さんとジーク兄ちゃんの叫び声が聞こえた。
そちらに振り向くと、大きな猪と父さんが争っている。
「あっ! 父さんが、猪に突き飛ばされた」
そして今度は、ジーク兄ちゃんの方に向かっている。
ジーク兄ちゃんは、まだ九歳の子供だ。
まともに喰らったら、大怪我をする。
僕は地面に両手を翳し、《錬金術》を使った。
まだ使った事は無いが、《漫画》で見た事がある。
「土壁、出てくれー!」
すると、猪の目の前に土壁が現れ、そのまま激突し失神してしまった。
土壁は、思いのほか強度があったらしい。
そこに立ち上がった父さんが、鎌で止めを刺した。
「ふー、危なかった。ジーク、大丈夫か?」
「うん。大丈夫だよ」
「それにしても、この土壁はどういう事なんだ? もしかして、ジークがやったのか?」
「違うよ。俺は、逃げただけだよ」
父さんはこの不思議な現象を、誰が起こしたのか探し始めた。
「ニコル。あの土の壁は、あなたが作ったの?」
「えっ、何の事?」
「でもさっき、『土壁、出てくれー!』って、言ってた」
「そうかなー?」
「そうよ!」
姉さんに手首を捕まれ、父さん達のところに連れて行かれた。
「ねえねえ、お父さん。この壁、ニコルが作ったみたいなの」
「何っ、本当か!」
「うん。でも、ニコルってば誤魔化すのよ」
「ニコル、どうなんだ?」
『うわー、これは言うしかないのかな?』と、心の声。
暫し、考える。
「えーと、・・・僕がやりました」
「ニコル、本当なのか?」
「私は見てたよー」
エレナお姉ちゃんは、得意げに言った。
「ニコル、どうやるんだ。俺にも、教えてくれ!」
ジーク兄ちゃんは、僕の能力に興味津々だ。
もうこれは、説明するしかなかった。
勿論、全部を明かすつもりは無い。
「この間の誕生日の夜、夢に神様が出て来て、僕に能力をくれたんだ。朝起きて確かめたら、本当にその能力が使えたんだ」
僕は土壁に手を翳し、土に戻す。
「「「うわっ!」」」
「ニコル、すごーい!」
「すげーな、ニコル!」
「どうやら、本当のようだな。もしかして、この切れ味のいい鎌もニコルが作ったのか? 昨日はこんなの無かったぞ」
「うん。僕が作った」
「それじゃ、他に増えた農具もそうなんだな?」
「うん」
「あー! だから、昨日農具置場にいたんだー!」
何か、みんなばれてしまった。
「お前達! この事は、言い触らすなよ!」
「「どうして?」」
「こんな能力が貴族に知れたら、ニコルは連れて行かれてしまうぞ!」
「えっ、やだー!」
エレナお姉ちゃんは、涙目になって言った。
「そうなのか? 父さん」
ジーク兄ちゃんは、いまいち分かってなかった。
「ああ、貴族は強欲な生き物だ。そして、ニコルの能力は凄い金を生む。だから、皆でニコルを守るんだ!」
「「分かったー!」」
ジーク兄ちゃんとエレナお姉ちゃんは、真剣な顔で返事をした。
「この猪は持ち帰って、村のみんなに分けるぞ。その前に、血抜きをしないとな」
「あっ! それだったら、僕できるかもしれない」
「そんな事も、できるのか?」
僕は猪に手を翳し、この間覚えたばかりの《分離》の能力で血を抜いた。
抜いた血は地面に落ち、染み込んでいった。
それを見ていた父さん達は、呻りを上げた。
「「「おおー!」」」
その後ジーク兄ちゃんが、猪を積み込む荷車と男手を探しに行った。
助っ人の手を借り猪を広場に運ぶと、見事な大きさの猪に村人達は賑わった。
それを父さんと助っ人で捌いて、村人達に配った。
村中の家族で分けるので、それほど多くはないが、みんな喜んでいた。
僕とエレナお姉ちゃんは、遊ぶ約束をしていたので、汚れを落として家に入った。
そして、エレナお姉ちゃんはお母さんを見付けると、畑での出来事を全て話してしまった。
僕はもうついでだと思い錬金術で作った食器を、隠れて《亜空間収納》から取り出して母さんに渡した。
取り敢えず《亜空間収納》は、今は家族に隠す事にした。
「ニコルちゃん、ありがとう。母さん、助かるわ。ニコルちゃんは可愛いくて、こんな物まで作れるのね」
母さんは食器をテーブルに置くと、僕に抱き付いてほっぺにキスをした。
母さんは僕の事が凄く好きで、こんな事は日常茶飯事だ。
でも、今は前世の記憶があるから、どういった反応をしていいのか困る。
まあ、母さんは美人で優しいから、正直に言うと嬉しいのだが。
その後、エレナお姉ちゃんと遊ぶ約束は、《錬金術》のお披露目に変わった。