第二十九話 初ダンジョン
「今日は人生初のダンジョンだ。興奮する」
通称《ダン防》を奥に進み、ダンジョンの入口で入場許可証見せ、五千マネーを支払いゲートをくぐった。
施設の運営や兵士を配備するのに、入場料を取られる。
「ダンジョン探索者になるまで、いろいろとお金が掛かるのに、蓄えの無い人は大変だろうな」
窓の無いトンネル状になった一階の通路を、真っ直ぐ進む。
途中に何箇所か封鎖用の鉄扉があった。魔物のスタンピードを押さえ込む為のものだ。
「この扉を閉めちゃうと、中の人も出れないよね。何だか複雑な気分だ」
まわりを見渡すと、僕のようなソロはいない。ほとんどパーティーを組んでいる。
突き当たりに、地下へと続く階段があった。
みんな普通に降りて行く。僕はそれに続く。
取り合えず《検索ツール》の《地図》機能で、魔物と人と罠と宝箱と魔結晶石を検索しながら歩く。
上層の階では、罠や宝箱は無かった。
そして、先行している人達に次の階段までの通り道の魔物を倒され、僕が遭遇する事は無かった。
それでも、小粒の魔結晶をいくつか見つけた。
「いくらで売れるか分からないけど、入場料分になったらいいな」
◇
ダンジョンの探索を始めて、すでに《六日目》の午後を迎え《地下十六階》にいる。
五階ごとに中ボスもいたが、順番待ちしているパーティーが結構並んでいた。
ドロップ品がいいらしい。
しかし、中ボスを討伐しなくても下層へ行ける仕組みだったので素通りした。
「中ボスのドロップ品は気になるけど、並んで無駄に時間を使うのはなー」
途中から、鉄の剣を鋼の剣に持ち替えている。
ダンジョンの中に入ったら、成り立ての探索者だと分からないだろうからね。
そして、ここまで何の苦も無く、剣の一刀で魔物を倒す事ができた。
魔物は恐ろしいものだと思っていたが、どうやら成長した僕には赤子の手を捻るようなものだった。
地球で《野生の虎》が目の前にいたら、ビビリまくるだろうにね。
「正直、張り合いが無いな。試験官のアレンさんの強さで、あんな事言われたから心配してたんだ」
地下五階で、宝箱を一つだけ見つけた。
今思えば、初級者向けのボーナスだったのかもしれない。
隠し部屋にあったので期待したが、ミスリルのインゴット十キログラムだけだった。
自分で作れるのでがっかりしたが、ちゃんと持ち帰った。
出処がはっきりしてるから、武器屋の店主も買い取ってくれるはずだ。
「そう言えば、神様が言ってた『魔物を倒しても《経験値》が入らない』ってのも、本当だったな。このダンジョン、どこまで進もうか?」
そんな事も考えたが、錬金術の材料になる魔石や素材をドロップしてくれるので、ラスボスを踏破するまで継続する事にした。
そうそう、一匹目の魔物を倒した時、ステータスの《職業》に《見習いダンジョン探索者》が追加された。
相変わらず本業は、《大魔導錬金術師》のままだけどね。
そして今は、ウォーベアと対峙している。
体長二.五メートル程の熊の魔物だ。立ったら三メートルを越えるだろう。
「このダンジョンは、中ボスの次の階は二段階位強さが上がってるみたいだ」
「確か勇也さん達のパーティーは、この階で断念したんだよな。どれ、強さを確かめてやる」
『国が武器や防具を買い替える資金を出していれば、まだ勇者パーティーは続いていただろうに』と言う思いが、頭を過ぎった。
僕は一睨みし、ウォーベアの動きを止めた。この時スキルに《威圧(Lv1)》が追加された。
ウォーベアは咆哮をあげ、僕の威圧から解放されると、四足歩行で突進して来た。
僕はそれをかわすと、ウォーベアは立ち上がり振り向きざま前足を力強く振り下ろしてきた。
僕は強さを確認する為、あえて剣で受けてみる。
『ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ』と音がし、爪と剣が交錯する。
一歩踏み込みウォーベアの腕を剣で受けるが、傷付く様子は無い。
距離を取る為、ウォーベアを横蹴りで飛ばす。
「ふむふむ、なかなかの力だ。それに爪も皮もこの剣に耐えられるほど硬い。勇也さん達が、新しい武器が必要なのも頷ける」
僕は剣を替える事にした。武器屋で買って修復した魔鋼製の剣だ。
「これなら、少し本気を出しても折れる事は無いだろう」
剣に魔力を通す。
「ふむ、少し魔力を通すだけでこの性能か。いい剣だ」
この剣は魔力を通す量が多いほど、攻撃力が増加する。
たじろいでいるウォーベアに近付くと、手を振り上げ僕に向かって振り下ろしてくる。
僕はそれに、魔鋼の剣を合わせる。
『グモーーーーー!』
ウォーベアの腕は、豆腐を切るような手ごたえで切断された。
「済まんな」と、呟きつつ首を一刀した。
ドロップした魔石と毛皮を《亜空間収納》にしまい、先に進む。
後半、『ウォーベア』と連呼しすぎてしまいました。




