第十九話 フリーデン公爵対ヤマト①
フリーデン公爵が身に付けているアーティファクトは、予想していたより厄介なものだった。
物理攻撃も魔法攻撃も、通用しないのだ。
「《睡眠》×10」
『ピーンッ!!!』
「やはり駄目か」
試しに十倍の魔力を込めて魔法を放ったが、結果は同じだった。
また弾かれた時の音や光は、込めた魔力に比例していた。
「幾ら魔力を込めようが、魔法攻撃は無駄だ!」
「その様だな。だがそのアーティファクト、魔力消費が激しのではないか?」
「ははっ、心配無用。こちらの魔力は潤沢だからな!」
「・・・・・、《魔力貯蔵》のアーティファクトを身に付けているのか」
《鑑定》してみると、膨大な魔力を溜めている指輪を身に着けてている事が分かった。
「そうだ。これで理解したろう。私は『無敵』だ!」
「ふっ、笑わせる。貴様が無敵を名乗りたいなら、せめて目の前の俺を倒してからにしろ」
「ぐぬぬぬっ!」
フリーデン公爵は、悔しさに奥歯を噛みしめた。
「どうした? 『無敵』を名乗りたいんだろう。掛かって来い」
「私を舐めるなーーっ!」
『ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ!』
『スッ、サッ、サッ、スッ、サッ!』
僕は太刀筋を見切り、ギリギリのところで避けてみせた。
「遅い。それに大層な物を手にしているが、剣の腕は大した事ないな」
「クソがーっ!」
『ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン!』
フリーデン公爵は怒りに任せ、無詠唱で《風属性魔法》の《風刃》を連続で放った。
「《転移》」
『フッ!』
『ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ!』
『ガラガラガラガラガラガラッ、ガッシャーン!!』
「あっ!!」
「おいおいちゃんと狙わないと、大事な物を壊すぞ」
《転移》で《風刃》をかわすと、後ろの棚が破壊され宝が崩れ落ちた。
中には、破壊されてしまった物もある。
「ぐぬぬぬっ!」
「どうした? もうお仕舞いか?」
「貴様、卑怯だぞっ!」
「卑怯も何も、自分でやっておいてそれは無いと思うが」
「うるさいっ! 貴様のせいだっ!」
「とんだ濡れ衣だ。お前が来ないのなら此方からいく。《火属性の超級魔法》で良いか?」
「ちょっ、超級? まっ、まっ、待て! 提案がある!」
「・・・何だ言ってみろ」
「外、いや、《闘技場》へ舞台を変えないか?」
「闘技場? この期に及んで宝の心配か?」
「これからの戦局に影響するのだ。宝の心配をして何が悪い!」
「そうか良いだろう。しかし提案を飲む代わり、俺が勝ったら此処の宝は全て頂く」
「なっ!!」
考えてみれば、お宝を破壊してしまうのも忍びない。そこで条件を突き付け、提案を受け入れる事にした。
「どうする?」
「かっ、勝てば良いのだ。勝てばっ!」
この後屋敷を出て、闘技場へと向かった。
◇
「せやーっ!」
「うりゃーっ!」
「おりゃーっ!」
闘技場ではフリーデン公爵家の騎士や兵士達が、有事に備え訓練を行っていた。
「皆の者、聞けーーーっ!!」
「「「「「「「「「「こっ、公爵様っ!」」」」」」」」」」
「今直ぐ、闘技場を空けろっ!」
「はっ、はい。御命令とあらば従いますが、剣など握られてどうされたのですか?」
「決闘だ!! 英雄をこの手で倒し、『最強』の称号を手に入れるっ!」
「えっ、英雄と決戦ですか?!」
「そうだ。そこにいる黒髪の男が、《救国の英雄ヤマト》だっ!」
「ヤマト? あの男が?!」
「「「「「「「「「「ザワザワザワザワッ!」」」」」」」」」」
ざわつきと共に、皆の視線が僕に集まった。
《魔王騒ぎ》の時、この領地でも魔物の群を始末している。
そんな事もあり、ヤマトの存在は広がっていた。
「でも何故、公爵様と英雄ヤマトが決闘なさるのですか?」
「奴は我が領の《独立》を知り、私を制裁しに来たのだ!」
「なっ、ならば我々も加勢致しますっ!」
「無用だ。奴は私一人で倒す!」
「しかしっ!」
「えーい、私はアーティファクトを身に付けておるのだ。お前達は足手まといだっ!」
「はっ、はい。分かりました!」
騎士や兵士達は観客席へと下がり、僕とフリーデン公爵は闘技場の中央で対峙した。
またこの時僕の右手には、オリハルコンの剣が握られていた。
「今から私は本気だっ!」
「道理で手ぬるい攻撃だと思った。さっきまでのは本気じゃなかったんだな」
「くっ、先程は《身体強化》三倍の力だ。だが今度は更なる力を見せてやる。《身体強化》十倍だっ! ぬおーーーっ!!!」
《魔力感知》スキルで、フリーデン公爵の纏う魔力が色濃くなるのが分かった。
「行くぞっ!」
『ビュンッ!』
フリーデン公爵は、先程とは見違える早さで間合いを詰めた。
『ブオンッ!!!』
『ガギーーーン!!!』
しかし僕にとって、余裕で対処できる早さと攻撃力だった。
「なっ!!」
「お前への攻撃が効かない様に、俺への攻撃も効かない。だがこの剣を使って、もう一度試してやる」
『ヒュンッ!』
『ガギーーーン!!!』
『ピーーーンッ!!!』
オリハルコンの剣は、フリーデン公爵の纏う障壁にあっさりと弾き返されてしまった。
どちらも決め手に掛ける闘いとなった。




