第二十四話 ソフィア、二コルの家族に会いに行く①
その日の夕方、いつもの様に《亜空間ゲート》を通って家族がやって来た。
「パパー、今日ドアに鍵が掛かってて、ずっとこっちにこれなかったよー。何してたのー?」
「えっ、あっ、うん、えーと、そうそう、悪い人を懲らしめてたんだ。エミリアが怪我しないよう、鍵を閉めたんだ」
「そうなんだー。パパ、偉いねー!」
「うん」
ソフィア婦人との事があり、言葉に詰まってしまった。
自分が悪い訳でもないのに・・・。
「パパ、悪人退治なら手伝うって言ったじゃん。何で僕を呼ばなかったんだよー!」
「レコルはスーパーで仕事だったろ。今はそっちで一人前になる方が先だ」
「パパの意見にサンセー!」
「何だよ、おねーちゃんまで!」
「だってレコルってば、お店で失敗ばかりじゃない。そんなんじゃ、パパの後は継げないよ!」
「ぐぬぬっ!」
レコルは僕の仕事を継ぐ為、スーパーで商人の見習いをしている。
「ところで、パパ。何か隠してない? 少し変だよ」
『ドキッ!』
「そっ、そんな事ないぞー!」
「そうかなー? ママはどう思う?」
「さあ、どうかしら。でもパパが話したくないなら、無理に聞く必要はないかな」
「って言う事は、やっぱり隠してるんだ!」
『ジーーーッ!』
『プイッ!』
僕は返す言葉が浮かばず、サーシアの視線にそっぽを向いた。
「ふふふっ。サーシア、パパが困ってるわ。追及はそのへんにしておきなさい」
「はーい、ママ!」
サーシアの追求は、結局ミーリアに助けられた。
良くできた嫁である。
この後テントを張り、みんなで夕食のテーブルを囲んだ。
◇
二日後
ソフィア婦人は王都から《亜空間ゲート》を利用し、フロリダ街経由でエシャット村に向かっていた。
「マイク君には一人で行くと言ったけど、やっぱり不安だわ」
昨日一日考え、王族の一員となりそして未亡人になってしまったユミナが、平民のしかも妻子持ちのニコルに嫁ぐ事の異常さを感じていた。
ニコルの家族を説得できる良案など、一日やそこらで浮かぶ筈もなかった。
(※ニコル本人を説得する自信はあった)
しかし出立の準備を整えると、『私の熱い想いが冷めぬ内、先ずは行動よ。でなきゃ、何も変えられないわ!』と言って屋敷を飛び出してしまった。
「でもユミナちゃんの幸せ為、私が頑張らないと!」
エシャット村へ向かう馬車の中、あれやこれやと思考を巡らせた。
◇
エシャット村の入口に到着すると、門番がソフィア婦人の事を覚えており、すんなりと村に入る事ができた。
「奥様。スーパーの前に到着致しました」
御者は馬車を降り、扉を開け告げた。
「わっ、分かりました」
ソフィア婦人は普段緊張する性分ではないのだが、この時ばかりは緊張していた。
「時間が掛かると思うから、あなたは自由にしてていいわ」
「分かりました。気を付けて行ってらっしゃいませ」
御者は深々と頭を下げ、ソフィア婦人を見送った。
「さて、先ずはスーパーへ行って」
ソフィア婦人はミーリアに合う前に、心を落ち着かせる為スーパーで一息つく事にした。
「ソフィア様?」
「?」
ソフィア婦人は、声がする方へ振り向いた。
「ミッ、ミッ、ミッ、ミッ、ミーリアさん?!!」
いきなりの対面に、驚きの声を上げた。
「もっ、申し訳ありません。驚かせてしまって!」
「いっ、いえ。良いのよ。気にしないで!」
「はい、ありがとうございます。ところで、今日はお買い物ですか?」
「そっ、そうなの。こちらの方がフロリダ街のお店より品数が豊富でしょ。だからたまにはね。おほほほっ!」
「ママ、お腹空いたー」
「エミリア、もう少し待って。今、ソフィア様とお話ししてるの」
「はーい」
「ソフィア様。私達これからフードコートで昼食にするのですが、良かったらご一緒に如何ですか?」
「そう言えば、私もお腹が空きました。ぜっ、是非、お願いします!」
「はっ、はい。では、どうぞこちらへ」
ソフィア婦人は緊張感を漂わせ、スーパーへと入っていった。
◇
「サーシア、ご飯を食べに来たわ」
「おねーちゃん、ミートソースパスタ作ってー!」
「ママ、エミリア、それにソフィア様!」
「お久し振り、サーシアちゃん!」
「はい、お久し振りです。でも何で?」
「たまにはこちらで買い物がしたくなったの。ミーリアさんとエミリアちゃんには偶然外で会って、御一緒に食事をする事になったのよ」
「そうですか。それなら、美味しいものを作りますね!」
「サーシアちゃんの料理、楽しみだわ。おすすめは何かしら?」
「新作のボロネーゼパスタです!」
「新作? じゃあ、それをお願い」
「はい! エミリアはミートソースパスタで良いのね?」
「うん!」
「ママは?」
「私も、ボロネーゼパスタにしようかしら」
「分かった。みんなパスタできるまで、これ飲んで待ってて!」
そう言って、三人分のオレンジジュースが出された。
「ありがとう、サーシアちゃん」
「わーい、ジュースー!」
『ゴクゴクゴクッ!』
「ぷはー、おいしーっ!」
「ふふっ、エミリアちゃん可愛い。私もご馳走になりましょう」
『ゴクッ!』
「あら、本当に美味しい!」
この時ソフィア婦人の緊張は、サーシアとエミリアの無邪気な笑顔と美味しいジュースで、幾分ほぐれていた。




