第十六話 情報収集で一触触発?
王国兵とフリーデン兵による一触即発の不安は、《剣聖》ヒースクリフの出現によって収まった。
一見平和的に解決した様に見えるが、《絶対強者》の出現に王国兵が屈した形だ。
しかしこのまま王国が黙ってる筈もなく、この先大規模な衝突がきっと待っている。
だがそんな心配はよそに、ダンジョンはフリーデン公爵領の領民の手で運営された。
「《独立》の理由ですか?」
「うん、何か聞いてないかな?」
混乱の最中僕は駐車場に馬車を停め、受付で情報収集を試みた。
「私は何も知りませんよ」
「そうかー、知らないのかー。それじゃもう一つ質問?」
「はい、どうぞ」
「ダンジョンはこの先、安全でいられるのかな? 王国が此処を奪還に来たら、紛争に巻き込まれたりしない?」
「それは私に聞かれましても・・・・・」
「なら此処の偉い人に聞いてみたいんだけど?」
「施設長は忙しくしており、緊急の用事でない限りお取り継ぎできません」
「そうなんだ。でも僕以外にも、気になってる人がいるみたいだよ」
『『『『『ジーーーッ!』』』』』
会話が聞こえたのか、視線が僕達に集まっていた。
「そんなに見詰められても、私困ります!」
「おいおい。俺達、戦争に巻き込まれるのは御免だぜ!」
「稼げるからこの街にいるのに、どうしてくれんだよ!」
「他所のダンジョンに、行っちまうぞ!」
「すみません・・・・・」
受付嬢はギャラリーから責められ、小さくなってしまった。
「何を騒いでる!!」
「「「「「げっ!」」」」」
「ヒースクリフ様!」
そこへタイミング悪く、剣聖ヒースクリフが現れた。
「受付、話せ!」
「はっ、はい。あのー」
受付嬢は言いにくそうに、僕に視線を向けた。
「騒ぎの元凶はお前か?」
「騒ぎたてるつもりは無かったんですけど、そうなりますね」
「何を騒いでいた?!」
「いえこのダンジョンや街が、王国との紛争に巻き込まれるのではないかと心配で」
「要らぬ心配だ。私がいる限り、王国兵は《フリーデン公国》に一歩も踏み入れさせん!」
「本当ですか? 公爵領は広いんですよ。多方面から一斉に攻められたら、どうするおつもりですか?!」
「私に意見する気か?! 貴様に戦争の何が分かる?!」
「分かりません。しかし多くの死者や怪我人、困窮者が出るのは分かります。一体この《独立》に、何の意味があるのです?!」
「平民の貴様に、答える義務は無い!」
「そうやって逃げるのですか?!」
「生意気な!」
『ギンッ!』
ヒースクリフは僕に向かって、《威圧》スキルを放った。
『・・・・・!』
しかし僕は、何の反応も示さなかった。
「おい、貴様! 何も感じないのか?」
「えっ、何がです?」
「私は今、《威圧》スキルを放ったのだぞ!」
「気付きませんでした」
「レジストアイテムか鈍感なだけか、それとも相当な強者か。貴様、何者だ?」
「私ですか? 商人ですよ。時々ダンジョン探索もしておりますが」
「表の顔の話しか? 本当は王国の回し者なのだろう?」
「違いますよ!」
「白々しい!」
『ブオッ!』
『バチーン!』
ヒースクリフは右腕を自分の左肩に振り上げると、そのまま僕の顔を目掛け振り払った。
しかし僕はその動きに反応し左手で受け止めた。
「危ないじゃないですか?!」
「相当の実力者だな。やはり貴様は怪しい。拘束する!」
「そんな理不尽なー。私は王国の回し者なんかじゃないですよー!」
「言い訳は後で聞く!」
この時、シャルロッテとシロンを待たせている事が頭を過った。
「こうなったら仕方ない。《睡眠》!!」
「うっ、何だ。急に眠気が」
「意識がまだあるなんて、流石《剣聖》ですね」
念の為魔法には、通常の五倍の《魔力》を込めていた。
「これは魔法なのか? しかし《詠唱》はしていなかったぞ・・・・・」
「とにかく私は、王国の回し者ではありませんから。拘束されるのは嫌なので失礼します」
「まっ、待て。お前達、奴を捕まえろ・・・・・」
「「「はっ、はい!」」」
この後追ってきた兵士を眠らせ、ダンジョンを去った。
◇
「ダンジョンの乗っ取りまでして、フリーデン公爵領の《独立》が現実味を帯びてきたな」
「戦争が起きる前に、フリーデン公爵に《悪事矯正》リングをつけた方が良いニャ!」
「でもさ、本人の言い分も聞かず『フリーデン公爵が悪い』とも言い切れないよな」
「それなら直接本人に会って、理由を聞くしかないニャ。ご主人が脅せば、簡単に口を割るニャ!」
「それじゃまるで、僕が《拷問官》みたいだな。でもまあ、否定はできないか」
《検索》スキルでフリーデン公爵の居場所を確認すると、領都にいる事が分かった。
僕達は足早に、領都を目指した。




