第三十七話 なんか怪しい
今日は、昼近くまで寝ていた。
「良く寝たなー」
そんな事を呟きながら、起き上がった。
いろんな事があって、疲れているのかもしれない。
朝食は昼食と兼用でいいやと、常連になりつつある食事処に足を運んだ。
店に入り、牛肉百パーセントのハンバーグ定食を注文する。
「勇也さんありがとう。あなたのおかげで、美味しい日本の食事を味わえます」
勇也さんに感謝し、運ばれて来た定食を、美味しくいただいた。
◇
午後は、子爵嫡男に見つからないように、どこに露店をだそうか考えながら王都を散策した。
ダニエル商会に商品を卸しているのだが、王都まで来て遊んでる訳にいかない。
良さそうな場所を何箇所か当たりを付け、商業ギルドで予約状況を聞いてみた。
「この場所、二日後に空いてるんですか? ならお願いします」
運良く一箇所だけ空いてたので、一日五千マネーの場所を借り、引き換えのチケット受け取った。
露店を開く場所は、最長で連続一年間借りる事ができた。
その他は、半年・三ヶ月・一ヶ月・一週間、以下は一日から五日まで何日でも借りる事ができた。
長期で借りると、割安になるらしい。
僕のように飛込みだと、いい場所はなかなか借りられないという訳だ。
商業ギルドを後にし歩いていると、一匹の毛の長い《白猫》を見かけた。
目は青と黄色のオッドアイだ。
なんとなく、僕を見ているような気がする。
僕は前世から猫好きだったので、思わずかまいたくなった。
「ほら、こっちにおいで」
すると、僕の言葉が通じたのか、すごい勢いでやって来た。
モフモフとした毛をなでてやると、白猫はすごく気持ち良さそうにする。
「こいつ人馴れしてるな。飼い猫かな?」
首輪はしてなかった。
周りを見渡しても、飼い主らしき人はいない。だとしても、野良猫と決め付ける事はできない。
「一人だと寂しいし、猫を飼うのもいいかもな?」
僕は思わず、そう呟く。
「ニャー」
「んっ、お前を飼えって言ってるのか? でもお前、誰かに飼われてるんじゃないのか?」
言葉が通じる訳無いのに、人と話すように話し掛けた。
「ニャー、ニャー」
「あれっ、こいつ首を横に振った。僕の言葉を理解してるのか?」
「ニャー」
「おっ、今度は首を縦に振った」
なんか怪しい。ここまで人の言葉を理解するのは普通ではない。
「お前本当に猫か?」
「ニャー」
「また、首を縦に振った。これはもう偶然じゃないよな」
「ニャー、ニャー、ニャー」
白猫は、一生懸命何かを訴えているようだ。
「何て言ってるか、分からないよ」
当たり前の事なのに、そんな事を口走ってしまった。
「私を飼ってよ!」
「あっ、ついに喋った。しかも日本語!」
「やっぱり、あなたも元日本人なのね。露店で売ってる物を見て、そうじゃないかと思ったんだ。日本食の店にもよく行ってたしね」
『僕の商品に、そんな事が分かる要素なんてあったか? 確かにカタログを真似たけど』と、考える。
「たしかに僕は元日本人だけど、君を飼うのはなー」
「何か問題があるの?」
「容姿は可愛いんだけど、喋る猫はどうもね」
「お願いニャー」
「今更語尾を猫っぽくしても、微妙だな」
「そんニャー」
『元日本人。しかも猫だ。突き放す事もできたが、貴族のお嬢様達に比べて、厄介事にはならないだろう』と、考える。
「分かったよ。とりあえず借家へ行こうか」
「やったニャー」
こうして僕は、元日本人の猫を飼う事になった。どうせ飼うなら、普通の猫が良かったんだけどね。
キーワードに上げた《猫》が、やっと登場しました。




