第十七話 フリーデン公爵邸、潜入
2023/04/09 一部内容の修正をしました。
フリーデン公爵領の領都とダンジョンの街は隣接しており、翌日の午後には領都の直ぐ近くまで来ていた。
「ご主人、兵士がいっぱいいるニャ!」
視力の良いシロンが不穏な状況を察知し、知らせてくれた。
僕は《身体強化》スキルで視力を強化し、前方を注視した。
すると領都を囲う壁の上や門の回りに、多くの兵士が配備されていた。
「シャルロッテ、停まってくれ」
「ヒヒーン『はい、御主人様』!」
シャルロッテはスピードを落とし、道の端に停車した。
「流石領都だけあって警戒が厳しいな。このまま進むと面倒な事になりそうだ」
「どうするニャ?」
「そうだな・・・・・。二人は《亜空間農場》で待っててくれないか? 単独で忍び込んで様子を見てくるよ」
「分かったニャ」
「ヒヒーン『分かりました』!」
一旦人目につかない場所に移動して、僕達は《亜空間農場》に入った。
◇
僕は茶髪に眼鏡という目立たない風貌に変装し、《転移魔法》で領都に侵入した。
しかし領主邸に行く前に、少し街の様子を窺う事にした。
「貴様、何だそのへっぴり腰はっ!」
「すっ、すみません!」
軍の施設では、徴兵された新兵の訓練が行われていた。
「そんなんでは、我々の新しい国は守れんぞ。気合いを入れろっ!」
「はっ、はいっ!」
「良く見ていろ。剣はこう振るんだっ!」
『ブオンッ!』
「うわっ!」
『ドスッ!』
教官の剣が鼻先に振られ、新兵は驚いて尻餅をついてしまった。
「戦争の準備は進めてる様だが、こんなんじゃ王国が攻めてきたらとてもじゃないが耐えられない。フリーデン公爵は、一体何を考えているんだ?」
街の様子を一通り見終わると、僕はフリーデン公爵邸に向かった。
◇
その頃のフリーデン公爵邸。
「ロキ殿、お願いだ。私に力を貸してくれ!」
「何だ、またダンジョンの《宝箱》のリクエストか?」
『パクッ!』
『ロキ』と呼ばれた白髪の偉丈夫は、言葉を返しながらイチゴのショートケーキを口に運んだ。
「違う。フリーデン公爵領は近々エステリア王国から《独立》する。そうすれば王国との戦争になる可能性が高い。我々の独立を成功させる為に、その絶大な力を貸して欲しいのだ!」
「勝ち目の無い戦を仕掛けるとは、お主は馬鹿だったのだな。我は人間同士の戦に力は貸さんぞ」
「そこを何とか頼んでいる!」
「駄目だ。お主と我との契約は、スイーツと極上の酒の対価に《望みの品》を宝箱に入れるだけだ」
「それはそうだが、今までコツコツ手に入れたアーティファクトだけでは王国を相手にするには心許ないのだ!」
「アーティファクトが足らぬのなら、ダンジョンに取りに行けば良いだろう」
「簡単に言うが、行けば多大な被害が出る。今は大事な戦力を失う訳にいかぬのだ!」
「我の知った事ではない」
『パクッ!』
「それにしても、このイチゴのショートケーキは旨いな!」
この後二人の会話は、平行線を辿った。
◇
僕は地味な茶髪からヤマトの姿に変装を変え、大豪邸の領主邸に忍び込んだ。
そしてフリーデン公爵のいる執務室の前に着くと、聴力を強化し聞き耳を立てた。
「怪しい気配がするな」
「何っ?!」
しかし直ぐに、気付かれてしまった。
「巧妙に気配を消しているが、扉の裏で聞き耳を立てているのはバレてるぞ」
『ガチャッ!』
何もかもを見透かすその声音に、僕は観念し扉を開けた。
「貴様、屋敷の者ではないな。何者だ?!」
「ヤマト」
「ヤマトだと? ・・・・・その黒髪、まさかあのヤマトなのか?!」
「ああ、恐らくそのヤマトで合っている」
「我が《恋敵》(ボソッ)」
「何か言ったか?」
「何でもないっ! それより貴様、国の《英雄》が屋敷に忍び込んで王国の手先に成り下がったか?!」
「王国? 王国と俺とは関係無い。俺はフリーデン公爵領の《独立》騒ぎを聞き、真相を確認しに来たまでだ。それでお前の答弁に正当性が認められれば、取り敢えず口出しはしない」
「真相だと? 貴様に話す謂れはない!」
「だったら容赦無く、これを使わせて貰う」
そう言って僕は、《亜空間収納》から《悪事矯正リング》を取り出した。
「それはミスリル製のリング! もしや《金髪の悪魔》が使うというあれか?!」
この時僕は、素の自分が『金髪の悪魔』と呼ばれている事を知った。
「金髪の悪魔? ああ、奴は俺の友人だ。これも奴から譲り受けた。ちなみにこいつは《悪事矯正リング》という」
「《悪事矯正リング》」
フリーデン公爵は名前を復唱し、《悪事矯正リング》を凝視した。
「ロッ、ロキ殿。助けてくれ!」
「我とこ奴が争えば、この領都は瓦礫の山と化すぞ。その覚悟があって申しておるのか?」
「そんなっ!」
フリーデン公爵はそう叫んで、悲壮な表情を浮かべた。
またこの時僕は、『目の前の偉丈夫は、もしや《魔王》じゃなかろうか?』と疑っていた。




