第二十二話 ソフィアの突然の申し出①
慌てて近付くフリーデン公爵の手から、魔法袋を奪い取った。
「勿論、これも没収する」
そう言い、奪った魔法袋を掲げて見せた。
「・・・・・返せっ、それは私の宝だっ!!」
フリーデン公爵は自分の左手を確認し、目の前に掲げられた魔法袋が自分の物だと気付くと、奪い返そうと腕を伸ばした。
『バスッ!』
「こいつもいただく」
僕は差し出された腕を素早くかわし、腰にぶら下げた《魔剣バルムンク》をフリーデン公爵から奪った。
「な゛っ!!」
「《物理攻撃》や《魔法攻撃》に耐性はあっても、《奪われ耐性》は無い様だな?」
この事に気付いたのは、魔法袋を奪ったたった今である。
「ぐぬぬぬっ!」
「そうと分かれば、身に付けてるアーティファクトもいただくとしよう。《影分身》x4」
『『『『スタッ!』』』』
「奴を取り押さえろ」
「「「「おうっ!」」」」
『『『『ギロッ!』』』』
四人の《影分身》は、フリーデン公爵をロックオンした。
「くっ、来るなっ! 私に近寄るなっ!」
『『『『ガシッ!』』』』
「やっ、止めろーーーっ!!」
フリーデン公爵を羽交い締めにし、両手両足を取り押さえた。
そして握り締めた拳を無理矢理開かせ、僕は一つずつ指輪を抜き取った。
「《睡眠》」
「スゥ・・・・・!」
アーティファクトの指輪を全て外し終えると、フリーデン公爵を魔法で眠らせた。
「《独立》に至った経緯は確認できてないけど、取り敢えずこいつを着けとくか」
そう言って、《亜空間収納》から《悪事矯正リング》を取り出した。
「今回みたいにアーティファクトを身に付けられたら効果は無いけど、そうそう手に入いるものでもないだろう」
《悪事矯正リング》の弱点を認識し少し不安は過ったが、この場は深く考えるのを止めフリーデン公爵の首へ取り付けた。
「さあ、後は宝物の回収だ。まあ領地運営もあるだろうし、金庫室や備蓄倉庫には手を出さないでおくよ」
この後残りのアーティファクトや高位魔道具、高位武具等を《亜空間収納》に回収した。
◇
「これで《戦力》は多少削げたけど、《独立》に至った経緯は確認しとかないとな」
回収を終え、床に横たわるフリーデン公爵を眺め呟いた。
「《睡眠解除》」
「・・・・・うっ、ううっ」
「おい、起きろ!」
「ううっ、私は眠っていたのか?」
「そうだ。俺が誰だか分かるな?」
「ヤッ、ヤマトッ!!」
「言っておくが、アーティファクトは全て没収した。無駄な抵抗はせず、俺の質問に答えろ!」
「・・・・・!」
「何故、《独立騒動》を起こした? 王国に非があっての事なら、俺は《独立》も止む無しと思っている」
「先程も言った。貴様に話す謂れはない」
「そうか。それなら、これではどうだ?」
『キッ!』
「うわーーーーーっ!!」
素直に吐きそうもないので、《威圧》スキルを放った。
「言えっ!」
「ひぃーーーーーっ!!」
「言わないと、また食らわすぞっ!」
「言わない。誰が言うものかっ!」
「強情だな」
『キッ!』
「ひぃーーーーーっ!!」
この後何度か繰り返したが、フリーデン公爵が《独立》の理由を吐く事はなかった。
「仕方ない。取り敢えず王都へ行って、事情を知る人に確かめるとしよう。《転移》」
『フッ!』
魔法でフリーデン公爵を眠らせ、一緒に王城前へ《転移》した。
◇
王城へ行くと待合室に通され、暫くしノーステリア前公爵とグルジット前伯爵が現れた。
「こ奴っ!!」
「フリーデン公爵っ!!」
二人は眠っているフリーデン公爵を、見て怒りを露にする。
僕は二人を落ち着かせ、事情を聞く事となった。
「それじゃこの男はユミナ殿下を我が物にしたいが為、『《求婚》を断った代償は周辺領地と共に《独立》し《国を興す》』と脅したのだな?」
「卑怯な奴じゃ。我々もみすみす《独立》など許す筈がない。結果、大きな争いが起こるじゃろう。こ奴はユミナちゃんが争いの火種になる事を嫌い、絶対断れんと踏んでおったのじゃ」
「ユミナは優しい娘だ。自分のせいで、多くの命が失われる事に酷く落ち込んでいたよ」
「そうか・・・・・」
僕はユミナの心情を思い、心配した。
「ヤマトよ。こ奴はヤマトのお陰で牢獄行きとなるが、この騒動暫く収まらんじゃろう。お主の力、是非我等に貸してくれぬか?」
「私からも頼むっ!」
「ちょっと待て。何故、俺に頼る? 俺はこいつを捕まえたんだ。後はあんたらがやればいいだろう」
「お主なら犠牲を最小限に抑え、直ぐに方をつけられるじゃろうて」
「今まで何度も王国の危機を救ってくれたではないか? 今更何を言う?!」
「成り行きでやったまでだ。俺は貴族の《飼い犬》になるつもりはない」
「ヤマトを《飼い犬》などと私は思ってない。これはユミナの為なんだ。大勢の犠牲が出る前に一刻も早く騒動を終らせて欲しいっ!」
「そうじゃ、ユミナちゃんの為じゃ!」
「『ユミナの為』か・・・・・」
『カツ、カツ、カツ、カツ、ガチャッ!』
「失礼致しますわっ!」
僕が悩んでいると、足音が部屋の前で止まり勢い良く扉が開いた。
「ソフィアッ!」
「マイク君。あなたの執務室へ行ったらヤマトさんが要らしてると聞いて、飛んで来たのよっ!」
「ヤマトに用事?」
「俺?」
「分かっているのよ。あなたの正体ニコル君なのでしょう。うちのユミナちゃんを《お嫁さん》に貰ってちょうだいっ!!」
「「えーーーーーっ!!」」
「なんとっ!!」
ソフィアさんの突然の申し出に、僕達三人は驚きの声を上げた。




