第一話 ユミナの破壊力
第三章、始まります。
結局あの後、ダンジョンの同行を断れなかった。
彼女達を貴族街の近くまで送り、今はシロンと一人と一匹だけである。
「あれは、断れないよなー」
「ご主人も、やっぱり男ニャ」
「そう、言うなよ」
僕が首を縦に振ったのは、ユミナさんから《お願い》されたのが決め手だ。
彼女の潤んだ目の《お願い》は、破壊力抜群だ。
この世界の男で、あれを断る事ができる猛者は、そうはいないだろう。
ある種の《スキル》に近い。しかも、高レベルの。
美しい顔とスタイルに、女神かと勘違いしそうな優しい微笑み。
それでいて、『パッ』と笑った顔は実にチャーミングだ。
そして、性格は控えめで恥ずかしがり。
決め手は、思わず目がいってしまう大きなお胸。
「ミーリア、ごめんよ。これは、浮気じゃないんだ。同じ《元日本人》という秘密を共有した仲だから、仕方がないんだ」
なぜか僕は、故郷の幼馴染に言い訳をしてしまった。
「ご主人、遠くを見て何を言ってるニャ?」
やばい、シロンに見られてた。
そして話し合いの結果、エミリさんが対価について、次のような提案をしてきた。
・二人の家のお抱え行商人として、貴族街への入場許可証を発行する。
・二人の家にある魔法書と錬金術書、故郷の村人用に絵本や勉強の本を見せる。
・旅費や食費を全て二人が出し、ダンジョンのドロップ品は全て僕の物。
入場許可証や費用やドロップ品はどうでも良かったが、書物が気になった。
伯爵家ともなると、いろいろな物がありそうだ。
これは二人には言ってないが、錬金術の《複製》の能力を使うつもりだ。
『魔法書は買う』という誓いを破るかもしれないが、これは立派な対価だ。
『ギリセーフ』という事にして欲しい。
それと、ドロップ品がいくらになるか分からないけど、現金は貰わない事にした。
まあ、美少女二人と旅をするなんて、ご褒美のようなものなんだけどね。
だけど、二人に何かあったら、責任の取りようが無い。
「本当に請け負って、大丈夫なのだろうか?」
そして期間なんだが、夏休みが七月の四週目から二ヶ月間という事で、初日から四十五日間拘束される事になった。
その日まであと四週間あり、借家の期限が切れてしまうので、延長する事になった。
◇
翌週の休日も二人に会った。
だが、二人の表情が芳しくない。
話しを聞くと、ダンジョンのお供の件、簡単に話しは進まなかったようだ。
「ニコル君、お願い。二人の両親に会って!」
「嫌ですよ。貴族と縁を持ちたくないんです」
「そこを何とかお願い!」
「ニコル君、私からもお願いします」
ユミナさんに、潤んだ目をしながらお祈りポーズで《お願い》されてしまった。
『破壊力抜群だ』
僕の拒否する気持ちを、打ち破ってしまった。
「ふー、分かりました。お会いします」
僕はそれを断れず、伯爵家である二人の両親に会う約束をしてしまった。
エミリさんは、僕がユミナさんのお願いで、すんなり了承した事に怪訝な顔をしていた。
「ニコル君。来週の休日昼過ぎに、貴族街の入り口で待ち合わせよ」
「はい。分かりました」
「あと、伯爵家のお抱え行商人として、相応しい商品を用意してね」
エミリさんは、面倒臭い要求をしてきた。
「お抱え行商人を、辞退します」
別に僕は、そんなものにはなりたくないので辞退した。
「持って来る事!」
うっ、怖い。
「分かりました」
僕は、渋々了承した。
◇
二人と別れて借家へ帰り、思わず愚痴が出てしまった。
「結局、無茶な話しだったんだ」
「伯爵家の令嬢が、見ず知らずの行商人とダンジョンへ行くなんて」
「しかも、変な対価を要求してると来たもんだ」
「あれは、全部エミリさんが決めたんだ」
「話しの流れで、本が見たいって事は言ったけど」
僕はこの展開を、あの時考えもしなかった。
「この展開を予想して、指摘できなかった僕も悪っかたのかな?」
「ご主人、大変だニャ」
シロンが愚痴る僕に、同情してくれた。
 




