第三十三話 原因が、ここにいたよ!
短いです。
「あー、やっと見付けたー!」
その叫びに対して、心の中で往年のギャグを呟いた後、それが自分に向けられたものかも分からず、反射的に声のする方を向いた。
「ニコル君、覚えてる? 二週間前に、露店で話し掛けたんだけど」
その叫びは、僕に対するものだった。
そして、確かに見覚えがある。かわいい二人組みだ。でも、名前何だっけ?
「ああ、最初に名前を聞かれた、えーと」
「もう一度言うわね。私はエミリで彼女はユミナ。ちゃんと覚えてね」
相手は、僕が名前を忘れたのを察してくれた。
《鑑定》すれば分かったが、こんな事では使わない。《プライバシーの侵害》だからね。
「はい。エミリさんとユミナさんですね」
「そう、それでいいわ。ところで、露店は開いてないの? あなたがいると思って来たのよ!」
「ええ、まあ。あの後、子爵の嫡男と言う人に濡れ衣を被せられて、捕まるところを逃げたんです」
「えっ、そうだったんだ。大変だったんだね。でも、何でそんな事になったの?」
「僕もよく分からないんですけど、『伯爵令嬢をたぶらかした』と、言われました。あの日のお客さんに、御令嬢がいたのかもしれないですね」
エミリさんとユミナさんが、顔を見合わせる。
そして、エミリさんが告白する。
「伯爵令嬢? 私とユミナも伯爵令嬢よ!」
「えーっ!」
『原因が、ここにいたよ!』と、言いそうになってしまった。
よく考えると、彼女達に罪は無い。
「私達というより、ユミナが原因の可能性が高いわね。ユミナもてもてなのに、貴族の男性が苦手で社交会の誘いを断ってるもんね」
「そうですか。《可愛い》から執着するのも分かりますけどね」
「かっ、かっ、可愛いだなんて!」
ユミナさんは、真っ赤になった顔を両手で隠し、少しふらつき始めた。
「ユミナ、大丈夫? 倒れちゃだめよ。しっかりしなさい!」
エミリさんが、ユミナさんを抱きかかえた。
「大丈夫ですか?」
「なんか駄目みたい。喫茶店に入って休みましょう」
「僕もですか?」
「そうよ。ニコル君も来るのよ。あなたのせいで、こうなったんだから」
『えっ、僕が悪いの?』と、言い返しそうになったが、『無闇に女性を誉めるもんじゃないな』と、反省した。
「分かりました。僕も行きます・・・」
すべてが納得いった分けでは無いので、尻つぼみな返事になってしまった。
そして、エミリさんに連行され喫茶店へ向かった。




