第四十話 乙女ゲーの眼鏡男子
昼飯時まで、まだ時間がある。
シロンの寝床を作った後は、午後にやろうと思っていた明日の露店の準備を始めた。
そうは言っても、準備は殆どできている。
取りあえず、最初に御釣りの確認をした。
「うん。これだけ有れば大丈夫だ。次は、子爵嫡男の対策だな」
ベッドの上に、カツラとメガネを数種類並べた。
これらは、今まで必要に駆られて、自分で作った物だ。
「どの組み合わせにするか」
しばらく考え、黒髪のカツラに黒縁の伊達眼鏡を選んだ。
「この国で黒髪は珍しいけど、僕は金髪だしガラッと印象は変わるだろう」
それらを身に付け、《亜空間収納》から取り出した姿見鏡で見ると、まあまあ別人に見える。
「子爵嫡男には一度しか会って無いから、これで充分だろう」
「後は何を売るかだな。さすがに同じ物を売れば、感づかれる可能性が高い」
いくつかある候補から、何を売るか考えていた。
すると、寝床で横になっていたシロンが話し掛けてきた。
「ご主人、何で変装してるニャ? 《乙女ゲー》に出てくる《眼鏡男子》みたいニャ」
「これか? これはな、貴族に絡まれて露店が出し辛くなったんだ。変装すれば、大丈夫だと思ってな」
「それはやっかいニャ。貴族は恐ろしいニャ」
「シロンも、何かあったのか?」
「貴族に捕まったニャ。太った叔父さんに撫でられるのは、身の毛がよだつニャ」
「それで、どうしたんだ」
「『逃げたい』と、祈ったニャ。そしたら、《壁抜け》ができるようになったニャ」
「へー、神様が願いを聞いてくれたのかな? それにしても、凄いスキルだ」
「神様か分からないけど、助かったニャ」
「良かったな。でなきゃ、今ここにいられなかったからな」
「まったくニャ。ご主人に拾われて良かったニャ」
「ところで、露店で何を売るか迷ってるんだけど、何かいい案は無いか?」
僕の中では、一般向けの食器を売ろうと思っていたが、シロンの意見を聞いてみた。
「ジャンクフードがいいニャ」
「ジャンクフードか? うーん。でも、儲けは少なそうだな」
「シロンが食べたいニャ」
「俺を利用してるだけなのか?」
「ノーコメントニャ」
「イエスと返事してるようなものだな」
「しまったニャ」
「そう言えば、《亜空間収納》にまだたくさん作り置きがあるんだよな。トルネードポテト」
「食べたいニャ」
「じゃあ、昼ごはんに食べさせてやるよ」
「嬉しいニャ」
少し遅い昼食は、《亜空間収納》の中で作ったミノタウロスのロース肉を使った特製ハンバーガーとトルネードポテトにした。
シロンは『懐かしい』と言いながら、満足そうに食べていた。




