第十八話 新たな魔王
気配を消した僕の存在に気付く察知能力、醸し出されるオーラ、そしてその言動から、目の前の偉丈夫は『《魔王》なのでは』と僕は疑った。
「ところで、あんた誰なんだ?」
それを確かめる為、僕は率直に聞いた。
「我か? 我はロキ。まおぅ」
「わっ、馬鹿っ! 正体を明かす気かっ!」
『クワッ!』
ロキと名乗る偉丈夫は、フリーデン公爵の言動に表情が変わった。
「お主、我を『馬鹿』と申したな?」
「あわわわわわわわっ、すっ、すまん! 本心ではないんだ!」
「気を付けろ。お主の様な小者が我を愚弄すれば、次は命が無いと思えっ!」
「ひぃーーーっ!」
フリーデン公爵の顔は、思いっきり引きつっていた。
「あんた、魔王なのか?」
「その通り。我の正体を知り、退治する気にでもなったか?」
「いいや。あんたからは悪意や殺気を感じない。争う必要は無いだろう」
「そうか。お主は話しの分かる奴なのだな。しかし遊び相手に不自由しておるなら、場所を変え相手をしてやっても良いぞ!」
「遠慮しておく。今はこの男にこいつを嵌めたいんだ」
そう言って、《悪事矯正リング》を見せた。
「ああ、構わんぞ。我にこ奴を助ける義理は無い」
「そうか、じゃあ」
「待て、ヤマトッ! 王国とは関係無いと言ったな。金なら幾らでも出す。公国を樹立したら爵位を授け領地もやる。私の陣営に付かないかっ?!」
「断る。俺は《戦争》が無くなれば、それで良い」
「はははっ、こ奴にも振られおったか。お主は人望が無いのう」
「くっ、かくなる上は。《転移》!」
『フッ!』
「なっ、消えた!」
フリーデン公爵を魔法で眠らせようとした矢先に、姿を消されてしまった。
「《転移の指輪》を使いおったな」
「《転移の指輪》?」
「ダンジョンで手に入れたのだ」
「そんな凄い物を、手に入れていたのか?」
「お主には必要あるまい?」
「ステータスを見たのか?」
「ああ。それに姿を偽っている事もお見通しだ」
「魔王の《魔眼》、誤魔化しは利かないか」
「その口振り、もしや我以外の魔王に会ったか?」
「ああ、だが敵対はしていない。良い関係だ」
「ふっ、それでは我とも良い関係を築こうではないか?」
「良いだろう。しかし今は奴を追うのが先だ」
「そうか。だが一つ言っておくが気を抜くな。奴はアーティファクトを溜め込んでおるからな」
「ああ、分かった」
《地図》機能でフリーデン公爵の居場所を突き止めると、僕は急いでその場所に向かった。
◇
その頃のフリーデン公爵。
「だー、くそっ! 何故あんな奴が、私のところへ来るんだっ!」
転移場所の地下保管庫で、怒りを露わにしていた。
此処には、ダンジョンで手に入れた多くの魔道具やアーティファクトを保管している。
「兎に角、奴に抵抗できる備えをしなければっ!」
そう言って様々なアーティファクトを選び、身に付けていった。
《超身体強化の指輪》・《物理攻撃無効の指輪》・《魔法攻撃無効の指輪》・《状態異常無効の指輪》・《超魔力貯蔵の指輪》・《魔法無詠唱の指輪》・《魔剣バルムンク》といった品々である。
「ぬはははっ、これで私は無敵だーっ!」
フリーデン公爵はアーティファクトを身に付けると、叫びを上げた。
◇
『ガチャッ!』
フリーデン公爵のいる場所へ辿り着くと、扉の鍵を魔法で解除した。
『ギーッ!』
そして扉を開くと、広い部屋の奥にその姿はあった。
「ヤマトッ!」
「逃げても無駄だ。観念しろ」
「良く此処が分かったな。それに扉の鍵の開錠。流石だ。だが私は先程までの私ではないぞ!」
「アーティファクトを身に付けたか?」
「その通り。今の私なら貴様にも勝てる!」
「大した自信だ」
「ハッタリではない事を、今から証明しよう!」
そう言うと、剣を鞘から抜き構えた。
その剣は魔力を纏い、紫色の光を発した。
『シュバッ!』
次の瞬間、フリーデン公爵が素早い動きで間合いを詰めてきた。
『ブオンッ!』
その勢いで、剣を袈裟斬りに振るった。
『スッ!』
僕は剣の軌道を見切り、ギリギリ避けた。
『ズザザザザザザッ!』
その斬撃は、後方の壁や床を破壊した。
『ドスッ!』
しかし僕はそれと同時に、左フックを脇腹に放った。
「何かしたか?」
フリーデン公爵は僕を見下ろし、言い放った。
「ノーダメージか。ならば、《睡眠》」
『ピーンッ!』
フリーデン公爵の体が音と共に一瞬光り、魔法を弾き返した。
「ふはははっ! 貴様の打撃も魔法も、私には効かんっ!」
「厄介な」
僕は魔王ロキが助言した言葉を、改めて実感した。




