第四十四話 エミリのお願い
エミリさんが、怪しい顔をしている。
「もう直ぐ、夏休みなんだよねー。ニコル君」
「そうなんですか。僕、学校に行って無いんで、気が付きませんでした」
いかにも怪しい前振りなので、警戒する。
「それでね、私達レベル上げしたいの」
言いたい事は、何となく分かった。
「僕にも生活があって、働かないといけないんです。それに、仕入れた物を村に持ち帰るという目的もあります」
予防線を張ってみた。
「まだ、肝心な事は言ってないんだけどなー」
「そこまで言えば、想像が付きます」
「じゃあ言うわね。私とユミナを、ダンジョンに連れて行って欲しいの!」
「やっぱりそう来たか。はっきり言って、貴族令嬢に相応しい人に頼んだ方がいいですよ」
「ニコル君程強い人なんて、いないのよ。何てったって、レベル158だもん。超便利な《転移魔法》も使えるしね」
「また、人のステータスをぶちまけて、マナー違反ですよ」
「そんなの見えちゃうんだから、しょうがないでしょ。それに、ユミナにもレベルの事は教えてあるからね」
「ご主人、レベル158ニャ。やっぱりチートニャ。ハーレム王ニャ!」
「また言ってる! この世界の貴族令嬢は、貴族の子息や豪商と結婚するんだ。僕はただの見習いの行商人なんだからな」
「ご主人は、ただの見習い行商人と違うニャ。《チートイケメン見習い行商人》ニャ」
「そうね。そこらへんの貴族よりお買い得よね」
「僕だって男ですよ。ずっと一緒にいたら、何があるか分からないでしょ」
「まあ、《魔眼》でニコル君がどういう人かは分かるけど、男と女だもの何があるか分からないわよね。ユミナ!」
「何でそこで私に振るの! そんな事、答えられないよ。私だってニコル君の事は『ゴニョゴニョ』と、思ってるけど」
「まあ肝心なところが聞こえなかったけど、私にはだいたい分かるわ。ニコル君、信用してるからダンジョンに連れて行ってよ」
「僕の仕事は、どうするんですか?」
「そうね。それなら私達で、ニコル君を雇うという事にしない? それ相応の対価を支払うわ」
「また、そんなー」
「あら、本気よ。近場のダンジョンへ行くだけでも馬車で一週間前後は掛かるし、それを一瞬で行けちゃうんですもの。こんな便利、いえ頼りになる護衛何ていないわ」
『ダンジョンに行った事は話していないはずだが、職業の《ダンジョン探索者》を見られたか』と、心の声。
「さっきは言いませんでしたけど、王都で稼いでるんでお金はそれほど欲しいとは思わないんですよね」
「あらそれは、私達の体が欲しいという事なの? 条件次第で、考えてもいいわよ」
エミリさんはそう言って、セクシーポーズをする。
『ごくん』と、思わず生唾を飲んでしまった。
『何て事を口走るんだこの娘は。本当にけしからん。本当だからね』と、心の声。
「そんな事、一言も言ってません。断る口実を言ったまでです」
「ご主人、やっぱりお金も持ってるニャ。これじゃ、《チートイケメン金持ち見習い行商人》ニャ」
「シロン、もういいって!」
「冗談はこれくらいにして、お金以外に欲しい物は無いの?」
少し考える。僕に手に入れられそうも無い物。
「・・・ある。王立図書館でめずらしい魔法書と錬金術書の閲覧と、魔道具屋の上級魔道書の購入許可です」
エミリさんは、眉をひそめる。
「難しい事を言うのね。王立図書館は、貴族街に住んでる人しか入れないのよ。特殊な物は、許可もいるわ。上級魔道書の購入も、王国魔術師が上級者になる為に、国に許可をもらって買えるくらいよ」
「げっ、僕にはどう転んでも、無理じゃないですか?」
「上級魔法だと、心無い人に渡ると街を滅ぼしかねないわ。魔道具屋に置いてあるのも、ダミーで中身は真っ白よ」
「そうだったんですか」
「それに、上級魔法を扱える程の技量と魔力の持ち主はなかなかいないわ。ニコル君なら、できそうだけど」
エミリさんは、そこで何かを思い出すかのように考え出す。
「あれ、そうすると最初に会った時に《上級の空間属性魔法》を使えるようだったけど、どこで覚えの?」
エミリさんは、聞かれたくない事を聞いてくる。
「何か、これを言ったらまずいような気がするんですけど」
「ここまできたら、言った方が楽よ」
「このままだと、いつまでも追求されそうだから言います」
僕は一瞬、ジト目でエミリさんを見据える。
「ちょっと引っ掛かる言い方だけど、素直でよろしい」
「僕のスキルに《検索ツール》があるんですけど、五歳の時にレベル10になって、上級魔法も含めて大抵の事は何でも調べられるようになったんです。それで、上級魔法を覚えました。でも、簡単に何でも覚えてしまっては《駄目人間》になりそうで、同じ五歳の時に『魔法は魔法書を買って勉強しよう』と、決めたんです。最近稼いで、やっと王都で買いました」
僕は、一気に理由をぶちまけた。
「買う必要も無いのに、魔法書を買うんだ。苦労人なのね」
「そういう訳でも無いです。何でも分かるのも、後の人生詰まらなくなるじゃないですか。その辺は、適当に線引きしてます」
「言われてみればそうね。喜びは、苦労の後の方が大きいもの。あれ、何だか話しがそれた気がする」
バレたか? 他の話しをして、ダンジョンから気をそらしたのだ。
お読みいただき、ありがとうございます。
《第二章》は、ここまでとします。
この作品は《読む専門》の私が、始めて書いた作品です。
《第二章》中の作者のお気に入りのエピソードが、読者様にどうウケるか気になって、悩んだ挙句投稿に踏み切りました。
正直《第三章》以降、期待に応えられるか心配ではあります。
一話ごとの話しが短いですけど、投稿ペースが落ちたらご勘弁ください。




