第三話 ニコル、貴族の実力試験を受ける
その場にいた全員で外の訓練場へ移動し、僕は木剣を渡された。
「さすがに、本物の剣は使わないか」
伯爵は屈強な騎士達を呼びつけ、僕の実力を見定めるように命じる。
「おい、ゴードン。例の護衛だ。実力を確かめてやってくれ」
「ハッ、お任せください!」
僕の前に現れたのは、身長二メートルを超える筋肉ゴリラだった。いや、本物じゃないよ。
「ニコル、本気で行け! 気を抜いて、怪我をするなよ」
「分かりました」
二人は木剣を構えた。
「それでは、始め!」
ラングレイ伯爵の号令で、僕の実力試験が始まった。
「うおりゃー!」
ゴードンさんは巨躯を生かし、上段から力強く剣を振り下ろしてきた。
『ガキッ!』
僕はその場で、ゴードンさんの剣を受けた。
「なっ!」
ゴードンさんの剣が、一合で折れた。と言うか、僕が受けながら折ったんだが。
「くそっ、木剣が弱ってたんだ!」
「それなら、鉄剣に換えましょうか?」
「何っ、舐めるなよ。小僧!」
「ゴードン!」
「ハッ!」
「刃を潰した鉄剣で、仕切り直しだ!」
「分かりました!」
僕は鉄剣を受け取り、その剣で直径一メートルの円を地面に描く。
「僕はこの円から出ませんから、掛かって来てください」
「小僧ー!」
ゴードンさんの顔が、真っ赤になる。
『あれ、怒っちゃったかな? 冷静さを失ったら、不味いでしょ』
共に剣を構え、ラングレイ伯爵の号令で再開する。
ゴードンさんは、僕を円から出す魂胆なのか、剣を横薙ぎに振るった。
だが、僕からしたらスピードが遅いので楽に対処できる。
僕は手に持つ剣で、相手の剣を受け流す。
「小僧、やるな! だが、これからが本番だ!」
ゴードンさんは、今度は連続で剣を振るってきた。
『キン、キン、キン、キン、キン、キン、キン、キン、キン、キン、・・・・・・・・・・』
僕は円から一歩も出ず、剣の軌道を見極め全てを受け流した。
「ぐぬぬっ」
『ぐぬぬっ』頂きました。
ゴードンさんは、伯爵家の騎士をするほどだから決して弱くは無い。
僕が、強いだけだ。
Aランクダンジョン探索者の《アレンさん》のような人は、稀有な存在なのだろう。
さて、いつまでやるか。
『キン、くるり、ヒュン』
僕は次の一合で、ゴードンさんの剣を絡め取って飛ばした。
剣を手放したゴードンさんは、『ポカーン』としてる。
「そこまで! ニコルの勝ちだ!」
ラングレイ伯爵は、僕の勝ちを宣言した。
それを聞いてゴードンさんは、『くっ、殺せ』と呟き、僕を睨んでいる。
美女の騎士じゃないんだから、止めて欲しい。
「ニコル、あの力強い剣をいなすとは、凄まじい剣捌きだ。どこの流派だ」
「自己流です。師はいません」
本当は、《検索ツール》で調べた剣の戦闘ゲームや漫画の知識なんだけどね。
あと、《剣技》スキルの影響が大きいかな。
「自己流か。それでそこまで洗練されてるとは、天才だな。今度は盗賊や魔物に囲まれた事を想定して、八人を相手にして貰おうか」
「八人ですか? それは無理ですよ」
「謙遜するな。先程は、実力の片鱗しか見せてないのだろう」
『ラングレイ伯爵は、僕の実力をどこまで見極めているのだろうか?』鋭い眼光が、僕を見詰める。
「それでは、《防御属性魔法》を使ってもいいですか?」
「なんだ、魔法も使えるのか? 魔法学校にも通っておらんのだろう。どうやって覚えたんだ?」
「魔法書で、独学です」
「そんな簡単に覚えられるものでも無いのだがな。まあいい、魔法の使用を許す」
そして僕は、八人の騎士と対峙している。
ゴードンさんほどの巨漢はいないが、僕より背が高く体格がいい。
体捌きだけでかわす自身はあったが、せっかく覚えた魔法を使ってみたくなった。スノーウルフで練習したあれだ。
僕は八人の前に、無詠唱で《盾》を出した。
「「「「「「「「なっ!」」」」」」」」
それを見て、騎士は驚いている。
そしてそれ以上に、《魔法省副大臣》のグルジット伯爵の驚きの声が聞こえた。
「無詠唱だと。それも盾を八つ同時に。これを、個別に制御すると言うのか?」
何か、仰々しく叫んでいる。まずかったか?
今は戦闘中なので、そちらに集中する事にした。
僕は騎士が踏み込んで来る前に盾を移動し、近付かせない戦法をとった。
《危機感知》スキルと盾を連動させる事によって、簡単に操作ができた。
騎士は盾を掻い潜る事ができず、体力を消耗していく。
「もうそろそろ、いいかな」
そこで僕は盾を引っ込め、剣だけで対峙した。
「くそっ、舐めやがって!」
騎士達は盾が無くなった事により、今までの鬱憤を晴らすかのように僕に向かって剣を振るった。
「駄目だ。当たらん」
僕は剣舞でも踊るかのように体捌きと剣捌きでかわし、騎士達の体力をさらに削った。
『キンッ!、キンッ!、キンッ!、キンッ!、キンッ!、キンッ!、キンッ!、キンッ!』
最後は騎士達の剣を叩き落とし、全ての騎士が剣を手放した。
だが、ラングレイ伯爵から僕の勝ちの宣言は無かった。
「次は、私の番だな!」
そして、ラングレイ伯爵のそんな声が聞こえた。




