第二十三話 ソフィアの突然の申し出②
ソフィア様の突然の申し出に、僕は素で驚きの声を上げた。
「ニコル君。ユミナちゃんは今まで決して口に出さなかったけど、今回の件が切欠で問い詰めたら、今でもニコル君の事を想っていたの!」
「婦人、俺はヤマトだ」
僕は平静を装い、そう返すのがやっとだった。
「惚けてもダメ。旧王都が崩壊した後、あなたの正体がニコル君だって、マイク君に聞いたわ!」
『チラッ!』
『プイッ!』
僕が視線を向けると、グルジット前伯爵は顔を背けた。
「私は母親として、ユミナちゃんに幸せになって欲しいの。その為だったら恥を凌いで、ニコル君の家族にだって頭を下げるわ。それに今回の《騒動》だって、ユミナちゃんが《結婚》していれば起こらなかった筈よ!」
「・・・・・」
「ニコル君は、ユミナちゃんがこのままずっと独り身でも良いの?!」
「・・・・・」
この時僕は、ヤマトとしてどう返事を返せば良いか分からなかった。
「オホンッ! ヤマトよ、わしから一つ提案なのじゃが、この際ニコルとしてではなく、ヤマトとしてユミナちゃんを娶ってはどうか? さすればユミナちゃんに気がある貴族連中も、救国の英雄が相手となれば諦めるじゃろうて」
「賛成です。私はフリーデン公爵にユミナを諦めさせる為、『ユミナの想い人はヤマトである』と偽った。しかしそれが現実となれば、実に喜ばしい!」
「そうじゃ。ヤマトを叙爵して、フリーデン公爵領を治めさせるというのも有りじゃのう」
「それは良い。ヤマトになら、あの広大な領地を任せられる!」
僕が黙っていると、話しは在らぬ方向へと展開していった。
「二人は少し黙っててっ! 優先するのは《ユミナちゃんの幸せ》よっ!」
「「はっ、はいっ!」」
僕が否定する前に、ソフィア婦人が叱責してくれた。
ノーステリア前公爵とグルジット前伯爵は肩を落とし、意気消沈していた。
「そういう事でニコル君、ミーリアさんのところへ挨拶しに伺うわ。都合の良い日を教えてちょうだい?!」
「婦人。先刻も忠告したが、俺はヤマトだ。ニコルの《家庭の事情》など知らんっ!」
「そう、あくまでも言い張るのね。それならヤマトさん、ニコル君の説得に協力してくださらない? 確か、親しい間柄だった筈よね?」
『ニコッ!』
「くっ、断るっ!」
「そう。それなら近日中に、エシャット村のニコル君のご自宅に伺うわ!」
「勝手にしろっ! 《転移》」
『フッ!』
僕は逃げる様に、その場を去った。
フリーデン公爵の一件は、途中から《ユミナとの結婚話し》にすり変わっていた。
◇
「逃げたわね、ニコル君。ユミナちゃんを絶対あなたのお嫁さんにしてみせるから。待ってなさい!」
ソフィア婦人は、決意を胸にした。
「そっ、そうだ、ソフィア。私も一緒にミーリアさんのところへ行くよ!」
「ダーメ。マイク君がいたら、ミーリアさんが萎縮してしまうわ!」
「萎縮?」
「そうよ、仮にも元伯爵ですもの。権力を翳して、無理やりという風にはしたくないの。それにとても繊細な話しなのだから、女同士の方が良いの!」
「しかしなー」
「説得に失敗したら、マイク君は責任を取れるの?」
「責任? いや、あの、その。わっ、分かった。この件はソフィアに任せるよ」
ソフィア婦人に責められ、グルジット前伯爵はまたもや意気消沈した。
◇
僕は《転移》後変装を解き、シロンとシャルロッテの待つ《亜空間農場》に入った。
「あー、ミーリアに何て言えば良いんだーーーっ!!」
「ご主人、帰って来るなり大声で喚いてどうしたニャ?」
「ヒヒーン『ご主人様、大丈夫ですか』?」
「シロン、シャルロッテ、聞いてくれ。実は、かくかく然々で・・・・・という訳なんだ」
僕は先程までの事を、二人に話した。
「昔も同じ様な事があったニャ。ご主人はユミナママの押しに弱いニャ」
「自覚してる。何故かソフィア様には逆らえないんだ」
「『何故か』って、惚けるのは止すニャ。相手が年上で美人だからに決まってるニャ!」
「そりゃ僕だって、美人で年上に弱い時期もあったさ。でもソフィア様は、それだけじゃないんだ」
「分かった、分かったニャ。言い訳はもういいニャ。それでご主人は、本当にユミナを嫁にしないつもりニャ?」
「しないよ」
「そんな簡単に決めて大丈夫ニャ? ユミナは今や傾国の美女。国の平和の為にも、ご主人が引き取るしか無いニャ!」
「『平和の為』って、こんな大騒動を起こす奴そうそういないだろ」
「どうかニャー、分からないニャよー」
「ヒヒーン、ヒヒーン『例えば、何処かの国の王様とか』?!」
「王様って?! シャルロッテ、脅かすなよっ!」
「ヒヒーン『すみません』」
「フラグニャ、今フラグが立ったニャ!」
「シロンッ!!」
僕が悩んでいるのに、シロンが面白がっておちょくっている様に感じた。
投稿間隔が空き過ぎてしまってすみません。




