第三十四話 美少女の告白
歩いてすぐ着いた場所は、以前、勇也さんと来た喫茶店だった。
具合の悪いユミナさんの為に、個室に入った。
「ユミナ大丈夫?」
「ええ、もう大丈夫。ごめんね、迷惑掛けちゃって」
「そんな事、気にしないでいいのよ。せっかく喫茶店に来たんだから、御茶にしましょ」
そう言ってエミリさんは、紅茶とケーキのセットを三人分頼んだ。
「ニコル君は、行商人なのよね。出身はどこなの?」
「えーと、《エシャット村》の出身です。実家は農家です」
「エシャット村? 聞いた事ないわね。どの変にあるの」
「王都から見て南の《リートガルド伯爵領》にあります。寄り道しながらですけど、歩いて二ヶ月掛けて来ました」
「えー、そんなに遠くから来たの。凄いわね。王都での仕事は上手くいってるの? 露店を出し辛くなったのでしょう」
「それは大丈夫です。商品を卸してるんで、露店を出さなくてもじゅうぶん稼いでます」
「そうなの。それは良かったわね」
「ええ、運が良かったんです」
「それで、どこの店に卸してるのかしら?」
「商業ギルドに、《ダニエル商会さん》を紹介されて、お付き合いしてます」
「へー、ダニエル商会と言えば、最近めずらしい商品があって話題になってるわね。うちにも綺麗なグラスがあるわ」
最後、エミリさんが『にやり』とした。
「そうですか」
何か意味有りげだが、そう答えるしか無かった。『僕が卸してるんです』なんて言えない。
そんな話しをしていると、紅茶とケーキが運ばれてきた。
「ここの紅茶もケーキも美味しいのよ。食べてみて」
「はい。いただきます」
美味しい。ここも通いたくなるくらいだ。
食事処同様、勇也さんが一口噛んでると僕は思っている。
そして、それらを食しながら、また話し始めた。
「ユミナも何か話しなさいよ。まだ気分悪いの?」
「そんな事言ったって、何話していいか分かんないよ」
「ほんと、ユミナは男性慣れしないわね。露店で買い物する時は、話しできてたじゃない。何でもいいのよ。『彼女はいるのか』とか、『好きなタイプ』とか、聞いてみなさいよ」
「そんなー」
ユミナさんは、また顔を赤くした。
「あのー、僕は貴族の事はよく知らないんですけど、行商人の異性とお茶してて問題無いんですか?」
「そうね。私は気にしないけど、貴族社会では平民の異性とお茶をするなんて滅多にないわね。学園では別だけど」
「やっぱり、そうですよね」
そこでエミリさんの顔付きが変わり、真剣に話し始めた。
「実はね、最初にあなたに興味を持ったのはユミナなんだけど、私もあなたに興味があるの。《日本人の転生者》のあなたにね」
「えっ、何でそれを・・・」
僕はあたふたして、言葉につまった。
「私には《魔眼》スキルがあって、そういう事も分かっちゃうの。そして、私達も《日本人の転生者》よ」
「えっ、えー! そうなんですか。驚いた!」
何だ、このいきなりな展開。
僕の他にも、転生者がいるなんて思ってもみなかった。
勇者が召還されてるくらいだから、転生者がいてもおかしくはないけど。
「そう、だからあなたのステータスも見せてもらったわ」
「他人にステータスを見られるのも、気分のいいものじゃありませんね」
見られてるのに、全然気が付かなかった。勇也さんの鑑定より、隠密性があるみたいだ。
「うふふ。ごめんね」
「そういえば、勇者には会いましたか? 召還された日本人なんですけど」
「いいえ。話しは聞いてるけど、会った事は無いわ」
「ここだけの話しですが、勇者はこの国を脱出しました」
「そうなの。でも何でかしら?」
「宰相様が、約束していた武器の購入もパーティーの月々の活動費も反故にしたらしいです」
「へー、そうなんだ。でも、魔王はこの大陸のどの場所に現れるか分からないそうよ」
「えっ、それって本当なんですか? そうだとしたら、勇者は万が一の保険? よその国は、どうしてるんだ? もしかして、大陸で勇者を共有してるのか?」
僕は興奮して、少し言葉を荒げてしまった。
「よその国でも、勇者召還をしているらしいわ。はっきり言って誘拐と同じだわ。酷い話しよね」
「そうだったんですか。だから勇者の扱いが雑なんですかね。もし他国の勇者が魔王を討伐したら、報酬は貰えないのかな? あれ、元の世界に帰る条件が魔王討伐なのに、勇者が何人もいたらどうなるだ?」
「その辺は、よく分からないわね。ところでユミナ。全然話さないのね」
「二人の会話に入って行けなかったの・・・だけど、一つ質問があります」
「何ですか、ユミナさん」
「ニコルさんは、行商人なのですよね。王都には一ヶ月だけの滞在のようですけど、その後はどうするんですか?」
ユミナさんは、心配そうに言う。
「お金が貯まったら、村の為にいろんな物をいろんな街や村で買い付けして帰るつもりです」
「そうですか」
ユミナさんは、声のトーンを落として言った。
「ですが、ダニエル商会さんとはお付き合いを続けるので、定期的に王都へ来ます」
「本当ですか! 良かった!」
ユミナさんは、手と手を握ってお祈りポーズになり、声のトーンを上げて言った。
「まあまあ、ユミナ。同じ転生者なんだし、また会えるわよ。ねー、ニコル君」
何かエミリさんが、怪しい顔をしている。何て答えよう。
「ええ、そうですね」
「私達は王立学園の魔法科に通ってるから、丸一日自由になるのは休日しか無いのよね。ニコル君、毎週休日のお昼にここに来てくれる?」
「えっ、毎週ですか? もう少し間隔を開けた方がいいんじゃないですか?」
「何言ってるの? もう、一ヶ月もいないんでしょ。こんな美少女二人に会えるのよ。喜びなさい」
「でも仕事もあるし、そんなに時間を取れないですよ」
「露店が出せなくなったって、言ってたじゃない」
エミリさんは、頬を膨らませる。
「変装でもしようかと。休日は稼ぎ時ですし」
「来ないって言うの? とりあえず、来週は来る事。絶対よ!」
うっ、怖い。
「分かりました。努力します」
「ユミナ。これでどうかな?」
「もう、エミリったら。私に振らないでよ!」
こうして来週も、美少女二人と会う約束をしてしまった。
サブタイトルの《告白》は、《日本人の転生者》という事についてでした。




