第二十五話 ソフィア、二コルの家族に会いに行く②
『お腹空いたなー』と思いながら、仕事中のレコルはふとフードコートに目をやった。
「あーっ、ママとエミリアがジュース飲んでるー!」
レコルはフードコートにいるミーリアとエミリアに気付き、叫んだ。
「レコル、お仕事頑張ってる?」
「頑張ってるよっ! サーシア、ちょっとジュース飲ませて!」
「やー!」
「ケチー! おねーちゃん、僕にもジュース!」
「休憩時間まで待ちなさいっ!」
「なら僕、今からお昼休憩にして良いよね。ジークおじさん?!」
レコルと仕事をしていたニコルの兄ジークは、レコルとフードコートを交互に見る。
「後は俺一人でできるし、ミーリアとエミリアが来てるんだ。少し早いが良いぞ」
「やったー! おねーちゃん、ジュース。あと、ミートソースパスタも作って!」
「もう、ジークおじさんってばレコルに甘いんだからっ!」
「そう言うな。レコルだって頑張ってるじゃないか」
「まだまだ半人前よ」
「レコルは十二歳の子供なんだ。少しは大目に見てあげても良いだろう。みんながサーシアみたいに何でも直ぐできるわけじゃないんだ」
『チラッ!』
『コクコクッ!』
サーシアが視線を向けると、レコルは黙って頷いた。
「わーかーりーまーしーたー!」
サーシアは不服そうに返事しながら、オレンジジュースの入った容器を冷蔵庫から取り出した。
『トクトクトクッ!』
「はい、オレンジジュース!」
「ありがとう、おねーちゃん!」
レコルはすかさずフードコートのカウンターに行き、オレンジジュースの入ったコップを受け取り口に運んだ。
『ゴクゴクゴクッ!』
「ぷはー、美味しー!」
その飲みっぷりは、先程のエミリアとそっくりである。
「うふふっ、賑やかで楽しい御家族だこと」
ソフィア婦人は、この光景に思わず笑みがこぼれた。
『チラッ!』
その聞き覚えの無い声に、レコルは反応した。
「おばさん、誰だっけ?」
「おばさん?!」
「レコルッ! ソフィア様に失礼でしょっ! ソフィア様はバロン様のおばあ様よっ!」
レコルが覚えていないのも無理はない。
ソフィア婦人が最後にエシャット村を訪れたのは、レコルがまだ九歳の頃である。
「バロン君のおばあちゃん? ママの三つ位上だよね?」
「えっ、うそ、ヤだ。私がミーリアさんのたった三つ上だなんて。そんなに若く見えるかしら?!」
「見えるよ」
「嬉しい、ありがとう!」
若々しいミーリアと近い年齢に見られ、ソフィア婦人はすっかり上機嫌になっていた。
「ところで、バロン君元気?!」
「ええ、元気よ。今は剣術や魔法、それに《王族》としての教養を学んでるわ」
「大変そうだね」
「そうね。でもサーシアちゃんに負けない様、一生懸命頑張ってるわよ」
「何でおねーちゃんなの?」
「ナーイーショ!」
「???」
「ところで、レコル君のパパは?」
「パパ? パパなら仕事で旅に出てる」
「そう・・・・・・」
『やっぱり居ないのね。悪いけど、今の内に外堀を埋めさせてもらうわ。でもどうやって皆さんを説得すれば・・・・・・』
ソフィア婦人は良案の浮かばぬまま、エシャット村に到着していた。
「ねえ、黙ったままどうしたの。パパに何か用?」
「ううん、居ないなら良いの。レコル君や家族の皆さんが居れば。そうだ、お店のお勧め商品があったら教えてね」
「良いよ。でも、お勧めかー。ソフィア様って、貴族なんでしょ。そんな人に見合う物・・・・・・?」
店員としての務めを果たそうと、レコルはお勧め商品を考えた。
「レコル君、ごめんなさい。どうやら困らせてしまった様ね」
「考えてるから、もうちょっと待って!」
「ええ、分かったわ」
ソフィア婦人が謝るも、レコルは諦めず考え続けた。
「あのー、ソフィア様。こちらなど如何でしょうか?」
レコルへの助け船とばかりに、ミーリアはソフィア婦人に手の甲を見せた。
「まあ、何て綺麗な爪なの。艶と良い淡いオレンジ色と良い、とても素敵!」
「これは《マニュキュア》という商品で、この村だけでしか売られてないそうです」
「そう、製作者はニコル君ね。今度フロリダ街のお店でも販売してもらわなきゃ。今日は本当に来た甲斐があったわ!」
レコルはその様子を、じっと見ていた。
「爪かー。ソフィア様、ちょっと待ってて!」
レコルはフードコートを飛び出して行った。
◇
「ソフィア様! お勧め商品持って来たよ!」
「これは?」
「《爪切り》!」
レコルが持って来たのは、現代日本でも使われている普通の爪切りだった。
「これで爪を切るの? 初めて見るわ」
「ナイフで爪を切ると怪我をするからって、パパが作ったんだ。これをこうやってここをこう持って、この刃の部分に爪を合わせ親指を押すんだ!」
「成る程、ニコル君が・・・・・・。ナイフと違って複雑な構造をしてるけれど、これを使えば安全に爪を切れるのね」
「気に入った?」
「ええ、気に入ったわ。取り敢えず十個いただくわ」
「十個も?」
「家族やお友達にプレゼントするのよ」
「そうなんだ、まいどあり! やった、十個も売れた!」
自分が役に立った事に、レコルは喜びの声を上げた。
◇
「ママ、注文の料理できたよー!」
「はーい。レコルも運ぶの手伝って」
「うん」
フードコートは、基本セルフサービスである。
「ソフィア様、どうぞ。ボロネーゼパスタとサラダとお水です」
「まあ、良い香り。それにとても美味しそうだわ!」
「ほら、エミリア。ミートソースパスタだぞ」
「わーい!」
ソフィア婦人とエミリアは、目の前の料理に目を輝かせた。
「さあ、皆さん。いただきましょう」
「「「いただきまーす!」」」
「どんなお味かしら?」
食事の挨拶を済ませ、ソフィア婦人はワクワクしながらボロネーゼパスタを口に運んだ。
「美味しい!! 酷があって、ミートソースパスタとも違った深い味わいがあるわ!」
「気に入っていただけた様ですね。ソースは赤ワインと牛乳で煮込んで、酷を出してますの。私も家で時々作るんですよ」
とミーリアが説明する。
『ピキーン!!! 閃きましたわ!』
その時、ソフィア婦人に良案が浮かんだ。
「このお料理、私の屋敷でもいただきたいわ。《ボール焼き》の時みたいに!」
「それでは、後でレシピをお書きしましょうか?」
「ええ、それは有難いのだけど、うちの料理人に直接指導していただけないかしら? ボール焼きの時はニコル君とサーシアちゃんだけだったけど、今度は御家族全員でいらして!」
「家族全員ですか? 主人に聞いてみないと。それに主人は暫く帰って来ないので」
「ああ、そうね。それならニコル君抜きでも構わないわ。送り迎えもしますし!」
「そう言われましてもー・・・・・・」
ミーリアは、突然の申し出に困ってしまった。
「王都でしょ。僕、行きたい!」
「エミリアも行くー!」
「ほら、お子さん達もこう言ってる事ですし」
「でもー・・・・・・」
この後ソフィア婦人は、子供達を見方に付けミーリアを説得した。




