第三十話 二本の魔剣
いつもより長めです。
昨日、地下十六階を踏破した。
魔物がこの階から本格的に強くなり、途中で断念して引き返すパーティーを見かけた。
どの階でもそうだが、戦闘でピンチのパーティーを助けると、決まって仲間に誘われる。
特に女性がいると、僕の腕に腕を絡ませたり、目を潤ませお願いされたりする。
『いやいや、そんな事をしても無駄なんだからね』と、思いつつも揺らいだ事もあった。
ご覧の通り今は一人だから、そんな誘惑には負けなかったんだけどね。
今日も朝一、王都の借家から転移して地下十七階へ進む。
ダンジョンの最下層は地下二十階だと、講習会で聞いた。
あと、四階層。《ラスボス》を倒して終わりにする。予定である。
しばらく進むと、十頭のスノーウルフが僕を迎えた。
体長は一.七から二.五メートルくらいだろう。一番大きいのがボスのようだ。
『スノーウルフの動きは早く、連携をとって攻撃してくる』と、《鑑定先生》が教えてくれる。
五匹くらいだったら問題無いと思うが、安全の為に《身体強化》スキルをこのダンジョンで初めて使った。
僕はスノーウルフのスピードを軽く凌駕し、連携をとらせる暇も無く十頭の首を一刀両断にした。
「ふー、久しぶりに《身体強化》スキルを使ったけど、これも相当チートだよね。《スーパーサ○ヤ人》になった気分だ」
《身体強化》スキルは強力なほど体への反動があるけど、今回はレベル1の能力しか使っていない。
このくらいはすでに慣れていて、全然反動が無かった。
次は八匹のスノーウルフだった。《身体強化》はすでに解いている。
今度は《防御属性魔法》の《盾》を、前後左右に四枚出してみた。
スノーウルフが襲い掛かってくるところに、盾をすかさず移動し攻撃を阻む。
「ゲーム感覚で、なかなか面白いな」
突進してくるスノーウルフの動きに合わせ、盾を勢い良く突き出した。
「おー、カウンターが決まった。致命傷にはならないけど、意識を飛ばすくらいはできるな」
盾の動きに勢いをつける事によって、武器としても扱えた。
「これが、シールドバッシュってやつかな?」
盾でしばらく遊んでいると、違う集団が近付いて来る気配を感じた。
「うん、これくらい慣れたら大丈夫かな」
僕は剣を構えて、弱ったスノーウルフを素早く倒した。そして、後続のスノーウルフを迎え撃った。
後続のスノーウルフも同様に倒し、大量に転がるドロップ品の魔石と毛皮と牙を拾った。
毛皮は白銀色で美しく、肌触りが実に良かった。
「うー、このもふもふ感たまらない。スノーウルフを飼いならして、実物をもふもふしたい」
それからも危なげなく連戦し、途中で《宝箱》を見つけた。このダンジョンで二個目だ。
鑑定をし、問題が無い事を確認する。
「この階層での宝箱は、期待しちゃうぞ。いいお宝、お願いします」
祈りながら蓋を開けると、中身は《剣》だった。
鑑定すると、名前は《牙狼剣》と言い、《氷属性》を持った《魔剣》だった。
「おー、やったー。異世界初の魔剣を手にいれた」
そして、こんな事を思った。
「そう言えば、勇也さん魔剣欲しがってたな。ダンジョンで見つかるんだから、国が《勇者》に渡さなかったのって、実に怪しい」
剣を鞘から抜くと、大量に魔力が奪われた。
とは言っても1000MPほどだから、僕からするとそれ程でもないけどね。
僕が無造作に剣を振ると、剣の軌道上の壁と床が氷ついた。
「なっ、ちょっと振っただけでこれか。威力有り過ぎだ。それに床がこれじゃ、歩きづらい。ちゃんと制御できてから使わないと、大変な事になるな」
使いたいのを我慢して《亜空間収納》にしまい、先に進んだ。
そして、地下十八階へ続く階段にたどり着いた。
◇
地下十八階は、ブルドボアで体長三.五メートル程の猪の魔物だった。
三頭並んで、肉壁かと思う勢いで突進してくる。
力も防御力も明らかにウォーベアーより強かったが、頭はよくないようである。
錬金術で硬くした厚い岩壁を、突進してくるブルドボアの前に作ると、止まらずに突っ込んでくる。
それで勢いと自分の体重に耐えれず、脳震とうを起こす。
あとは、一頭ずつ首を切るだけの作業だった。
「錬金術を覚えたての五歳の時、畑で父さんとジーク兄ちゃんを助けた事を思い出すなー」
ブルドボアは大きな魔石の他、三十キログラム位ある肉と皮をドロップした。
肉を鑑定すると、《ブルドボアの上質ロース肉》と出てきた。
「上質と言う事は、うまいのか? なら、もっと欲しいな」
この世界では、庶民は上質な肉なんて食べられない。
僕の村では、普通の肉を今でも頻繁に食べられないんだけどね。
少しでもドロップ率を上げる為、昔使っていた《運》を上げるネックレスを久しぶりに使った。
それからは検索してちょっと離れたところへも赴き、次々と狩っていった。
ここでは、上質肉とセットで上質な皮か立派な牙がドロップされる事が多かった。
肉は《上質ヒレ肉》や《上質肩ロース肉》なんかもあった。
まとまった数が集まって、大満足である。
「もう時間も遅い事だし、借家へ帰るかな」
僕は借家へ転移した。
◇
翌朝、地下十九階へ行くと、出迎えたのはミノタウロスだった。
三メートルの巨躯が、巨大な斧を振り回してくる。
動きはそれほど早くないが、力が強く防御力が高い。そして体力もある。
《身体強化》したが、一刀では両断できなかった。
「こいつ、骨が異様に堅いな」
他のミノタウロスが集まってきたので、剣の魔力を一段階上げ切り付けた。
今度は何とか、斧を持つ右腕を両断できた。
その勢いで腹を切り裂き、腕の無い方へ回り込み右足も両断した。
そして、片膝をついたミノタウロスの首を切り落とす。
ここでも上質の肉をドロップし、手に持っていた斧もそのまま残った。
「首から下が人のようにも見えたが、食べて大丈夫なんだろうか?」
凄く抵抗はあるが、《鑑定先生》がそう言うんだから、持ち帰らないと言う事は無い。
肉を五十個手に入れるまでこの階で戦った。その他にも、皮や角も手に入った。
斧は毎回残った。鑑定すると、《魔鋼》でできている。
僕が今使っている剣と同じ材質で、それなりにいい物だ。
このサイズでは使えないので、素材として作り直すしかないだろう。
そして、この階でも《宝箱》を一個見つけた。
中身は《魔剣》で《炎属性》を持っている。
名前は《牛頭鬼剣》といい、《牙狼剣》以上の性能の剣だった。
こちらも剣を鞘から抜くと、大量の魔力を奪われた。1500MPほどだったが。
剣を振り下ろすと、炎が走り出す。
炎はイメージで範囲や強さが変わり、単体でも複数の敵でも対応できそうだった。
こちらも壁や床が焦げ付くので、《亜空間収納》にしまった。
そして、いよいよ最下層。地下二十階に訪れた。
 




